「前立腺がん」に良い飲み物ってあるの? 緑茶に予防効果があるって聞くけど本当?
緑茶のもつ数々の効能は、至る所で散見します。その最たるものが、前立腺がんの予防効果でしょう。はたして、医学的に信用できる話なのか。仮にそうだとしたら、どのような成分や仕組みが関わっているのか。「くぼたクリニック松戸五香」の窪田先生に、その真偽を確認してみました。
監修医師:
窪田 徹矢(くぼたクリニック松戸五香 院長)
獨協医科大学卒業。国立病院機構千葉医療センター、成田赤十字病院にて研修。その後、国保松戸市立病院(現・松戸市立総合医療センター)泌尿器科、千葉西総合病院泌尿器科などの勤務を経た2017年、千葉県松戸市に「くぼたクリニック松戸五香」開院。地域に根差したおもいやりの医療を提供している。日本泌尿器科学会専門医・指導医、日本医師会認定産業医、日本プライマリ・ケア連合学会、日本透析学会正会員。
前立腺がんと緑茶の関係
編集部
緑茶と前立腺がんの関係を頻繁に聞くようになってきましたが、確かな情報なのでしょうか?
窪田先生
「国立がん研究センター」が2019年の末、緑茶が前立腺がんに効果がある旨を発表しました。同発表によると、前立腺の外に広がる「進行がん」に限定してですが、緑茶を1日5杯以上飲むグループは、1日1杯未満しか飲まないグループと比べ、罹患(りかん)リスクが約50%低下したそうです。
編集部
緑茶のなにが、前立腺がんのリスクを下げているのでしょう?
窪田先生
おそらく、緑茶に含まれるカテキンが、がん細胞の「進行」を抑えているものと思われます。前立腺がんのステージはⅣ段階あり、このうちⅠとⅡは「限局がん」といわれ、がんが前立腺の中にとどまっている状態です。Ⅲはがんが前立腺の外側まで進んだ状態、Ⅳは転移を始めた状態です。同発表が着目しているのは、Ⅲ以上の「進行がん」ということですね。
編集部
えっ? すると、すでに前立腺がんが発症しているってことですよね?
窪田先生
そういうことです。緑茶と前立腺がんの発症との関係については、なにも触れていません。あくまで、「限局がん」から「進行がん」へ発展するリスクが低下したという報告です。なお、前立腺がんの患者さんのうち約7割は、「限局がん」でとどまっています。
編集部
先生は、この報告について、どうお考えですか?
窪田先生
緑茶を飲むと前立腺がんに“かかりにくい”のではありません。あくまで「進行」を抑える効果があるということです。ここは、誤解のないようにしておいてください。また、前立腺がんの患者さんの多くは、自分がどのステージなのか、把握していないと思います。ご自身の状況を把握しておかないと、情報として成り立たないでしょう。
緑茶以外の前立腺がんに良い飲み物・食べ物
編集部
緑茶以外の食品で、前立腺がんの罹患と関わっていそうなものはありますか?
窪田先生
アジアにおける前立腺がんの罹患率は世界と比べて低いため、「食事内容が関わっているのではないか」といった研究が盛んです。一例としては、大豆に含まれる「イソブラボン」ですね。また、アメリカの研究で、カフェインに関するものもあります。罹患していない方が前立腺がんを予防するとしたら、緑茶より「ソイラテ」をお薦めします。
編集部
その一方、食べ物だけで罹患率が左右されるわけでもないですよね?
窪田先生
そうですね。がんの発症には、遺伝、年齢、人種、環境などが複雑にからみますので、一元的な説明がなじみません。ただし、前立腺がんはほかのがんと比べ、ホルモンが大きく関わっています。たとえば、食肉の中に飼育ホルモン剤などが含まれている場合もあります。摂取すれば多少なりとも、体に影響することも考えられるのではないのでしょうか。つまり、食事内容との関係は否定できないといえるでしょう。
編集部
そうしたなか、冒頭の緑茶の研究を、どう受け取ればいいのでしょう?
窪田先生
前立腺がんの「診療ガイドライン」は、緑茶に関して、「今後の検討が必要である」という記載にとどめています。よく考えてみると、「納豆がいい」と聞くと納豆ばかり食べて、「緑茶がいい」となると緑茶ばかり飲むって、おかしな姿ですよね。そうではなくて、バランスのよい食事を心がけてください。
編集部
前立腺がんに限らず、緑茶の効能をうたっているサイトが非常に多い印象です。
窪田先生
ものごとのプラス面を見つけたら、必ずマイナス面も探すようにしてください。緑茶で挙げるなら、カフェインの取りすぎですよね。カフェインの取りすぎは頭痛、尿管結石、依存症などを招きかねません。都合のいい情報だけを選択して取り入れないことが重要です。
情報に迷ったらすぐ専門家へ
編集部
食品の効能については、悪質なデマも多いですよね?
窪田先生
フェイクによる愉快犯もあれば、過度な宣伝行為もあり、情報そのものの信頼度が揺らいでいると思います。すべてを取り入れようとして悩むのではなく、情報の取捨選択が求められるでしょう。
編集部
情報が錯綜していて、正直なにを信じていいのかわかりません。
窪田先生
国か、国に準ずるような公的機関の発表なら、信じてもいいのではないでしょうか。ただし、今回の緑茶の報告にしても、正しく解釈しないと誤解を招きます。総じて、医学のことであれば、お近くの信頼している医師に聞いてみてください。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
窪田先生
「○○がイイ」の類いに引っ張られすぎないことでしょうか。むしろ、多くの食べ物を摂取していれば、リスクもそれだけ分散するはずです。また、ニュートラルな立ち位置にいたほうが、バランスが崩れたときのリカバリーも容易です。あまり極端な判断をしないように、気をつけてみてください。
編集部まとめ
出口のなかなか見いだせない人が、ワラにもすがりたい気持ちはわかります。しかし、それとは別に、「安直な回答」を求めてしまいがちな傾向が、我々の内面にあるようです。「バランスは健康のド真ん中」。これは、数々の取材を通して語られていた共通項と言えるでしょう。このようなご時世だからこそ、モノに頼るのではなく、自分を信じるような工夫が求められます。それでも困ったときは、医師という専門家に聞くのが王道でしょう。
医院情報
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診療科目 | 泌尿器科、内科、皮膚科 |