痛み止めと神経ブロック療法の大きな違い、「神経ブロック療法は慢性的な痛みの改善に効果的」
ケガや病気による痛みは非常に大きなストレスになり、生活の質そのものを低下させてしまいます。そんな時に助けになるのが「痛み止め」。実は、一般的な痛み止めの内服薬のほかに、「神経ブロック療法」で対処する方法もあります。今回は痛み止め薬と神経ブロック療法のそれぞれの役割について、「はるみクリニック」の中山先生に解説していただきました。
監修医師:
中山 晴美(はるみクリニック 院長)
筑波大学医学専門学群(現・医学群医学類)卒業。筑波大学大学院博士課程修了。その後、筑波大学附属病院麻酔科や筑波大学附属病院の関連病院で勤務。2006年、埼玉県八潮市に「はるみクリニック」を開院。誰もが若さと元気を叶えられるよう、ペインクリニック以外にも予防医療や漢方医療、美容診療など多方面から患者さんをサポートしている。医学博士。日本麻酔科学会専門医、日本ペインクリニック学会認定医。日本レーザー医学会会員。
神経ブロック療法とは?
編集部
痛みが出たら痛み止めで抑えるのが一般的ですよね?
中山先生
たしかに、薬によって痛みを抑えることもできます。ただし、あくまでも一時的な効果しか期待できません。そこで、痛みが出ている神経の伝達を遮断する「神経ブロック療法」という方法を用いることもあります。
編集部
神経ブロック療法は、どのような痛みに用いられるのですか?
中山先生
腰や肩、膝、首、手足など全身の痛みを対象にしています。そして、関節痛や腰椎椎間板ヘルニアなど、神経ブロック療法の適応となる病気や症状は様々です。
編集部
非常に幅広く用いられるのですね。どのような仕組みで痛みが出なくなるのでしょうか?
中山先生
神経や神経周辺に局所麻酔薬を注射して、痛みの伝わる経路をブロックしています。また、麻酔薬によって痛みが取れると、交感神経という自律神経がリラックスします。それによって、患部の血流が改善され、栄養が届くようになり、回復へ向かうようになるのです。
編集部
神経ブロック療法をおこなうことで、血流まで改善されるのですね。
中山先生
そうです。そのため、神経ブロック療法は痛みを起こす疾患だけでなく、血流の改善を目的として、顔面神経麻痺や網膜中心動脈閉塞症、アレルギー性鼻炎、突発性難聴などの痛みが起こらない疾患にも用いられています。
神経ブロック療法と痛み止めの違いは?
編集部
先ほど、痛み止めは効果が「一時的」という話がありました。
中山先生
はい。そもそも痛みは、非常に複雑な神経システムによってコントロールされています。ケガや病気によって体内の組織が傷つくと、痛みのもととなる「プロスタグランジン」という物質が生成され、痛みや熱などの症状を引き起こします。痛み止めには、このプロスタグランジンの生成を抑制し、痛みのメカニズムを抑えこむ成分が含まれています。そのため、「薬が効いている間」は、痛みが解消されるのです。
編集部
痛み止めを飲んでも、しばらくすると再び痛みが出るのは薬の効きが悪くなっているからですか?
中山先生
薬は服用後に体で代謝されて有効成分が分解されるので、服用後一定の時間が経てば効果がなくなり、再び痛くなることもあるでしょう。一般的に、痛み止めは即効性があるため、急性の痛みに対しては効果が期待できます。しかし、慢性化した痛みにはあまり有効ではありません。その一方で神経ブロック療法は、根本から「痛みの悪循環」を断ち切ります。また、繰り返し治療をおこなって症状の改善を目指すため、急性の痛みはもちろんのこと、慢性化した痛みにも効果的なのです。
編集部
「痛みの悪循環」ですか?
中山先生
簡単に説明すると、「痛みで交感神経が活発になる」→「血管や筋肉が収縮する」→「血行不良を起こし、痛みが増強する」→「さらに交感神経が活発になる」というサイクルです。この悪循環が慢性的な痛みを引き起こしています。
編集部
神経ブロック療法は、この「痛みの悪循環」を断ち切るのですか?
中山先生
はい。先述したように、神経ブロック療法は痛みによって緊張している交感神経にも作用するため、プロスタグランジンの生成を抑制するだけでなく、交感神経の活動を抑えます。その結果、血行不良が改善されて痛みが引いて、悪循環から抜け出せるようになるのです。
編集部
痛みがなくなるだけで、病気やケガが治ることはないのですか?
中山先生
よく、患者さんから尋ねられる質問ですが、あくまでも治りやすくする環境作りを促進するものであり、治るまでの応急処置として神経ブロック療法が効いています。椎間板ヘルニアの患者さんに神経ブロック療法をおこなうことが多いのですが、痛みがなくなったからといって、飛び出したヘルニアが凹んで完治したのではありません。神経ブロック療法によって、飛び出した部分が自然と周囲の組織に吸収されやすくなったのです。つまり、「治りやすくなる環境をつくる」役割を果たしているというわけです。
神経ブロック療法の種類
編集部
神経ブロック療法には、いくつか種類があると聞きました。
中山先生
代表的なのは「星状神経節ブロック」や「硬膜外ブロック」、「トリガーポイント注射」です。そのほかに当院では、「後頭神経ブロック」や「肩甲上神経ブロック」、「正中神経ブロック」なども取り扱っており、痛みの部位と適応を見極めて使い分けています。
編集部
星状神経節ブロックの特徴について教えてください。
中山先生
星状神経節ブロックは、首の付け根やのどのあたりにある「星状神経節」という交感神経の節に局所麻酔薬を注射します。交感神経の機能が一時的に抑えられて、痛みが和らぐと同時に血管が拡張します。また、脳の視床下部の血流もよくなるため、自律神経のバランスや免疫機能なども改善するとされています。
編集部
硬膜外ブロックは、手術の麻酔薬や術後の痛み止めとしても使われますよね?
中山先生
そうです。硬膜外ブロックは、脊髄を覆っている硬膜の外側に局所麻酔薬を注入します。主に知覚神経と交感神経、部分的に運動神経もブロックします。
編集部
トリガーポイント注射についてもお願いします。
中山先生
トリガーポイント注射は、痛みを引き起こしている部位に直接、局所麻酔薬や鎮痛薬などを注射して、痛みを取り除きます。痛みの強さにもよりますが、注射直後から痛みが和らぐ場合も少なくありません。なお、いずれも1回で効果を実感する人もいらっしゃいますが、通常は薬物療法と並行して複数回実施します。
編集部
注射の痛みや副作用についても気になります。
中山先生
注射によって痛みの程度が違いますので、一概には言えません。なかには強い痛みを伴う注射もありますが、細い針を使用するといった対策をすることで、痛みを緩和することは可能です。また、副作用については、感染や出血、神経障害、局所麻酔中毒などの合併症が起こることもありますが、頻度としては非常に稀です。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
中山先生
神経ブロック療法は痛みを取り除くのに優れた治療法ですが、少なからずリスクがあることを忘れないでいただきたいと思います。具体的に、糖尿病の人は合併症を起こす可能性がありますし、肥満の人は注射針がささりにくいので治療できない場合があります。また、血液をサラサラにする薬を飲んでいる人は原則として、神経ブロック療法ができません。神経ブロック療法を希望する際は、医師に効果や必要性を説明してもらい、納得したうえで治療に臨みましょう。
編集部まとめ
神経ブロック療法は痛みを取り除くだけでなく、身体を治癒しやすい状態に導く作用もあるとのことでした。また、一時的に痛みを取り除くだけでなく、慢性的な痛みの根本治療を希望する場合、とても有用な治療法です。ただし、神経ブロック療法と一口にいっても様々な種類があるため、まずはご自身の症状が適応するのか、医師にしっかりと確認してください。
医院情報
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診療科目 | ペインクリニック、整形外科 |