「健康診断」と「人間ドック」の違いについて教えて!
半日から終日にかけ、多彩な検査がおこなわれる「健康診断」と「人間ドック」。人間ドックのほうが「より本格的」という印象を受けますが、具体的に何が違うのでしょう。我々は、どう使い分けていくべきでしょうか。健康診断と人間ドックの双方を手がける「健康館鈴木クリニック」の鈴木先生に解説していただきました。
監修医師:
鈴木 和郎(健康館鈴木クリニック 院長)
久留米大学医学部卒業。昭和大学病院第二内科入局、血液学専攻。昭和大学病院血液内科専任講師を経て1995年、東京都大田区に「健康館鈴木クリニック」開院。医院全体で「よりよいライフスタイル」を提言できるよう心がけている。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本血液学会認定血液専門医・指導医、日本人間ドック健診専門医・指導医、日本臨床内科医会専門医・指導医。
健康診断は用意された弁当、人間ドックは対話のあるコース料理
編集部
健康診断と人間ドックの違いって、ズバリ検査項目の多さでしょうか?
鈴木先生
端的に言えば、「費用負担をしてもらえる範囲で“健康状態を確認する”のが健康診断」で、「自費でじっくり隅々まで“病気の有無を調べる”のが人間ドック」になるでしょうか。その結果として、検査項目の差が出ます。健康診断なら多くても15項目ほど、人間ドックなら50項目ほどでしょうか。また、紙などでの通知で済ませず、医師から結果説明や保健指導などを受けられるのが、人間ドックの大きな特徴です。
編集部
費用を比べると、人間ドックのほうが高くつきますよね?
鈴木先生
費用負担を外した相場だけで比べると、健康診断は高くて3万円ほどです。ただし、医院や検査項目によって、費用にバラつきがあります。企業の正社員は、年に一度の健康診断が義務付けられていますので、企業で健康診断の費用負担をしています。一方、人間ドックはだいたい5万円前後ですね。
編集部
アルバイトやフリーランスの人は、自費でしか健康診断を受けられないのですか?
鈴木先生
40歳から74歳までは、自治体が一部費用負担する「特定健康診査(特定健診)」を利用できます。75歳以上なら「後期高齢者健康診査」ですね。したがって、39歳までの非正規社員は自費で健康管理をしていただくことになります。是非は別として、「ウォッチが必要な重篤疾患は、主に40歳以上で発症」という背景があるのでしょう。
編集部
一方、医師と会話ができる点は、人間ドックの大きな魅力です。
鈴木先生
そうですね。同じ医療機関で人間ドックを受け続けると、より効果的なアドバイスが得られるでしょう。検査結果は、時系列で評価してこそ意味があります。例え正常値であっても、ぐんぐん異常値へ近づいていたら危険ですよね。当然、アドバイス内容に反映されます。ところが、1回検査しただけの評価では、将来が見通せないのです。
編集部
なるほど。同じ医院での継続性について、健康診断はどうでしょう?
鈴木先生
原則としては同様なのですが、企業側がセッティングしますから、個人で選べないですよね。また、管理の手間を考えると、画一的な進め方になってしまうのでしょう。これに対して、個人で選べる特定健診や後期高齢者健康診査は、できるかぎり同じ医療機関に通い続けてください。
がん検診も含めた三者のすみ分け
編集部
人間ドックって、受けるタイミングが難しくて悩みます。
鈴木先生
多くの場合、健康診断や特定健診などで異常値が出てから、人間ドックや精密検査を受けるのではないでしょうか。人間ドックは「病気を見つける」検査ですから、どこか心配な臓器や組織があって、始めて「受けてみようかな」と思われるのでしょう。年齢も大きく関係していて、やはり年を取るほど、人間ドックの重要性が増してきます。
編集部
正直なところ、健康診断で「B判定」くらいだったら、人間ドックを受ける気になりません。
鈴木先生
「B」や「C」は「経過観察」レベルなので、健康診断を受け続けていただければ結構です。無理してまで人間ドックを受診する必要はありません。注意すべきは、「D」や「E」判定です。
編集部
健康診断のない自営業の方などは、どうしているのですか?
鈴木先生
人間ドックの検査項目を必要最小限に絞りこんで、定期受診されている方もいらっしゃいます。自分で気になるオプションを追加してもいいでしょう。任意の人間ドックに決まったパターンはありません。
編集部
お酒と肝臓の関係など、自分が気になるポイントの検査は「検診」ですよね?
鈴木先生
そうですね。各種がん検診は、健康診断や特定健診のオプションとして用意されています。健康診断は「速やかに」、人間ドックは「じっくり広く」、がん検診は「ピンポイントに特化して」というすみ分けでしょうか。
健康管理の目的が薄れ、形式的になりがちな健康診断
編集部
企業によっては、「健康診断から先」の理解が得られないことがあります。
鈴木先生
人間ドックを受けたいと言っても、「有給休暇で」ということになりかねないですよね。そのため、本来なら必要な方の検査が遅れることもあるでしょう。また、健康診断が企業にとってのコンプライアンス目的になり、本当の意味合いを失いかけている側面もあります。がんなどの重篤な病気を調べたいなら、健康診断では拾えません。
編集部
医師会などで、企業への働きかけをおこなっているのですか?
鈴木先生
個人情報が関わってきますので、それはなかなか難しいですね。健康診断の結果をどこまで企業と共有するのか、あらかじめ決めておく必要があります。日本は個人情報について「うるさいほう」なので、そのこともあって、健康管理が理想的に進んでいません。
編集部
本来なら、「医師-企業-個人」の三者共有が理想的だと?
鈴木先生
そう思いますね。個人情報に「うるさい」というより、個人情報の意味を「わかっていない」と考えます。健康診断が義務づけられていること自体、日本に住んでいる大きな恩恵なので、もったいないですよね。また、非正規雇用の方が福利厚生の網から漏れている点も見逃せません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
健康診断の目的は「今の健康状態を調べる」こと、人間ドックの目的は「重篤な病気を見つける」こと。この違いが何かを意味しているのではなく、制度的に「こうなっています」というにすぎません。健康管理のあり方が「これでいいのか」という点に関しては、これからの議論を待つしかないでしょう。
編集部まとめ
健康診断は「現状の調査」、人間ドックは「病気の発見」、加えて、がん検診は「特定のがんの検査」という違いがあるのでした。健康診断が法律で義務化されているとはいえ、「国から指摘されないよう実施している」にすぎないのであれば、実を伴っていません。やはり、健康管理は自己責任で、任意に動く必要があるでしょう。任意の人間ドックやがん検診を、近場の医師や産業医などと相談しながら、活用してみてください。
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