「アレルギー性鼻炎」と「副鼻腔炎」の原因や症状は、それぞれどう違うの?
同じ「鼻」という文字が使われる「アレルギー性鼻炎」と「副鼻腔炎」。病名が異なるということは、そのまま「異なる病気」を意味するのでしょうが、いまいちピンときません。そこで、耳鼻科の医師に、詳しい話を伺ってみました。「おくクリニック」の奥先生が解説します。
監修医師:
奥 雄介(おくクリニック 院長)
大阪医科大学医学部卒業。大学病院や国立病院などの耳鼻咽喉科・頭頸部外科で研修を積んだ後、各病院の医院や医長を勤める。2018年、培ってきた経験を地域医療に反映すべく、埼玉県さいたま市に「おくクリニック」開院。日本耳鼻咽喉科学会認定耳鼻咽喉科専門医、厚生労働省補聴器適合判定医師、日本耳鼻咽喉科学会補聴器相談医、日本耳鼻咽喉科学会騒音性難聴担当医、日本めまい平衡医学会認定めまい相談医、日本東洋医学会認定漢方専門医。
それぞれ違う病気だが、相互に関係することもある
編集部
副鼻腔炎って、昔は「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれていましたよね?
奥先生
はい。「蓄膿症」は、「膿(うみ)がたまる症状」と書きます。この膿の原因は主に細菌感染で、膿そのものが細菌をさらに増殖させ、悪化していくこともあります。他方、アレルギー性鼻炎は、アレルゲンへの免疫反応です。
編集部
わざわざ「副鼻腔」と書くからには、「鼻」ではない?
奥先生
鼻腔は、鼻の中のことで吸気の湿度や温度調整を担っていると考えられています。副鼻腔は、鼻腔の奥に続く洞窟のような空間です。副鼻腔炎は副鼻腔、アレルギー性鼻炎は鼻腔内の下鼻甲介が主な炎症部位ですから、アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎は病気の中身として考えても、炎症が起きている場所として捉えても別の病気です。
編集部
両者の関連性は低いのでしょうか?
奥先生
いいえ。併発している人も少なくありません。例えば、アレルギー性鼻炎で鼻の粘膜が腫れ、もともとあった副鼻腔炎を治りにくくしているようなケースです。両者を完全に切り離して考えないほうがいいと思います。
専門家の医師は、どうやって鑑別しているのか
編集部
病気が違うということは、症状も違うのですか?
奥先生
一般的に、アレルギー性鼻炎の鼻水はサラサラで、副鼻腔炎の鼻水はドロドロとしています。問題は、その中間の症状をどう評価するかですよね。鼻水の質だけですべてを診断するのは、無理がある印象です。
編集部
発症している季節や発熱の有無も加味して診断すべきだと?
奥先生
花粉症なら季節が関係しているでしょうが、例えばハウスダストによるアレルギー性鼻炎は季節を問わないですよね。また、副鼻腔炎は菌による炎症だから発熱を伴うかというと、そうとも限りません。結局は、ケース・バイ・ケースになります。
編集部
どうやって診断を付けているのでしょう?
奥先生
問診や視診では判断が難しい場合、耳鼻科なら鼻の奥をじかに見ることができる内視鏡機器(ファイバースコープ)があります。副鼻腔炎では、副鼻腔への通路から膿のような鼻水がでているのを確認できます。また、副鼻腔炎は副鼻腔の片方だけでも起こり得ます。例えば、むし歯が原因で副鼻腔炎をおこしている場合、むし歯のある側だけで発症するケースもあります。稀ですが、腫瘍が原因で片方のみ副鼻腔炎を起こすこともあります。これに対してアレルギー性鼻炎は、体全体の反応ですから、両方の鼻に起きます。
編集部
しかし、両側の副鼻腔炎もありますよね?
奥先生
もちろん、副鼻腔炎は両鼻で起こることのほうが一般的です。鼻水の出どころを確認するほか、「鼻茸(はなたけ)」といわれる鼻のポリープがあったら、慢性の副鼻腔炎と考えていいでしょう。正確に診断するためにCTなどの画像評価をおこなう場合もあります。アレルギー性鼻炎は、採血などのアレルギー検査で確定診断していきます。
意外な盲点をはらんでいる市販薬
編集部
治療方法も、それぞれ異なりそうですね?
奥先生
アレルギー性鼻炎の場合、アレルギー反応を抑えるアレルギー薬や「アレルゲンをなるべく遠ざける工夫」が求められますよね。このとき、なにに対するアレルギーなのかを調べてみるのも大切です。対する副鼻腔炎は、抗生剤を含めた薬による治療をおこないます。それでも改善しない場合は、手術が必要になることもあります。また、鼻うがい(鼻洗)はアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎ともにご家庭でもできる簡単な処置として有効です。
編集部
市販薬はどうなのでしょう?
奥先生
アレルギー性鼻炎と副鼻腔炎を問わず、スプレータイプの点鼻薬の使用に関しては慎重になったほうがいいと思います。なぜなら、薬剤性鼻炎の原因とされる成分を含んでいることが多いからです。飲み薬にしても、間違ったお薬を飲み続けると問題です。やはり初手としては、「どういった病気なのか、医師に診断してもらうこと」なのではないでしょうか。
編集部
医師の処方する点鼻薬なら安全ですか?
奥先生
長期使用しても問題ない点鼻薬もありますし、「さまざまな利点とリスクを考えて処方している」と言ったほうが正確でしょうか。また、補助的な治療として漢方薬を使うこともあります。西洋薬との飲み合わせによる弊害もありませんし、長期にわたって服用できます。
編集部
自分で気付いていないケースってあるのですか?
奥先生
あります。自覚症状はなくてもアレルギーを治療していくことで集中力など日常生活におけるパフォーマンスの向上につながる可能性もあります。他方、副鼻腔炎の症状に乏しい場合、次第に膿や鼻茸が拡大していくこともあります。匂いがわかりにくい、鼻声などを自覚のきっかけとして、「いつかは耳鼻科のお世話になる“かも”しれない」と考えておいてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
奥先生
一般の人がアレルギー性鼻炎と副鼻腔炎を見分けることは難しいケースや両者を合併することもあります。耳鼻科以外の医師でも難しい場合もありますし、専門医に相談して、適切な診断を付けてもらいましょう。
編集部まとめ
鼻はなじみのある2本の穴、副鼻腔は鼻の周辺に広がる未知の洞窟。どうやら、場所としては、そんな違いがありそうです。そして、アレルギー性鼻炎はアレルギー反応で、副鼻腔炎は感染症の一種ということでした。症状の違いは不可分で、ファイバースコープなどで視認してみないとわからないこともあります。それだけに、自分での「決め打ち」はバクチに近く、市販薬による悪影響も考えられるのだとか。結論としては、当たり前ですが、「医療機関を受診しましょう」ということですね。
鼻づまり、くしゃみが止まらない症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
医院情報
所在地 | 〒331-0064 埼玉県さいたま市西区佐知川228-6 |
アクセス | JR「大宮駅」 バスで20分 |
診療科目 | 耳鼻咽喉科、漢方内科 |