子どもでも「オルソケラトロジー」を受けて視力回復はできる? 適応基準や開始時期、効果について
就寝中に装着したコンタクトレンズで角膜の形状を整えて近視を矯正する「オルソケラトロジー」。日中を裸眼で過ごせる「見た目や利便性の向上」に加えて、「近視進行の抑制効果」も望めるそうです。そうなのであれば、子どものうちから抑制したくなるのが親心だと思います。今回はオルソケラトロジーの開始時期について、「月寒すがわら眼科」の菅原先生を取材しました。
監修医師:
菅原 敦史(月寒すがわら眼科 院長)
札幌医科大学医学部卒業。札幌医科大学眼科教室入局後、道内の基幹病院眼科勤務や札幌医科大学眼科の助教などを務める。2019年、北海道札幌市に「月寒すがわら眼科」を開院。モットーは「やさしく、丁寧に、最善の医療を」。医学博士。日本眼科学会専門医・光線力学的療法(PDT)認定医・ボトックス認定医。
オルソケラトロジーは子どもでも適応可能
編集部
近視矯正のオルソケラトロジーは、小学生でも可能ですか?
菅原先生
結論からいえば、治療は可能です。早い例では、6歳から開始しているクリニックもあります。なお、2017年“以前”の診療ガイドラインでは、20歳未満が「禁忌」とされていました。ところが、実際の臨床でオルソケラトロジーは12歳以下の学童に非常に有用であるとわかり、2017年にガイドラインが改訂されました。そのため、20歳以上の適応が原則で、20歳未満は「慎重処方」という書き方になっています。
編集部
他方、「レーシック」などには年齢制限がありますよね?
菅原先生
はい。18歳以上が適応ですので、小・中・高校生は適応外です。10代のうちは体も眼も成長するので、レーシック治療によってその時点の近視を治すことはできます。しかし、その後に近視が進んで裸眼視力が再び低下してしまう可能性があります。オルソケラトロジーであれば、近視が進んだとしても改めてオルソケラトロジーレンズを更新することで矯正できます。随時、そのときの視力に対応できるわけです。
編集部
オルソケラトロジーが受けられないケースはありますか?
菅原先生
強度の近視や乱視がある人は、治療の適応外になってしまいます。目安として、「本に書いてある文字を、普通の距離から裸眼で読めない」程度になると“強度”と考えられます。また、オルソケラトロジーはハードコンタクトレンズを装用して、仰向けで睡眠することによって効果が得られる治療です。よって、睡眠時間が十分に取れて、仰向けで寝られることも必要な条件です。寝相が悪いお子さんだと、治療効果がで出にくいかもしれませんね。
編集部
受けられるかどうかは、年齢だけでなく、装用中の観点も加わるのですね。
菅原先生
そうです。ただし、オルソケラトロジーのコンタクトレンズを装用して睡眠できるかどうかは、やってみなければわかりません。そのため、まずはお試しとして貸し出されたコンタクトレンズで視力改善が感じられるかやってみて、うまくいくならば本格運用となります。
子どもにオルソケラトロジーを受けさせるべき?
編集部
オルソケラトロジーの適応があれば、率先して受けるべきでしょうか?
菅原先生
費用がやや高額ですし、向き不向きもあるので、率先して受けるべきとは思いません。オルソケラトロジーが向いているのは「裸眼で見ることにこだわりがある人」です。高校生以上になって使い捨てコンタクトレンズに切り替える人もいらっしゃいます。
編集部
開始時期ややめる時期は自由なのですよね?
菅原先生
そうなのですが、オルソケラトロジーが強度の近視に適応できないので、「そこまで進む前」の早い段階で開始することをおすすめします。18歳になればレーザー手術やコンタクトレンズという選択肢が加わりますので、その年代以前をメガネで過ごすかオルソケラトロジーで矯正するか、という選択になります。
編集部
「目にモノを入れる」となると、やはり感染症が心配です。
菅原先生
滅多にありませんが、感染症が生じる可能性はゼロではありません。充血と痛み、視力低下を感じる場合は、ためらわずに眼科を受診してください。なお、夜間に目が乾燥する人は、コンタクトレンズを着脱する前後に「人工涙液」を使用するとより快適に治療できます。このように、裸眼の快適さ、目の疾患リスク、脱着の手間などの問題を各人がどう受け止めるかによって、オルソケラトロジーを受けるかどうかの結論が変わります。
眼科医が教える近視を抑制する方法
編集部
子どもに対して、生活上の近視抑制対策も取り入れたいです。
菅原先生
子どもの“屋外”活動の時間を増やすと、近視のリスクが低くなる報告は多数あります。具体的には、「1日2時間以上の屋外活動で近視発症の割合を低くすることができる」と言われています。なお、屋外活動の中の何が近視を抑制するのか、はっきりとした結論は出ていませんが、太陽光に含まれるバイオレットライトとの関連性が研究されています。
編集部
テレビやゲームなどの画面を近くで見てはいけないという話はよく聞きます。
菅原先生
そうですね。近くでモノを見る作業が近視を進行させるという注意は、古くから言われています。加えて現代では、タブレットやスマホなどのデジタルデバイスの使用頻度、時間が増えています。視距離20cm以下の近業は近視を進行させやすいと言われていますので、最低でも30cm以上の視距離をとることを推奨しています。
編集部
近視が進行するとどうなるのでしょうか?
菅原先生
近視の進行によって、眼の病気になりやすくなります。具体的には、緑内障や網膜剥離、黄斑変性など、失明リスクのある病気の罹患率が上がります。人生100年時代と言われる中、近視がどんどん進んでしまうと、高齢になった際に視機能を維持できていない将来が待っているかもしれません。その意味で、近視の進行予防に取り組むことをおすすめしたいです。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
菅原先生
今回はオルソケラトロジーについてのテーマですので多くは語りませんが、点眼による近視進行予防治療もあります。低濃度アトロピン点眼液を1日1回点眼するだけの治療なのですが、オルソケラトロジーと併用することにより相加効果があると報告されています。こうした情報も、眼科を受診して知っておいていただければと思います。
編集部まとめ
世界的な長寿国と言われている日本で若い時代から近視になると、当然ですが「近視の目」で過ごす人生が長くなります。そして、緑内障や網膜剥離、黄斑変性などの発症を前倒しにもするようです。ただし、オルソケラトロジーは今のところ自由診療ですからマストではありませんし、子どもの意見と保護者の意見が合わないこともあるでしょう。また、オルソケラトロジー以外にも近視抑制策はあります。治療方針を含めて、一度眼科医に相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒062-0053 北海道札幌市豊平区月寒東3条11丁目1-36 ブランチ月寒メディカルスクエア1F |
アクセス | 地下鉄東豊線「福往駅」 徒歩11分 地下鉄東西線「南郷13丁目駅」 徒歩15分 |
診療科目 | 眼科 |