ペースメーカーが必要な人とは? 装着した際に気をつけるべきことはある?
ペースメーカーとは、心臓に電気刺激を与えて、人工的に心臓を動かすための機械の名称です。心臓に疾患を抱えている方が使用するペースメーカーですが、どのような疾患の方が使用するのか、体に埋め込んだあとの日常生活で気をつけるべき注意点はあるのか、元看護士で、現在は医療ライターとして活躍されている長田さんに詳しく伺いました。
監修看護師・医療ライター:
長田 さやか(看護師・医療ライター)
看護専門学校卒業後、整形外科や精神科病棟、訪問看護を経て、独立。現在は、フリーランスとして「根拠を踏まえた、わかりやすい文章」をモットーに医療系Webライターとして活動中。
ペースメーカーは正常な脈拍を作る機械
編集部
ペースメーカーとはなんですか?
長田さん
簡単に言うと「心臓の働きを助ける」医療的な機械です。心臓の動きを感知し、助けが必要な時は、心臓に対して正しく動くよう働きかけます。利き手の反対側、前胸部にペースメーカー本体を埋め込み、その本体から出たリードという電線を心臓内に留置して設置します。
編集部
ペースメーカーの役割を教えて下さい。
長田さん
ペースメーカーは不整脈の状態を改善するため、人工的に電気刺激を送り、正しく心臓が動くのを助ける役割があります。心臓の拍動によって体内に血液が送り出されますが、この拍動には心臓内の刺激伝導が必要です。しかし刺激伝導に問題があると、拍動に異常をきたし、正常に血液を体内へ送り出すことができなくなります。結果、脈が乱れたり、息苦しさやめまい、失神、心停止などを引きおこしたりします。このような、心臓内の刺激伝導の異常による不整脈にペースメーカーが用いられます。
編集部
不整脈の治療には、必ずペースメーカーが必要なのでしょうか?
長田さん
すべての不整脈治療にペースメーカーが用いられるわけではありません。同じ不整脈でもペースメーカーでの治療が必要な場合と、そうでない場合があり、ペースメーカーが適応となる不整脈は、脈が遅くなる「徐脈」です。徐脈とは逆の「頻脈」では、「カテーテルアブレーション」という治療法が用いられます。また、別の治療法では、薬を使用することもあります。
ペースメーカーが必要な心疾患とは
編集部
徐脈がおこる心疾患には、どのようなものがありますか?
長田さん
主に「洞不全症候群」と「房室ブロック」という疾患です。いずれも心臓内の刺激伝導に異常をきたす徐脈です。
編集部
それらの心疾患について詳しく教えて下さい。
長田さん
洞不全症候群は、最初に「動け」と心臓全体に刺激伝導をおくる「洞結節」や、洞結節周囲に障害がある疾患です。房室ブロックは、刺激伝導に異常があり、心房から心室へ電気信号が伝わらなくなる疾患です。どちらも徐脈や、心停止状態を引き起こします。脈拍が遅くなる徐脈は、脳に十分な血液を送り出せず、めまいや失神を招き、また、心不全、心停止といったリスクを高めるためとても危険です。
編集部
徐脈の人には必ずペースメーカーが必要になりますか?
長田さん
徐脈の中にもⅠ度、Ⅱ度などの種類があり、治療が必要ない場合もあります。そのため、徐脈であればすべてが適応になるということではありません。自覚症状があまりなく、リスクが低い患者さんは適応外になります。
ペースメーカー埋め込み後の注意点
編集部
ペースメーカーを埋め込んだ後の対応について、詳しく教えてください。
長田さん
定期的に通院し、心電図やX線検査で、ペースメーカーに異常がないかの経過観察が必要です。また、一日一回、橈骨動脈(親指の付け根下の血管)で脈を計測し正常か確認する必要もあります。脈が少ない、遅い、めまいやふらつきを感じた場合はすぐに受診するなどのセルフケアが大切です。あと、ペースメーカーの電池寿命は6〜10年なので、交換の処置をする必要があります。
編集部
日常生活で気をつけることはありますか?
長田さん
ペースメーカーは心臓内の電気を感知するため、自分の近くでそのほかの電気を感じると異常をおこす「電磁波障害」に気をつける必要があります。そのため、ペースメーカー埋め込み後は電磁波を発するものに注意しましょう。冷蔵庫や電子レンジなどの生活電化製品は、基本的に問題はないとされています。携帯電話は15cmほど離しての使用を推奨されていますが、これは安全のために余裕をもった数値です。胸ポケットなどに入れないよう注意すれば、通常通りに使用しても問題ありません。禁忌とされているものには「低周波治療器」があります。また、急速充電の電気自動車、全自動麻雀卓には近づいたり、使用したりするのは控える必要があります。
編集部
病院で気をつけることはありますか?
長田さん
X線、CT、MRIを受ける際は、必ずペースメーカーを埋め込んでいることを伝えましょう。特にMRIは原則禁忌です。自分のペースメーカーの情報が記録されている「ペースメーカー手帳」を常に携帯し、医療機関を受診する際は必ず手帳を見せる習慣をつけましょう。
編集部
日常生活の中で制限されることはありますか?
長田さん
リードが心臓内で固定されるまでには1~2ヶ月かかり、この間は腕を動かす範囲に制限がかかります。しかし、その後は特に制限なく日常生活を送ることが可能です。
編集部まとめ
ペースメーカーは徐脈に用いられる治療に必要な機械であることがわかりました。日常生活での注意点を意識し、セルフケアを行っていくことで、ペースメーカーを埋め込んだ後も以前と変わらない生活を送ることが可能です。また、外出時や病院受診時は、必ずペースメーカー手帳を持ち歩くよう心がけましょう。