尿検査が陰性でも、糖尿病を発症している可能性を解説
実は、尿糖検査(尿検査の一部で、尿に糖が含まれているか調べる検査)が陰性でも、糖尿病の可能性がゼロという訳ではないようです。その理由は、血糖値が上昇するのと、尿に糖が混るタイミングには時差があるからなのだそうです。果たして、どういうことなのでしょうか? 糖尿病が専門分野でもある清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック院長の清水裕史先生に解説してもらいました。
監修医師:
清水 裕史(清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック 院長)
1999年名古屋大学医学部卒業。春日井市民病院、公立西知多総合病院内分泌・代謝内科部長、独立行政法人地域医療機能推進機構中京病院内分泌・糖尿病内科診療部長兼糖尿病センター長などを経て、2020年清水ヶ岡糖尿病内科・皮フ科クリニック開院。専門分野である糖尿病や高血圧症など生活習慣病を中心に、これまでの経験を活かして甲状腺疾患なども診察。地域のかかりつけ医として、感冒や花粉症などの一般内科治療のほか、予防接種や健康診断などの予防医療にも力を入れている。
健康診断の尿糖検査でなにがわかる?
編集部
健康診断の項目で尿糖検査がありますが、これは何のために行うのでしょうか?
清水先生
これは、尿に含まれるブドウ糖を測る検査です。健康であれば、尿から糖が排出されることはほとんどありません。しかし腎臓の機能に異常があったり、血糖値が一定数値を超えたりした場合、尿とともに糖が排出されてしまいます。そうした異常がないかのスクリーニングするために、尿糖検査を行うのです。
編集部
尿糖検査で陽性と診断された場合は、何の病気の可能性があるのですか?
清水先生
尿糖が陽性を示す場合でも、実は、2種類に分けられます。一つは、高血糖を伴うもの。もう一つは、高血糖を伴わないものです。尿糖と高血糖がともに陽性を示す場合に疑われるのは、糖尿病です。一方、尿糖が陽性でも高血糖を伴わない場合には、「腎性糖尿」や「腎不全」などの可能性があります。
編集部
そもそも、なぜ尿中に糖が出るのですか?
清水先生
通常、血液は腎臓に流れ込むと、腎臓にある糸球体で老廃物や有害物質などがろ過され、尿の元が作られます。このとき健康なら、血液中の糖は腎臓の尿細管と呼ばれる部分から再吸収され、体内へ戻されます。しかし、血液中の糖濃度(血糖)が一定の値を超えて高血糖となると、腎臓は再吸収しきれなくなり、尿中に糖が漏れ出てきます。これが、「尿糖、高血糖ともに陽性である場合」の原因です。
編集部
それでは、「高血糖を示さないのに、尿糖が陽性である」というのは、どのような状態なのでしょうか?
清水先生
一番に、腎臓の機能が衰えていることが考えられます。つまり、腎臓の尿細管が血液中の糖を再吸収する際に、その機能が何らかの原因でうまくいっていない場合は、「高血糖を示さないのに尿糖が陽性である」という状態になるのです。
尿糖検査が陰性でも糖尿病の可能性がある理由
編集部
尿糖検査が陰性なら、糖尿病や腎臓の病気はないと安心していいのでしょうか?
清水先生
いいえ、必ずしもそうとは言い切れません。特に注意したいのが、糖尿病です。「糖尿病」という病名から、「尿糖検査が陰性だったら問題ないだろう」と考える人も多いと思いますが、その考え方はとても危険です。実は、尿糖検査が陰性だったとしても、糖尿病を発症している可能性があるのです。
編集部
それは一体なぜでしょうか?
清水先生
まずは糖尿病の仕組みから説明します。そもそも糖尿病とは、糖代謝がうまくいかず、血液中の糖が慢性的に多くなる病気のことです。血液に含まれる糖の量は食事によって変動しますが、通常は、膵臓から分泌されるホルモン「インスリン」の働きによって、一定の範囲内に保たれています。ところが、インスリンの分泌量が少なかったり、まったく出なかったり、作用が不十分だったりすると、血液中の糖の量が多くなってしまいます。
編集部
そのため、血糖値が高くなって「高血糖」の状態になり、糖尿病と診断されるのですよね?
清水先生
そうです。通常、糖尿病と診断される血糖値の基準は、空腹時で126mg/dL以上です。ところが、実際はこの値を超えても尿糖検査で、すぐに陽性反応が出るわけではありません。なぜなら、血液に含まれる糖の量が増えても、すぐ尿に含まれる糖の量が増えるわけではないからです。一般に、血糖値が160~170mg/dLあたりを超えると、尿にも糖が漏れ出し、陽性になると言われています。
編集部
つまり、血糖値が上昇するのと、尿に糖が混ざるのとでは、時差があるということなのですね。
清水先生
そうです。だから、「尿糖検査が陰性でも、糖尿病を発症している可能性がある」ということが起こりうるのです。
糖尿病をいち早く見つけるために
編集部
そうなると、糖尿病をいち早く見つけるためには、尿糖検査だけでは不十分ということですね。
清水先生
確かに以前は、糖尿病のふるい分けとして尿糖検査が活用されていました。しかし実際は、その結果が陰性であっても、糖尿病の心配がないというわけではありません。そのため最近では、糖尿病の診断には、尿糖検査よりもむしろ、空腹時血糖やHbA1C(ヘモグロビンA1c)といった血液検査の結果を優先しています。
編集部
空腹時血糖の数値は、どのように見たら良いでしょうか?
清水先生
まず空腹時血糖ですが、一般的な健康診断では、朝食を食べずに採血した数値を参照にします。この数値が80〜99mg/dLなら一般的。100〜109mg/dLが正常高値、つまり「異常ではないけれど、数値が高め」という状態です。そして110 mg/dL以上なら境界型。これは「自覚症状はないが、すでに血糖値を下げるホルモンであるインスリンが出にくくなったり、効きづらくなったりする変化が起きている」という状態。さらに、126mg/dL以上となると、糖尿病の診断基準に該当してしまいます。
編集部
ということは、空腹時血糖が126mg/dL以上であることが、糖尿病の診断基準なのですね。
清水先生
ガイドラインではそう定められているのですが、実際には126mg/dL未満でも「境界型」に当てはまれば、いわゆる糖尿病予備群とされています。また、「正常高値」に該当する人も、そのまま放置すると、「境界型」へ移行してしまうリスクがあります。できるだけ100mg/dL未満を目指すようにしましょう。
編集部
もう一つの数値「HbA1c」とは何ですか?
清水先生
これは、赤血球中に含まれるヘモグロビンという色素のうち、どれくらいの割合が糖と結合しているかを示す検査値です。この数値が高いほど、糖と結合しているということになります。人間ドックでは5.5%以下が基準範囲となり、5.6〜6.4%は要注意、6.5%以上は異常値として扱います。
編集部
そうなると、HbA1cが6.4以下なら糖尿病のリスクはない、ということですか?
清水先生
必ずしもそういい切れるわけではありません。なぜなら、5.6〜6.4%の要注意に当てはまる人でも、糖尿病を発症している可能性があるからです。また、軽度の糖尿病の場合、1回の検査ではなかなか評価がしにくい、ということもあります。少しでも糖尿病が疑われる場合は、75g経口ブドウ糖負荷試験など、ほかの試験も受けることをお勧めします。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
清水先生
糖尿病は、よほど重症にならない限り、自覚症状が現れることがありません。そのため「気づいた時にはかなり症状が進んでいた」ということも少なくないのです。残念ながら、糖尿病は一度発症してしまうと、完治は困難です。しかし、早期に発見できれば、治療も軽いもので済みますし、合併症の予防にもつながります。健康診断や人間ドックを定期的に受けること、そして、少しでも異常が見られたら必ず医師の診察を受けるようにしましょう。
編集部まとめ
健康診断をせっかく受けても、データや数値の正しい見方を知っていなければ、万が一病気の兆候があった場合、見逃してしまうこともあります。健康診断を受けたらわずかな病気の可能性も見逃さないよう、しっかりチェックすることを意識づけましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科・皮膚科 |