90歳を超えても白内障の手術は受けられますか?
濁った目の水晶体に代わって、人工レンズを埋入する白内障手術。物理的な処置が伴う以上、オペのリスクを含みます。また、一般的な外科手術は、高齢者ほどリスクが高いとされています。はたして、白内障手術の年齢制限はあるのでしょうか。「西條眼科医院」の水落先生を取材しました。
監修医師:
水落 誠(西條眼科医院 医師)
聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学病院入職後、関連病院にて白内障などの手術治療および外来診療に約20年間従事。2020年、東京都豊島区に位置する「西條眼科医院」勤務。患者の身になって考える診察に努めている。日本眼科学会専門医、身体障害者福祉法指定医、難病指定医。
年齢ではなく、生活への支障の有無が問われる
編集部
白内障の手術に、年齢制限はあるのですか?
水落先生
結論から言うと、年齢制限はありません。ちなみに白内障は老化の一種で、誰でも少なからず発症します。一般に、50代で約40%、60代で約70%、70代で90%、80代以上ではほぼ全員が白内障になるといわれています。
編集部
一部に慎重論があるのは、どうしてでしょう?
水落先生
おそらく、余命と手術リスクを天秤にかけての意見だと思われます。仮に手術を受けた場合、若い方ほどその効果が長く得られます。他方、平均寿命を超えた方がどれだけ手術の恩恵を得られるかというと、「限られている」のは事実です。費用もかかりますしね。
編集部
本人の「見え」の自覚にもよりますよね?
水落先生
「見え」に不自由さを感じていて、それが白内障によるものなら、“年齢を問わず”手術したほうがいいと考えます。白内障がどの程度進行しているのかについては、いつでも遠慮なくご相談ください。日々、少しずつ進行する病気なので、「見えにくさ」に慣れてしまっているかもしれません。
編集部
先生は、90歳を超えての白内障手術について、どうお考えですか?
水落先生
日常生活を不自由なく過ごされているのであれば、無理してまで手術する必要はないでしょう。結局のところ、「患者さんが困っているかどうか」で、手術の要不要を問うのだと思います。
人工レンズにピント調節機能は付いていない
編集部
いずれにしても、よく見えることはメリットですよね?
水落先生
もちろんメリットなのですが、白内障手術は「視界がクリアになる」手術であって、ピント合わせをしやすくする手術ではありません。水晶体という、もともと体の中にあるものが人工物に置き換えられるので、むしろピント調節はしにくくなります。
編集部
遠近の見えについては、人工レンズの性能を頼るしかないと?
水落先生
そういうことです。加えて、保険診療を前提とすると、ピントが固定された「単焦点眼内レンズ」しか選べません。保険適用可能な「多焦点眼内レンズ」は1種類だけあるものの、まだ症例数が少なく、もう少し様子を見たいところです。
編集部
単焦点眼内レンズの場合、どこに「見えの中心」をもってくるか、好みが分かれそうですね?
水落先生
今まで過ごしてきた生活環境に合わせると、術後の違和感が少ないと思います。例えば、老眼が出ていたとしたら焦点を中遠距離に設定し、近場は今までどおり「老眼鏡をかけて見る」イメージです。逆に近眼で、中遠距離をメガネで見ていた方なら、近距離合わせがいいでしょう。
編集部
もし「メガネ要らず」を望むなら、自費の「多焦点眼内レンズ」にすべきでしょうか?
水落先生
「多焦点眼内レンズ」に関しては、術後の結果にバラつきがあるため、手術を考えている人は実際のクリニックで十分に相談することをお勧めします。保険が認められていないため、費用もかかりますからね。ちなみに、「多焦点眼内レンズ」の手術費用は、片目あたり自費で40万円から50万円ほどします。
白内障以外で得られる恩恵も
編集部
白内障治療の最新事情がありましたら、教えてください。
水落先生
最近だと、認知機能との関連が問われるようになってきました。手術によりクリアな視界を得たほうが、認知症予防につながるという考え方です。また、白内障による濁りが、スマホなどからのブルーライトを、「より悪影響のあるものへ変質させる」という報告もあります。白内障の手術により、睡眠障害の改善に寄与した症例があるくらいです。
編集部
患者さんが見えに困っていなくても、手術の恩恵は得られるということですか?
水落先生
ケース・バイ・ケースですけどね。ただし、自立した生活のできるうちに、白内障の手術を受けておいたほうが、「後々楽である」ことは事実でしょう。そうした観点で、医師の側から手術を提案することもあります。ご家族とともに検討してみてください。
編集部
ちなみに、白内障手術の効果って、白内障だけですか?
水落先生
緑内障の予防にも一役買っています。白内障になると、水晶体が膨張するんですね。その結果、眼圧の調整をしている「水の出口」をふさいでしまいかねません。このような「閉塞隅角緑内障(へいそくぐうかくりょくないしょう)」は、水晶体を除去する白内障手術で予防できます。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
水落先生
加齢とともに、白内障や老眼など、見えの不具合を感じる場面は多くなるでしょう。重篤な病気が隠れていることもありますので、白内障の手術に限らず、目の状態を調べてみてはいかがでしょうか。検査結果をふまえて、今後どうすべきか、ご一緒に考えていきましょう。
編集部まとめ
大前提として、生活に困っていなければ、無理してまで手術する必要はないということでした。他方、認知症やブルーライトによる弊害など、見えの問題以外で得られるメリットもあるようです。「視界がクリアになる手術であって、ピントを合わせやすくする手術ではない」ことを踏まえ、医師と一緒に、必要性を判断していきましょう。
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