健康診断の血液検査では、どんなことがわかるの?
体内の輸送網ともいえる血管は、さまざまな物質を運んでいます。そのなかには、病気と関係している“荷物”も含まれるでしょう。荷物検査からわかる事実もあるはずです。では、どの程度の範囲で、どれくらいの精度をもって、鑑別できるのでしょう。「健康館鈴木クリニック」の鈴木先生を取材しました。
監修医師:
鈴木 和郎(健康館鈴木クリニック 院長)
久留米大学医学部卒業。昭和大学病院第二内科入局、血液学専攻。昭和大学病院血液内科専任講師を経て1995年、東京都大田区に「健康館鈴木クリニック」開院。医院全体で「よりよいライフスタイル」を提言できるよう心がけている。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医・指導医、日本人間ドック健診専門医・指導医、日本臨床内科医会専門医・指導医。
検査項目の見る目が変わる、それぞれに必要な理由
編集部
血液検査って、具体的に何を調べているのですか?
鈴木先生
血液検査は、大きくわけると「血球系検査」、「脂質検査」、「肝機能検査」、「代謝系検査」の4種類があります。「血球系検査」は、「血液一般」などとも呼ばれていて、白血球や赤血球といった「血液に含まれる血球成分の数を調べる検査」です。例えば、赤血球やヘモグロビンの数が少なければ、貧血を疑います。
編集部
血球系はわかりやすいです。続けて「脂質検査」は?
鈴木先生
「脂質検査」は、「コレステロールと中性脂肪の『量』を調べる検査」になります。いわゆる「悪玉」として知られるLDLコレステロールが増えすぎると、動脈硬化を引き起こします。「善玉」のHDLコレステロールは血管のお掃除役なので、一定量が必要です。中性脂肪は肥満や動脈硬化の原因ですが、少なすぎるとエネルギー不足を起こします。なお、中性脂肪といっても実際は「糖」で、お酒などを飲みすぎると高い数値が出ます。
編集部
案外、身近なことがわかるのですね。「肝機能検査」はどうでしょう?
鈴木先生
「肝機能検査」は、「さまざまな血中成分の量から肝臓の『働き具合』を調べる検査」です。有名な成分は「γ-GTP」で、アルコールの分解能や肝炎などに関係します。また、「GOT」のように心筋梗塞と関係している酵素も検出できるため、肝機能だけの検査ではありません。筋トレが好きな人は、総じて「GOT」が高めです。
編集部
最後、「代謝系検査」についてもお願いします。
鈴木先生
「代謝系検査」は、「血液中のブドウ糖や尿酸の『量』を調べる検査」です。糖尿病は、血液中のブドウ糖の調節が効きにくくなる病気といえます。尿酸の異常値なら、腎臓疾患、痛風、結石などを疑います。補足となりますが、以上の4分類に加え、昨今では「感染症検査」も注目されています。ただし、標準検査としてではなく、ご希望や必要に応じておこないます。
「動かぬ証拠」とまでは言えないものの、有力な手かがりが得られる
編集部
血液検査の精度って、どれくらい正確なものなのでしょうか?
鈴木先生
血液検査だけで確定診断はできません。あくまでスクリーニングの材料です。また、精度を問うには、時系列の評価が欠かせないと考えています。仮に標準値の範囲だとしても、変わらずに安定している値と、急上昇中の値では、見方が違ってきますよね。ぜひ、同じ医療機関で健康診断や各種検診を受診してください。
編集部
つまり、血液検査だけでは、なんとも言えない?
鈴木先生
誤解しないでください。「確定診断に使われない」=「精度が低い」のではありません。医師からしたら、特定の疾患を疑う“手がかり”であることは間違いないのです。「とりあえず、証拠が1つ見つかった」という状態でしょうか。実際は、問診や超音波検査などと組み合わせて、診断に結びつけていきます。
編集部
血液成分って、常に安定しているのですか? 「ハズレの日」に受診してしまうことは?
鈴木先生
ありえますよ。先ほどご説明した「GOT」が典型です。激しい運動を続けていると、高めの数値が出ます。「食事による血糖値の変化」も知られているところで、10時間以上の空腹時検査を指示する医院がほとんどでしょう。当院は制限していませんけどね。
編集部
それは驚きです。異常値をみすみす出させるのですか?
鈴木先生
異常値が出るからこそ病気を発見できるわけで、「隠して」しまったら意味ありませんよね。また、「食事をしないでね」とお願いしたところで、食べちゃう人は食べちゃいます。要は、「どれくらい前に何を食べていて、その結果、この値が出ている」ことが把握できていれば十分です。そのうえで、異常かどうかを総合判断します。とくに糖尿病の発見は、空腹時検査だと拾いきれません。食事制限をしない「随時血糖」で診たほうが正しく診断できると考えています。
実は統一されていなかった、判定結果の区分
編集部
今さらですが、判定結果の「AやB」の意味について教えてください。
鈴木先生
実は、医療機関によって判定基準がバラバラなんですよね。検査結果表の下部などをご覧になって、都度、確認していただくしかありません。「A」が「異常なし」であることくらいは、統一されていますかね。
編集部
一応、どのような段階があるのかだけでも教えてください。
鈴木先生
「異常なし」、「健康だけど、今のうちから取り組んでおいたほうがいいこともありますよ」、「要治療には至らないものの、定期的に経過観察したいですね」、「治療が必要なレベルです」といった感じでしょうか。ただし、例外もあります。
編集部
例外というと具体的には?
鈴木先生
例えば、B型肝炎の方などで「BやC判定が出続けるにも関わらず、肝機能が正常」というケースが考えられます。この場合、肝硬変や肝がんなどへの移行は、超音波検査で診ていく必要があります。なおのこと、患者さんの事情が把握できている医療機関で、健康診断を受け続けていただきたいですね。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
健康診断の上手な利用方法は、去年やその前の年と比べて、どのような違いが起きているかを確認することです。単年の検査結果に一喜一憂していても、得られるところは少ないでしょう。また、持病をお持ちの場合、「BやC」がその方の正常値ということも考えられます。かかりつけ医のような、患者さんの事情をわかっている医院で、検査、評価してもらってください。
編集部まとめ
どうやら血液検査は、病気を疑う“第一歩”という位置づけになりそうです。その中身として、「肝臓と腎臓に関するものが多い」という印象を受けました。ただし、適切に評価するには、時系列の変化をウォッチする必要があります。医療機関によって判定結果の区分が違う場合もあるので、なおのこと同じ医院で検査してもらうと、混乱を防げます。
医院情報
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アクセス | 京浜急行線「梅屋敷駅」 徒歩4分 |
診療科目 | 内科、小児科、婦人科、呼吸器科、消化器科、膠原病科、放射線科 |