緑内障の目薬には副作用やさし忘れの懸念が! レーザー治療だけで眼圧調整できるようにならないの?
どんなに効き目のある薬でも、もっているだけでは効果を発揮しません。通常なら飲み忘れ、目薬ならさし忘れが該当します。さらに副作用が懸念されるとしたら、前向きに使用できないかもしれません。そこで気になるのが、緑内障のレーザー治療です。はたしてレーザーで緑内障を治すことができるのか、「月寒すがわら眼科」の菅原先生が解説します。
監修医師:
菅原 敦史(月寒すがわら眼科 院長)
札幌医科大学医学部卒業。札幌医科大学眼科教室入局後、道内の基幹病院眼科勤務や札幌医科大学眼科の助教などを務める。2019年、北海道札幌市に「月寒すがわら眼科」を開院。モットーは「やさしく、丁寧に、最善の医療を」。医学博士。日本眼科学会専門医・光線力学的療法(PDT)認定医・ボトックス認定医。
目次 -INDEX-
緑内障のレーザー治療とは
編集部
緑内障って、眼圧が高くなったままになる病気ですよね?
菅原先生
緑内障は「眼圧が高いとなる病気」というイメージが一般的にあるものの、必ずしもそうではありません。国内で疫学調査をしたところ、日本人の緑内障患者の約7割が正常の眼圧だったそうです。ただし、どのタイプの緑内障であっても、最も効果的な治療は眼圧を下げることです。そして、眼圧を下げる方法として第一におこなうのは「点眼薬」、つまり目薬です。
編集部
わざわざ、手術をするまでもないということですか?
菅原先生
いいえ、そうとも言えません。緑内障の目薬には、薬剤アレルギーや色素沈着といった副作用のリスクもあり、相性の悪い人は継続困難なことがあります。そもそも「毎日、忘れずに点眼する」という習慣は想像以上に難しく、「緑内障と診断された患者さまの4分の1以上が、点眼開始後3カ月で治療から離脱してしまう」という報告もあるほどです。そこで、レーザー治療が点眼を継続できない患者さんにとって助けになります。
編集部
そもそも、緑内障のレーザー治療って何をするのですか?
菅原先生
茶目の一番外側の部分に線維柱帯(せんいちゅうたい)と呼ばれる「眼球内の水の排水口」のような箇所があります。この排水口にゴミのようなものがたまって水をうまく排出できなくなると、眼圧が上がってしまいます。レーザー治療は、詰まった部分にレーザーを照射して流れを改善させて、眼圧を下げていく治療法です。
編集部
都合よく「排水口のゴミだけ」に反応するのですか?
菅原先生
おおむね、そういう理解で構いません。ただし、一般的なレーザー(アルゴンレーザー)の場合、どうしても正常組織にダメージを与えてしまうため、かつては安易に適応できませんでした。そこで注目されてきたのが「SLTレーザー」を用いた治療です。SLTレーザーは、色素が含まれる細胞のみに反応します。目の排水口のゴミにも色素は含まれているため、安全に照射することができるのです。
編集部
医師の腕が確かなら、普通のレーザーでもSLTレーザーでも変わらないですか?
菅原先生
アルゴンレーザーによる治療は、高い確率で合併症が生じます。これは医者の腕が良くても同じでしょう。また、線維柱帯を損傷させてしまうため、後日、眼圧が上昇しても再照射することができません。一方のSLTレーザーは、合併症の頻度は低く、与えるダメージも少ないため、眼圧が再上昇したとしても繰り返し治療できます。
点眼とレーザーの比較
編集部
仮にSLTレーザーの適応があったとしたら、「目薬要らず」になるのでしょうか?
菅原先生
自分の考えとしては、SLTレーザーの目的を「目薬要らず」にしたくはないですね。緑内障治療の第一選択は点眼であり、「点眼治療で目標眼圧を達成できない場合や点眼治療を続けるのが困難な場合に、レーザー治療をおこなう」というのが標準的な考え方となります。
編集部
しかし、点眼治療が続くと副作用のリスクも続くわけですよね。
菅原先生
そうですね。緑内障の点眼治療の第一選択は、安全性・効果・耐性に優れた「プロスタグランジン関連薬」というタイプの目薬です。1日1回の点眼でいいので、これからも緑内障治療の中心であると思います。その一方で、眼瞼色素沈着やまつ毛が濃くなるといった副作用に悩む患者さんが多く存在するのも事実です。
編集部
点眼治療が困難な例はありますか?
菅原先生
先ほどお話した点眼し忘れに加えて、加齢や視力低下により点眼がうまくできない例や、新型コロナウイルス感染症の流行で通院が困難になりどうしても点眼を継続できない例が増えてきました。そのような場合はSLTレーザーが大変有用で、20~30%程度の眼圧下降が期待できます。近年の大規模な研究によると、SLTレーザー治療をおこなった人の74.6%は、3年間点眼せずに眼圧をコントロールできたそうです。ただし、SLTレーザーは20~30%の無効例がいるとも言われています。
編集部
レーザーで眼圧が下がるかどうかは、「やってみないとわからない」のですか?
菅原先生
どの治療方法にも共通することですが、「必ず効果が出る」とは言いきれません。点眼薬が不要になる可能性があるレーザー治療は魅力的な“手段”ですが、最も大事な“目的”は視機能の維持・増悪予防です。その目的のためなら、点眼治療とレーザー治療の併用も大いにあり得ます。
編集部
治療成績を考えると、費用や保険の適用も気になります。
菅原先生
緑内障のSLTレーザー治療は保険が適用されるので、3割負担で片目あたり約3万円の自己負担額となります。さらに、生命保険の医療保障の給付対象になることが多いので、保険会社に確認することをおすすめします。
緑内障治療の目的
編集部
先ほどの追跡調査は3年間でしたが、その後、緑内障が再発することもあるのですか?
菅原先生
眼圧が再上昇する可能性はあります。ただし、SLTレーザーには「複数回、繰り返せる」というメリットがあります。そのため、初回のSLTレーザー治療で合併症がなく有効だった場合は、再上昇時もSLTレーザー治療を推奨します。
編集部
レーザー治療の効き目が得られなかった場合、直接的な手術という方法もありますか?
菅原先生
前提として、緑内障の手術の適応は「眼圧」と「視野の悪化のスピード」の2点で考えます。点眼やレーザー治療をおこなっても眼圧が高く、視野の悪化のスピードも速い場合は、手術が必要です。他方、眼圧が低い場合は手術の適応になりませんし、視野の悪化がない場合も手術は不要だと考えます。
編集部
緑内障で眼科を受診する際、気をつけたいポイントはありますか?
菅原先生
緑内障治療が長期戦であることを考えると、「緑内障の検査や治療方法をアップデートしている眼科」で診療を受けるのが理想的です。SLTレーザー機器を有する眼科であれば、緑内障治療の選択肢の1つとしていいのではないでしょうか。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
菅原先生
手術にしても点眼薬にしても「進行を遅らせること」が治療の目的であり、緑内障が完治するということはありません。ところが「レーザーで目薬要らず」と聞くと、あたかも緑内障が治るかのように誤解されかねないのです。総じて、緑内障治療に絶対的な正解はなく、長期戦の中で個々の症例の状況や患者さまのご意向から導き出されるべきものだと考えます。
編集部まとめ
緑内障のレーザー治療後を追跡した調査によると、「術後3年間、点眼せずに眼圧をコントロールできた」ということでした。なお、この報告には、それ以後の経過が含まれていません。全体の74.6%の結果であり、「手術を受けた人全てにあてはまる」わけではありませんでした。また、SLTレーザーは点眼以外の治療の選択肢として非常に有用な治療ですが、「点眼要らず」にこだわりすぎて視機能を損なうことは本末転倒です。緑内障治療に関する不安があれば、点眼治療やSLTレーザー、手術治療の適応について主治医に相談されてみてはいかがでしょうか。
医院情報
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アクセス | 地下鉄東豊線「福往駅」 徒歩11分 地下鉄東西線「南郷13丁目駅」 徒歩15分 |
診療科目 | 眼科 |