~実録・闘病体験記~ 女子高校生が「先天性の病気であっても幸せ」と語るワケ《ウルリッヒ病》
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィーを患いながらも高校に通い、リハビリをおこないながら、患者会にも積極的に参加する玉置陽葵さん。自らの人生を振り返り、「私は幸せです」と目を輝かせられる理由とは? これまでの闘病生活から、病気との付き合い方、リハビリ、周りへの感謝の気持ちを語ってくれました。
※本記事は個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年8月取材。
体験者プロフィール:
玉置 陽葵(ひより)さん
関東在住、2006年生まれ。両親・兄と同居。0歳の時に先天性股関節脱臼と診断。2歳8ヶ月ごろ、股関節脱臼が良くならないためセカンドオピニオンを受ける。2歳10ヶ月ごろに精神・神経疾患の専門性の高い病院にて、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(ウルリッヒ病)と確定診断を受ける。現在、治療法は無いためリハビリをおこないながらも、高校1年生として普通学級に通う毎日。通学は電車で、趣味はサッカー観戦。
記事監修医師:
村上 友太
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
ウルリッヒ病を隠すことなく、周囲に理解してもらえる生活
編集部
ウルリッヒ病が判明した経緯について教えてください。
ひよりさん
生まれ持ったものなので親に聞いた話ですが、0歳の時に左右の太ももの太さが違ったらしく、疑問を持った親と病院を受診し、そこで先天性股関節脱臼と診断されました。その後2歳8ヶ月になっても、股関節脱臼がなかなか良くならないため、大学病院でセカンドオピニオンも受診。その大学病院では、先天性福山型筋ジストロフィーの疑いのため、専門性の高い病院を紹介され、2歳10ヶ月ごろに筋生検を受け、ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(ウルリッヒ病)と確定診断を受けたそうです。
編集部
ウルリッヒ病とはどのような病気ですか?
ひよりさん
ウルリッヒ病はVI型コラーゲン遺伝子の異常により発症する進行性の病気で、国内の患者数は約300人と言われています。主な症状として、生まれつきの関節拘縮や筋力低下、歩行障害、呼吸障害などがあり、10代で人工呼吸器を必要とする患者が多くいます。
編集部
医師からは、どのように治療を進めていくと説明がありましたか?
ひよりさん
現在のところ治療法は見つかっていません。進行性の病気のため、少しでも現状維持ができるように根本的な治療ではなく、主にリハビリをおこなっています。
編集部
ウルリッヒ病が判明したときのことなどは覚えていますか?
ひよりさん
当時2歳だったため、私には記憶がありません。生まれつきの病気だったため、割とすんなりと受け入れることができたそうです。また、病気について隠すようなことも全くしてこなかったので、周りの人にも理解をしてもらうことができていました。
友達や家族、学校の先生に支えられ、楽しい日々
編集部
日常生活で工夫していることなどはありますか?
ひよりさん
生まれつきの病気ですから、歩きやすい靴を履いたり、転んだ時に怪我をしないように服装に気を配ったり、座位を保つための椅子を作ったりなどの工夫はしていますね。
編集部
リハビリを続けられている秘訣などはありますか?
ひよりさん
親や学校の先生が自分をほめて、伸ばしてくれたのもよかったのだと思います。できないことが多い中で、良い所をしっかりとほめてくれたおかげで、自分に自信を持てました。
編集部
素敵なご家族ですね。
ひよりさん
あとは、友達の支えも大きいと思います。友達には病気のことについても話して、理解してもらっているので、困った時にはすぐに助けてくれたり、いつも気にかけてくれていて、おかげで病気があっても毎日楽しく過ごせています。
編集部
学校などでの生活はどうですか?
ひよりさん
高校に入学してからは、公共交通機関を使って通学するようになりました。これを機に、友達と登下校ができるようになり、行動範囲も広がりました。例えば、今まではお店に入るだけでも、親が先回りしてバリアフリーになっているかどうかなどの確認をしていたので、大人に守られてばかりでした。しかし、最近は自分のことは自分でできるようになり、視野が広がったなと思います。
病気があっても幸せに暮らす毎日
編集部
楽しく過ごせているとのことですが、過去の自分と現在の自分に違いはありますか?
ひよりさん
昔の自分は、周りの人に助けを求めることが苦手でした。もっと人を頼っても良いってことが次第にわかりましたね。できることは自分でやるけど、困った時には人を頼る。それができるようになって、自分自身の負担も減り、少し楽に生きられるようになりました。周りの人は自分が思っている以上に優しくて、支えてくれるということを昔の自分には教えてあげたいです。
編集部
現在の体調や生活などの様子について教えてください。
ひよりさん
急激に進行したりはしていません。ただ、主な症状といわれている「側弯症」「呼吸障害」「関節拘縮」が、これ以上進行しないように放課後の時間を使ってリハビリに励んでいます。
編集部
病気とともに生きていく中で、何か取り組んでいることはありますか?
ひよりさん
患者会「ウルリッヒの会」の活動をしています。もともと、私の親を含む患者の保護者達が2019年に立ち上げた会です。現在は、わたしたち患者の年齢も上がり、患者の声も伝えたいという気持ちもあって、2021年7月より患者当事者である高校生3人が役員に就任しました。
編集部
「ウルリッヒの会」というのはどのような活動をされていますか?
ひよりさん
患者、家族、医療の三位一体を目指し、病気の理解と知識の向上のためのイベント、患者家族間の交流、ウルリッヒ病の周知活動などをおこなっています。2020年、2021年はコロナの影響もあり、オンラインで活動しています。
編集部
ウルリッヒ病をよく知らない人に一言お願いします。
ひよりさん
筋ジストロフィーと聞くと、可哀想だというイメージを持つ方も多くいると思いますが、必ずしもそうではありません。病気があっても幸せに暮らすことはできると思っていますし、実際に私はすごく幸せです。なので、そういう固定観念や偏見がなくなっていってほしいなと思います。ウルリッヒ病は症例が少ないため、医療従事者の方々の中でもあまり詳しく知られていません。そのため、もっと多くの方々にこの病気について知っていただきたいです。
編集部
最後に、読者に向けてのメッセージをお願いします。
ひよりさん
私はまだ高校生なので、これから先、壁にぶつかることも多いと思います。そのため、筋ジストロフィーに限らず、さまざまな病気を乗り越えてきた方々の意見などを聞き、学びながら、もっと成長していきたいです。また、患者会も患者主体に生まれ変わったので、高校生の若い力で頑張っていきます。
編集部まとめ
ウルリッヒ型先天性筋ジストロフィー(ウルリッヒ病)であっても、自分のことは自分でおこなう玉置陽葵さん。あまり知られていないウルリッヒ病を周知させたいという強い想いを発信してくれました。高校に通いながらもリハビリに励み、患者会の役員を務める姿勢からは元気をもらえます。家族や友人、学校の先生がたに支えられ、病気であっても幸せだという玉置陽葵さんのこれからの活動が楽しみです。