「片頭痛の治療にパラダイムシフトが起きた」新薬登場で専門医がそう語ったワケ
片頭痛の治療方針を一変させるとの評判が飛び交いはじめている新薬。しかし、誰でも処方の対象になるわけではないようです。そこで、新薬についての講演もされている「仙台頭痛脳神経クリニック」の松森保彦先生に解説してもらいました。「パラダイムシフトが起きた印象」。そう語る理由とは?
監修医師:
松森 保彦(仙台頭痛脳神経クリニック 院長)
山形大学医学部卒業。国内外の大学病院や脳神経外科病院で診療経験を積んだ後の2015年、宮城県仙台市に「仙台頭痛脳神経クリニック」開院。受診の敷居を低くし、頭痛のチーム医療にも取り組んでいる。医学博士。日本頭痛学会認定専門医・指導医・代議員、日本脳神経外科学会認定専門医、日本脳卒中学会認定専門医、日本認知症学会認定専門医。仙台市医師会理事。
医師の間でも十分に知られていない最新事情
編集部
片頭痛に画期的な新薬が登場したと聞きました?
松森先生
はい。2021年の4月に「エムガルティ」、8月から「アジョビ」「アイモビーグ」が加わり、計3剤が処方可能となりました。今までの頭痛の治療はどちらかというと、「起きてしまった頭痛を鎮める」ことに注目されていましたが、これら新薬は、「定期的に投与して片頭痛そのものを抑える」効果があります。頭痛を予防する薬もあるにはあったものの、もともと片頭痛以外に使う薬が、片頭痛抑制効果があるとのことで使われるようになっていました。今回、片頭痛専用の予防薬の登場によって、頭痛診療にパラダイムシフトが起きています。
編集部
治療成績はどうなっていますか?
松森先生
3剤の効くメカニズムや実際の効果、価格はほぼ同じと考えていただいて構いません。これまでの治験の報告などによると、「片頭痛の起きる日数が半分以下になった方」が約5割、「片頭痛が全く起きなくなった方」が約1割いらっしゃいます。
編集部
新薬は誰でも、どんな片頭痛でも、投与してもらえるのですか?
松森先生
いいえ。厚生労働省の最適使用推進ガイドラインで治療を受けることのできる患者さんが決まっています。また、処方ができる医師も頭痛専門医、脳外科専門医、脳神経内科専門医、総合内科専門医に限られています。
編集部
処方条件には、どのようなものがあるのでしょう?
松森先生
患者さんの条件として、
①国際頭痛分類の診断基準で片頭痛と正しく診断されていること
②片頭痛が過去3カ月の間で、平均して1カ月に4日以上起きていること
③従来の片頭痛予防薬の効果が不十分か、副作用などによって内服の継続が困難であること
などがあります。
副作用の少なさから安全性が認められている
編集部
仮に処方が認められた場合、どのような流れになりますか?
松森先生
まずは既存の内服薬による予防治療行うことが必要です。それでも効き目がなかったり、副作用で続けることができなかったりしたときに、改めて新薬の処方を検討します。基本的に、どの薬も1か月おきに1回ずつ皮下注射をしますが、薬によっては3か月おきにまとめて注射する方法が選べます。
編集部
どの新薬にも、保険が認められているということですか?
松森先生
認められています。薬価単体はいずれの薬もほぼ同じで、3割負担の保険で、1回あたり約1万3000円前後の自己負担額になります。ほかに、診察料や処置料などが必要です。注射後に眠気が出るなどの副作用もなく、車での来院も可能です。
編集部
効き目はどのくらいから現れるのですか?
松森先生
早い患者さんでは注射の翌日から効果を実感できる方もいらっしゃいます。また薬を飲まなくてもすむ程度の軽い頭痛にかわったり、吐き気や嘔吐がなくなったりと、いろいろな効果を実感できるようです。片頭痛は生活の質を下げ、仕事を休むようなこともあります。こうしたつらい片頭痛から解放されたとの声が多く聞かれています。
編集部
効果があるのはうれしいですが、気になるのは副作用です。
松森先生
注射した部分の赤みや腫れが主な副作用です。もちろん薬剤一般に言える、アナフィラキシーなどにも注意が必要ですが、重い副作用はほとんどないとされています。また、従来の内服薬に起きやすかった眠気やふらつき、めまいなどの副作用は、 “ほぼ”ないといえます。飲み合わせの悪い薬も基本的にありません。安全性が高くて「使いやすいお薬」といっていいのではないでしょうか。
頓服ではなく予防薬として用いる
編集部
1カ月ごとの注射というと、その間「効き目が残っている」ということでしょうか?
松森先生
投与してから体に残っている薬の濃度が半分になる期間を半減期と言いますが、この薬の半減期は約30日です。そのため、1カ月ごとに注射をします。
編集部
そうなると、長期投与ができるかどうか期待してしまいます。
松森先生
海外からの報告も含め、さまざまな情報がありますが、基本的には「3回注射して効果がみられなかったら、いったん見直しましょう」という方針にすることが多いです。もちろん、続けることで効果が出てくることもありますし、改善した状態を維持させるために継続して治療することも可能です。「薬からの卒業」も十分期待できるようになってきました。
編集部
医師が慎重な場合、新薬に消極的ということも考えられますよね?
松森先生
片頭痛の新薬に限らず、起こりえる話でしょうね。ですから、どの病院、クリニックでも扱っているわけではありません。関心がある方は、事前に電話やインターネットなどでクリニックの情報を調べておいたほうがいいでしょう。必ずしも大きな病院であれば扱っているというわけではありません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
松森先生
片頭痛をより特異的に“予防”できる、かなり革新的な薬が登場しました。また、海外ではほかにも新しい薬剤が使用できるようになってきています。日本にも今後導入される可能性もあり、頭痛の治療は「痛み止めをお出ししますので様子を見ましょう」から、「頭痛が起きないようにしていきましょう」という、予防に焦点をあてた治療にシフトしていくと考えられます。適切に対応すれば、頭痛のために損なわれていた日常を取り戻すことができます。あきらめずに治療に取り組んでいきましょう。
編集部まとめ
片頭痛は、目に見えないけれども生活に大きな支障をきたす病気で、その仕組みが良くわかっていませんでした。しかし、謎の正体が次第にわかりかけてきた印象です。ただし、このパラダイムシフトが隅々まで周知されていくには、患者側と医師側の双方において、まだ多少の時間を有しそうです。今後、片頭痛への理解が進み、辛い思いをする人が減っていくことを切に願います。
医院情報
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診療科目 | 神経内科、脳神経外科 |