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脚の付け根の膨らみ、この中身は自分の“腸”だった?【鼠径ヘルニア】

 更新日:2023/03/27
足の付け根の膨らみ、この中身は自分の“腸”だった?

通常、消化器は筋肉の膜に支えられ、さらに腹膜で覆われています。例えるなら風船の中で、その位置を安定させているのです。しかし、この風船は、加齢や環境要因などによって弱ってきます。もし、この風船の中身がはみ出てしまったらどうなるのでしょうか。そんな病気について、「東京デイサージェリークリニック」の柳先生を取材しました。

柳先生

監修医師
柳 健(東京デイサージェリークリニック 院長)

プロフィールをもっと見る

日本医科大学卒業。大学病院の外科助教や外科クリニック院長などを歴任後の2014年、東京都中央区に「東京デイサージェリークリニック」開院。日帰り外科手術に特化した診療を提供している。医学博士。日本医科大学消化器外科講師。日本ヘルニア学会評議員、日本外科学会外科専門医・指導医、日本消化器外科学会専門医・指導医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医ほか。

ヘルニアも含めた用語解説

ヘルニアも含めた用語解説

編集部編集部

脚の付け根に、目立つ膨らみがあります。これは一体なんですか?

柳先生柳先生

調べてみないとわかりませんが、「鼠径(そけい)ヘルニア」かもしれませんね。ヘルニアというと背骨や首を連想しがちですが、「はみ出ること」そのものをヘルニアと呼びます。また、脚の付け根は医学的に「鼠径」といいますので、鼠径ヘルニアという病名が使われています。

編集部編集部

なにが「はみ出て」いるのですか?

柳先生柳先生

多くの場合、ご自身の“腸”です。ポケットのように膨らんだヘルニアの中には、腸が通っています。ですから、お尻の脱肛とは別の「脱腸」と解されます。ただし、例外として、卵巣や内臓脂肪がはみ出しているケースもあります。

編集部編集部

腸が脚のほうまで落ちてきているということですか?

柳先生柳先生

その可能性はあり得ます。また、下腹部に同様のヘルニアが起きるケースもみられますね。腸の位置は通常なら「筋膜」で固定されています。しかし、なにかしらの理由で筋膜が弱くなったり穴が空いたりすることで、脱腸に至るという仕組みです。

編集部編集部

なにがきっかけなのでしょう?

柳先生柳先生

先天要因と後天要因があります。先天要因の場合、体質と考えていただくほかありません。後天要因としては、女性ならおなかが膨らむ妊娠男性ならおなかに力を入れる仕事などでしょうか。加えて、便秘やせきによる力みのほか、加齢によって内臓を支える筋肉が弱まることも、きっかけのひとつです。

放置していても、自然には治らない

放置していても、自然には治らない

編集部編集部

下着の種類によっては、ヘルニアがうまく収まってくれますか?

柳先生柳先生

「ヘルニアバンド」という下着が市販されているものの、外からヘルニアを押さえてくれるだけで、治す効果は望めません。むしろ重篤化のリスクがあります。もっとも、ヘルニアの中に挟まって腸が閉塞(へいそく)する「嵌頓(かんとん)」を防ぐといわれているので、受診までの“時間稼ぎ”としては有効でしょう。

編集部編集部

そのうち治るということはないのですか?

柳先生柳先生

タイヤのパンクと一緒で、基本的に成人の鼠径ヘルニアが自然に治ることはありません。また、腹圧の影響を受け続けますので、時間と共に進行していく病気です。外科手術が唯一、効果的な対処方法といえるでしょう。

編集部編集部

鼠径ヘルニアだと自覚するキッカケとかはありますか?

柳先生柳先生

初期の自覚症状は「ふくらみ」だけです。しかし、やがて閉塞を起こすと、腹痛や吐き気などの症状が生じます。このレベルに至ると命の危機も考えられるため、違和感があれば受診してください。

編集部編集部

水などがたまっているだけということはないのですか?

柳先生柳先生

たしかに、ヘルニアの前触れとして、女性に多くみられます。しかし、それがわかるのはクリニックでの検査のみです。楽観視や臆測で決めつけないようにしましょう。進行度合いによっては、大がかりな手術が必要となりますので、早めにご相談ください。

非現実的な予防より、「できたら手術」で治す

非現実的な予防より、「できたら手術」で治す

編集部編集部

先ほど、手術で治るとのことでしたが?

柳先生柳先生

はい。腹膜の穴や弱った部分を、メッシュ状の人工膜で補強します。なお、当院の場合、予約による日帰り手術が可能です。手術当日は公共の交通機関をご利用になり、バイクや車での来院はお控えください。

編集部編集部

メッシュで補強すれば、再発を防げるでしょうか?

柳先生柳先生

残念ながら、再発の可能性を「ゼロ」にはできません。一般に3%ほど、当院比でも1%弱程度は起こり得ますね。なお、脚の反対側や他部位に生じたヘルニアは「再発」に含めません。別個という扱いですが、こちらは散見されます。

編集部編集部

仕事や習慣で、避けられるものがあれば避けるべきですか?

柳先生柳先生

鼠径ヘルニアは、治療方法が確立していて再発率も低いため、私個人としては、「できたら治す」で構わないと考えています。鼠径ヘルニアのために仕事や生活を変える必要はないでしょう。避ける事柄があるとすれば、「肥満」と便秘などによる排便時の「力み」です。それぞれの解消に努めてください。

編集部編集部

最後に、読者へのメッセージがあれば。

柳先生柳先生

昨今、「総合診療科」という標榜科を目にすることが多くなってきました。外科や内科などの専門性をもたない、「なんでも相談窓口」のような位置づけです。お体のことで受診先がわからなかったら、最寄りの「総合診療科」をご活用ください。その医院で完結できるケースもありますし、適切な専門医院を紹介してくれる場合もあります。とにかく、受診していただくことが必要です。

編集部まとめ

自分の腸が脚の付け根からはみ出てくるなど、考えただけでも怖いですよね。放置していていい道理がありません。当然ですが恥ずかしさよりも健康を優先すべきで、30分ほどの手術で元に戻せます。また、予防のために無理を強いるより、「なってから考える」という発想が新鮮でした。それだけ安全性や効果が担保されているのでしょう。心当たりのある人は、この機にご検討ください。

足の付け根に痛みがある症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。

医院情報

東京デイサージェリークリニック

東京デイサージェリークリニック
所在地 〒103-0027 東京都中央区日本橋2-2-2 マルヒロ日本橋ビル2F
アクセス 東京メトロ「日本橋駅」 徒歩1分
東京メトロ「大手町駅」 徒歩2分
JR「東京駅」 徒歩4分
診療科目 外科、消化器外科、内視鏡外科、肛門外科

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