多焦点眼内レンズの「回折型」と「屈折型」ってどう違うの?
白内障治療で用いられる「単焦点眼内レンズ」と「多焦点眼内レンズ」。その中でも「多焦点眼内レンズ」には、いくつか種類があるようです。「和田眼科」の和田先生によると、主に2種類のタイプが日々、発展してきたようです。今回は、多焦点眼内レンズの最新事情について伺ってきました。
監修医師:
和田 佳一郎(和田眼科 院長)
奈良県立医科大学卒業。2005年、兵庫県西宮市に「和田眼科」開院。以来、白内障手術4000件以上、多焦点遠近眼内レンズ400件以上、ICL・網膜硝子体手術100件以上の日帰り眼科手術の実績を誇る。日本眼科学会認定眼科専門医、ICL研究会ICL認定医。日本眼科医会、日本眼科手術学会、日本白内障屈折矯正手術学会、日本糖尿病眼学会、日本緑内障学会の各会員。
型としての主流は「回折型」
編集部
白内障の手術で使うレンズには、いくつか種類があるのですか?
和田先生
はい。ピントが遠方か近方かのどちらか1つに固定されているものは「単焦点眼内レンズ」、遠・中・近などピントが何段階かに振り分けられているものを「多焦点眼内レンズ」と呼びます。なお、今までは「単焦点眼内レンズ」のみが保険の対象でしたが、2020年4月から、選定療養対象の「多焦点眼内レンズ」による白内障治療には、保険が認められるようになりました。ただし、レンズ代金の差額のみ、自己負担していただきます。
編集部
多焦点眼内レンズは、いろいろな呼び方があって悩みます。
和田先生
一般には、「回折型」と「屈折型」の2タイプがあります。回折型の特徴は、レンズのどの場所でも「入ってきた光を分散できる」構造になっていることです。分散された光のいずれかが網膜に像を結べば“見える”仕組みとなっています。その一方、使われずに分散してしまう光のロスが課題でした。とくに夜間などは、光のロスがそのまま見え方のロスになり得ます。しかし昨今では、ロスの最小限化や再利用化といった改善が顕著です。
編集部
続いて、屈折型の特徴についてもお願いします。
和田先生
屈折型は入ってきた光を分散させません。レンズの場所によって「光の曲り方が違う」イメージです。老眼鏡でも、遠近のレンズを組み合わせたタイプがありますよね。たいてい上半分は遠距離用で下半分が近距離用になっていますが、あれと同じ仕組みだと思ってください。つまり、複数の異なったレンズを組み合わせたものが屈折型です。
編集部
現在の主流はどちらでしょうか?
和田先生
圧倒的に回折型になってきました。理由としては、光のロスの問題が大幅に改善されてきたからです。そうなると、「レンズのどの場所でも同じ見え方になる」ことのメリットが、さらに際立つ印象です。屈折型は、異なるレンズ間の“境界”が、どうしても生じてしまうんですよね。また、遠距離設定のレンズを通して近場を見ることも困難です。
編集部
「回折型」と「屈折型」それぞれを試すことはできないのでしょうか?
和田先生
比較して患者さんが選ぶ、「最初から型アリキ」というケースは、ほとんどないです。お試しする場所と、実際に生活やお仕事をする場所の環境が、必ずしも同じではないですよね。そのため、実際には患者さんのお仕事や生活の中身、加えてご要望などを伺ったうえで、医師からレンズをご提案しています。
回折型と屈折型以外の選択肢
編集部
今までは多焦点眼内レンズの話でしたが、もちろん単焦点眼内レンズという選択肢もありますよね?
和田先生
裸眼での生活にこだわらなければ、もちろんアリです。白内障治療の目的は「視界のかすみの除去」ですから、最も理にかなった選択かもしれません。多焦点眼内レンズにみられる不具合も比較的、抑えられています。ただし、単焦点の範囲を超えたピント合わせのため、メガネの使用が前提になるでしょう。
編集部
これから多焦点眼内レンズが、さらに進化することはありますか?
和田先生
じつは、「焦点深度拡張型」というレンズが登場しています。普通、目に入った光が網膜と焦点が結ばれると、クリアな視界になります。ところが、ほんのわずかな「焦点のズレ」くらいであればヒトは問題にしません。そこで、遠・中それぞれの光の焦点を微妙にズラすようにつくられたのが「焦点深度拡張型」レンズです。「遠距離から中距離まで連続的かつ自然に見える」とされています。ただし、これも選択肢の1つであって、「最初から型アリキ」ではないと思います。
編集部
同じレンズで「メーカーによる違い」はあるのでしょうか?
和田先生
メーカーによるレンズ特性の差はあります。眼科医は、その点も踏まえてメーカー・レンズ選びをしますので、ご安心ください。むしろ、複数の選択肢をもっている眼科に相談した方が、満足度も高いのではないでしょうか。医師が最新事情を追えているかにもよりますしね。
想定しておきたい手術後の「見え方」
編集部
今までの流れを総括すると、「型より実態」ということでした。
和田先生
はい。どのタイプの眼内レンズを使用するのかが先に来るのではなく、納得のいく眼内レンズを選択していただくことが大切だと思います。例えば、リモートワークの増加に伴い、パソコン・携帯などを見る頻度が変化しているのではないでしょうか。今一度、現在の生活を振りかえってみてください。
編集部
つまり、手術後の生活を具体的にイメージするべきだと?
和田先生
そのとおりです。加えて、「裸眼の快適さを優先するのか、メガネ着用が苦にならないのか」も、大きな分岐路になりますよね。多焦点眼内レンズを、“オールラウンドでパーフェクト”なレンズと思わないようにしてください。希望する焦点はどこで、どの範囲なのかを患者さん自身も考える必要があります。
編集部
参考までに、どのような観点が考えられますか?
和田先生
例えば、「夜間に運転することが多く、メガネをかけていても構わない」、「画面越しの仕事が多くなってきた」、「風景のスケッチをしたいので、明るい場所前提で、遠近両方がいい」、「せっかく老眼鏡を買ったのだし、中距離から遠くが見えればいい」などが挙げられます。ライフスタイルによっても変わってくると思うので、みなさんなりに考えてみてはいかがでしょうか。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
和田先生
良好な視野を眼内レンズで保つと「認知症予防につながる」という報告があります。目から入ってくる情報量は“多大”なので、クッキリ・ハッキリな情報処理が脳を鍛えてくれるのでしょう。また、治療後の患者さんの活動量が増えることから、「心の元気度」のような効果も期待できます。
編集部まとめ
「回折型」は、ハズレ玉を回収してターゲットに向けられるようになった散弾銃。「屈折型」は、あらかじめ方向をプログラムされたミサイル。イメージとしては、そんな感じでしょうか。しかし、ターゲットを決めずに手段を選ぶのは、現実的といえません。医師にターゲットを決めてもらうのも変な話です。やはり、自分自身の治療目的を明らかにしましょう。
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