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薬に頼らないうつ病の治療法!? 「rTMS療法」について詳しく教えて!

 更新日:2023/03/27

代表的なうつ病の治療法として、薬物療法や認知行動療法などが挙げられます。それら以外に、脳へ直接刺激を与える方法があることをご存知でしょうか。磁場を媒介して脳内に電気刺激を与えるという「rTMS療法」について、「慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室/新宿・代々木こころのラボクリニック」の野田先生が解説します。

野田賀大

監修医師
野田 賀大(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室 特任准教授/新宿・代々木こころのラボクリニック 副院長・TMS学術技術顧問)

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東京大学医学部附属病院精神神経科や神奈川県立精神医療センター勤務を経て、カナダ・トロント大学精神科The Centre for Addiction and Mental Healthのポスドクフェローとして最先端の磁気刺激療法を応用した臨床研究と経頭蓋磁気刺激をプローブとした神経生理研究の研鑽を積む。American Psychiatric Association Young Investigator Awardなど受賞多数。2017年より慶應義塾大学 医学部 精神・神経科学教室Multidisciplinary Translational Research Labの主任研究員としてラボを率いる。その後、2020年より現職。専門は精神医学・神経生理学・ニューロモデュレーション。そのほか、日本精神神経学会ECT・rTMS等検討委員会委員をはじめとした各種学会の委員・評議員を務める。

磁場の特徴は、ピンポイントに狙えること

磁場の特徴は、ピンポイントに狙えること

編集部編集部

先生の医院では、特殊なうつ病治療を扱っていると聞きました。

野田賀大野田先生

はい。薬物療法でもなく認知行動療法でもない、脳に刺激を与える「rTMS」という治療法をご提供しています。その目的は、脳神経細胞の情報伝達効率を磁気刺激によって調整することです。ただし、磁場を用いつつも、脳に与える刺激としては微弱な「電気」になります。化学的な変化を促す薬物療法とは異なり、“脳が元々持っている情報処理の動作原理”に働きかけることができるのが特徴です。

編集部編集部

そういえば、電気刺激そのものによる治療法もあるそうですね。

野田賀大野田先生

ECT」や「tDCS」などに代表される脳刺激法が、電気刺激によるものです。ECTは即効性があり、効果が非常に強い治療法ですが、全身麻酔が必要です。加えて、健忘をはじめとした認知機能障害が必発です。また、tDCSは、まだ研究段階の実験的な道具になります。

編集部編集部

他方、rTMSの特徴は?

野田賀大野田先生

同じ電気刺激でもrTMSの方が、よりピンポイントに患部を狙うことができます。また、rTMSは、本邦でも既に保険承認を得ているエビデンスレベルの高い治療法です。これまでrTMSに関する臨床研究は、世界中で数多く実施されてきています。特にうつ病に対しては、どのように適用していけば安全かつ有効なのかといった知見が四半世紀にわたって積み重ねられてきています。

編集部編集部

薬物療法と磁気治療は、どう違うのでしょうか?

野田賀大野田先生

薬に含まれる成分は、全身に巡っていきますよね。抗うつ薬に限らないことですが、薬物療法は肝臓や心臓など、脳以外の全身の組織や臓器に作用し、様々な副作用を生じる可能性があります。一方、磁気刺激療法の場合、作用部位はターゲットとした脳部位に限定されます。また、薬物療法で改善が見られなかったうつ病患者さんにこそ、rTMSは有用な手段だと考えています。

編集部編集部

直接的なイメージがあるだけに、怖い印象を受けます。

野田賀大野田先生

その点に関しては、これまで世界中で実施されてきたrTMSの臨床研究や治療成績で判断していただきたいです。そういった意味で、うつ病に対するrTMS療法の安全性や有効性に関するエビデンスレベルはかなり高いですね。決して、“オカルト”や“黒魔術”の類いではありません。しかし、日本では残念ながらrTMS療法の存在がまだ十分に知れ渡っていないという情報格差の問題があると考えています。繰り返しになりますが、rTMS療法は、世界中でその有用性が認められている治療法ですので、ご安心ください。

おおむね8割の患者に、何かしらの効果あり

おおむね8割の患者に、何かしらの効果あり

編集部編集部

rTMSが検討されるのは、どんな症状に対してでしょうか?

野田賀大野田先生

国内で保険適用となっているのは「うつ病」に対してだけです。しかし、医学的な有用性自体は、「双極性障害のうつ病相」や「強迫性障害」など、ほかの様々な精神疾患にもあります。今後、それらのエビデンスがさらに積み重ねられていけば、保険適用の範囲も今後広がっていくのではないでしょうか。

編集部編集部

具体的な治療成績はどうなっていますか?

野田賀大野田先生

あくまでも、これまでに約600症例を経験してきたエキスパートオピニオンとしての見解ですが、うつ病に対して期待していたような治療効果(反応)が得られたのは、全症例のうち約4割でした。別の約4割の患者さんには部分的な改善(部分反応)がみられ、残りの約2割の患者さんはほぼ変化なしといった状況です。ただし、rTMSの治療プロトコルは日々進化してきているので、例えば10年前のrTMS療法と比べると、現在のrTMSの治療成績の方が断然良好です。具体的には昔は3割程度の反応しか見込めなかったのが、今では5割程度にまで改善してきています。

編集部編集部

治療を終えた後、効き目が「元に戻る」ということは考えられますか?

野田賀大野田先生

あり得ます。通常、rTMSの効果は文献ベースでは、4~12カ月ほどで、必ずしも永続的なものではありません。中央値では半年程度になりますが、それ以降は再発する可能性が高くなります。また、症例によっては断続的な維持治療が有効な場合もあります。

編集部編集部

治療の初手から、rTMSをおこなうこともあるのでしょうか?

野田賀大野田先生

うつ病治療にも各種推奨ガイドラインやアルゴリズムがありますので、まずはそれらに従って、通常は薬物療法から開始します。ただし、抗うつ薬が効かなくて医療機関を転々とされている、「薬物治療抵抗性」あるいは「薬物治療低耐性」の患者さんに対しては、初診の段階からrTMS療法をご提案することもあります。一方、厳密には「うつ病」の診断には該当せず、「適応障害」の範疇の患者さんやごく軽症のうつ病患者さんに対しては、rTMS療法ではなく、認知行動療法をはじめとした心理療法によるアプローチの方が有効かつ適切なケースも多々あります。多くの場合、まずは一般的な治療から進めていき、効果がなければrTMSに移行します。

多少の副作用は起こり得るものの、重篤なものは0.1%以下

多少の副作用は起こり得るものの、重篤なものは0.1%以下

編集部編集部

rTMSの診療の流れについても教えてください。

野田賀大野田先生

まずは問診で、患者さんの状況や背景、病状を丁寧に聴取させていただきます。うつ病の診断には標準的な手順がありますので、そこから大きく外れることはありません。同様に、rTMSを無理に勧めるようなことはいたしませんので、「他院と同じような流れ」とお考えください。違いがあるとしたら、治療選択肢をより多くもっているということでしょうか。

編集部編集部

rTMSに副作用は起きないのですか?

野田賀大野田先生

全体の3割ほどで、刺激に伴う頭皮の痛みや顔面の筋肉の収縮、同じ姿勢で治療を受けることによる首こりといった軽度の副作用がしばしばあります。他方、重篤な副作用として、けいれん誘発が報告されていますが、実際にけいれん誘発発作が起きる確率は0.1%以下と言われています。私自身、1万5000セッション以上の経験がありますが、いまだにそのようなことは起きていません。万が一起きたとしても、治療中に限られるため、酸素吸入や投薬などによる緊急対応が可能です。

編集部編集部

治療をしたとしても、「ハラスメント」のような直接原因は解決されないですよね?

野田賀大野田先生

うつ病の多くは、ハラスメントのような外部要因と関係なしに突然、ご自身の脳の中で起こります。そうした典型的なうつ病患者さんにはrTMSが有効です。他方、ハラスメントや震災といった外部ショックによる心の病は、どちらかというと「適応障害」と診断されることが多いですね。つまり、変化した新しい環境に自分のキャパシティが「ついていけない」状態です。このような場合、外部要因によるストレスをできるだけ軽減するための環境調整やご自身の考え方や受け止め方を、より適応的なものに変えていく認知行動療法で改善を図る必要があります。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

野田賀大野田先生

うつ病と診断されていて、今の治療方法に満足がいかないのであれば、rTMSの説明だけでも受けてみてはいかがでしょうか。rTMS療法はいつでもやめられますし、薬のような化学物質による副作用はありません。また、rTMSの場合、最も好ましくない結果が「残念ながら無効であった」ということであり、症状が今より悪くなることはありません。

編集部まとめ

薬を飲んで治すということは、「その成分が全身に行き渡る」ということで、当然、脳神経以外の組織が薬の成分で化学変化する可能性は考えられます。他方で磁場を用いるrTMSは、治療用コイルを中心とした患部周辺のみに発生します。加えて、磁場が発生するだけで、何かしらの成分を生むわけではありません。それでもまだ不安のある人は、医師の説明を受けてみてください。治療選択肢が多いにこしたことはありません。

医院情報

新宿・代々木こころのラボクリニック

新宿・代々木こころのラボクリニック
所在地 〒151-0051 東京都渋谷区千駄ケ谷5丁目27−5 リンクスクエア新宿 3F
アクセス JR「代々木駅」 徒歩4分
都営地下鉄大江戸線「代々木駅」 徒歩5分
東京メトロ・都営地下鉄新宿線「新宿三丁目駅」 徒歩6分
診療科目 精神科、心療内科

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