~実録・闘病体験記~ 《アンジェルマン症候群》病名確定まで2年かかった母親の想い
※本記事は、個人の感想・体験に基づいた内容となっています。2021年8月取材。
話者プロフィール:
アップルビーさん
神奈川県在住。国際結婚で結ばれた夫、リッキーさん(闘病者)、長男、三男の5人家族。2016年にリッキーさんを出産。リッキーさんは生後すぐから吸啜(きゅうてつ)反射がなく、哺乳ができない、筋緊張が強い、ほとんど寝ない、泣き方がおかしい、呼吸音がおかしいなどの状況が続いた。その後複数の病院で検査入院をするも、原因不明の発達遅滞の診断のまま確定診断には至らず。遺伝子検査の結果、1歳11ヶ月時にようやくアンジェルマン症候群の診断が確定した。
記事監修医師:
菅谷 雅人(ふかしばこどもクリニック 院長)
※先生は記事を監修した医師であり、闘病者の担当医ではありません。
確定診断までの長い道のり
編集部
アンジェルマン症候群とはどのような病気なのですか?
アップルビーさん
最も特徴的な症状はよく笑うという点です。ほかに重度の知的障害、発達遅滞、言語障害、てんかん、睡眠障害、この他にも特徴的な顔つきを含め、症候群ですのでさまざまな症状があります。リッキーに現れたものとしては、発達遅滞、重度の知的障害、言語障害、摂食障害、便秘、てんかん、睡眠障害などでした。
編集部
お子さんが生まれたとき、すぐに違和感を感じていたそうですね。
アップルビーさん
生まれた直後からリッキーは普通の赤ちゃんと違っていました。生後すぐから吸啜(きゅうてつ)反射がなく哺乳をできない、筋緊張が強い、赤ちゃんなのにほとんど寝ない、泣き方がおかしい、呼吸音がおかしいという状況が続きました。なので、正確にはわかりませんでしたが、「必ず何かの病気があるはずだ」という想いだけはありました。
編集部
そのほかにも症状はありましたか?
アップルビーさん
生後2週間ごろから、噴水のような嘔吐と体重増加不良により、小児専門の総合病院への通院が始まりました。生後1ヶ月で発熱により入院し、けいれん群発も起こしました。生後3ヶ月ごろから筋緊張がとれ始め、常に泣いていたのが一変してご機嫌な赤ちゃんへと変わりました。ただクーイングも喃語(なんご/乳児の発声)も一切出ませんでした。笑い声も出さず、泣くのは2日に1回ぐらいで、しかも1秒くらい。1歳になってようやくお座りができるようになりました。
編集部
診断確定まで2年間もかかったそうですね。
アップルビーさん
セカンドオピニオンも行きましたが結局病名はわからず、「重度のダウン症と思って育ててみては?」とアドバイスをされることもありました。主人が染色体異常や遺伝子疾患などについてネットで調べていたとき、1つの記事を見つけて「同じ病気の子を見つけた。アンジェルマン・シンドローム(症候群)かもしれない」と言い出したんです。
編集部
そこからどのようにして確定したのですか?
アップルビーさん
担当医に「アンジェルマン症候群ではないですか」と伝えても、「そうではないだろう」と言われてしまいました。しかし病名が知りたかったため、遺伝子診断を希望したんです。すると、半年待ちで遺伝科の受診予約が取れました。そして半年後、診察室に入って3分ほどで、「申し上げにくいことですが、お子さんはアンジェルマン症候群だと思います」と医師から告げられました。病名確定のため遺伝子検査をお願いすると、やはり検査結果はアンジェルマン症候群でした。
編集部
病名が確定したときはどのような心境でしたか?
アップルビーさん
ずっと「なにかがおかしい」「決して『のんびり屋さん』なだけではないはず」という確信がありましたので、病気がわからないまま過ごした約2年間は本当に苦しいものでした。当初は(何かおかしいと思いつつも)ここまで重い障害だとは想像していなかったためショックでしたが、その一方で何かわからない病気があるという不安からやっと解放され、ホッとしたのを覚えています。
アンジェルマン症候群の治療
編集部
アンジェルマン症候群はどのような治療になるのですか?
アップルビーさん
この病気には原因療法がなく、対症療法になります。その中でも医療として注力してることは、てんかんのコントロールです。けいれん重積を繰り返していますので、てんかんをできるだけ抑えることが重要になってきます。
編集部
治療で大変なことなどはありましたか?
アップルビーさん
まずは睡眠薬で昼夜のリズムをつけることに、かなりの時間がかかりました。最初のうちは夜にまとまって寝るのが3〜4時間、薬を使わないともっと短時間です。この治療は年単位でおこないました。
編集部
生活で苦労することはありましたか?
アップルビーさん
大変だったのは、保育園などに理解を得ることでした。この病気を知っている人はほぼいません。しかし保育園に預けないと私も仕事が出来ませんし、保育園側も預かるのが怖いところもあると思います。お互い何度も話し合い、たくさん理解していただいて、受け入れてもらえたことに今でも感謝してます。
編集部
治療での心の支えとなったものは、何でしたか?
アップルビーさん
どんなときもご機嫌でニコニコしているリッキーの笑顔に何度救われたかわかりません。この笑顔がなかったら、今まで乗り越えられなかったと思います。「親は子どもに無償の愛を注ぐ」とよく言われますが、わが家の場合はリッキーが私たちに無償の愛を注いでくれていると思っています。
編集部
周囲の理解も心の支えとなったようですね。
アップルビーさん
家族と友達の理解にも支えられました。私がこの病気について落ち込んでいると、主人がポジティブな言葉かけてくれて、その何気ない優しさにも救われました。家族や友達が、リッキーを当たり前の存在として受け入れ、色々協力してくれるのは本当にありがたいです。
珍しい病気でも、周囲の理解があれば乗り越えられる
編集部
現在のリッキーさんはどのような様子ですか?
アップルビーさん
現在5歳のリッキーは伝い歩きができるようになり、夜も6~8時間寝るようになりました。保育園では友達の輪に入り、友達が遊んでいるのを楽しそうに見たり、ものを渡したりなど、上手になってきました。入院の頻度もかなり減りました。けいれん重積だけが心配ですが、今のところ後遺症もなく元気に過ごしています。
編集部
もし昔の自分に声をかけるとしたら何を伝えますか?
アップルビーさん
障害児を育てる自信などないと不安を感じていましたが、無事に育てられています。心配しなくても大丈夫、肩の力を抜けばどんな子どもでも育てられる。なんとかやってるよと伝えたいですね。
編集部
医療関係者に伝えたいことはありますか?
アップルビーさん
遺伝子検査までがとても長い道のりでした。日本では遺伝子検査を積極的に受け付けてもらえないのかもしれません。でも親にとって、わが子が何の病気に苦しんでいるのかわからないという日々は想像を絶する苦しみがあります。確定診断を求める親には、遺伝子検査をできるようにしてほしいですね。
編集部
読者に向けてのメッセージをお願いします。
アップルビーさん
日本では病気と健常児を分けて育てますが、病気の有無に関係なくいろんな子どもや人がいることが当然という環境で育てば、差別や偏見が今よりなくなるのではないでしょうか。アンジェルマン症候群は英語だと「Angelman Syndrome」となり、名前の中にエンジェル(Angel/天使)が入っています。この病気を抱える子どもたちは本当にいつもニコニコしていて、天使のような存在です。希少疾患のため知られていませんが、1人でも多くの人にこんな病気があることを知っていただきたいです。
編集部まとめ
アンジェルマン症候群はとてもまれな疾患の1つです。そのようなまれな疾患があることを周囲が知り、理解し、協力しあって1人の人間として一緒に生活する。これらが今の私たちに求められている姿勢ではと気づかされました。