小児がん克服後にやってくる「晩期合併症」とは?
昨今、「がんサバイバー」という言葉を目にするようになってきました。各種がんと診断された人、治療中の人、がんとの闘病を無事に乗り越えた人たちを含む、「がん経験者」のことです。そのなかで、筑波大学附属病院小児科医の福島先生によると、小児がんサバイバーは、がんを克服しても「第二の闘病」が待っているそうです。大人のがんと同列には語れない小児がんの現状を、詳しく取材しました。
監修医師:
福島 紘子(筑波大学附属病院 小児科医)
筑波大学医学専門学群卒業。筑波大学附属病院小児科での研修医を経て、2015年から現職。2018年には、総合的な診療・相談の外来をセットでおこなう「小児がんサバイバードック」を開設。子どものころに闘病し、克服した命を守る活動に従事している。専門は小児血液腫瘍疾患。日本小児科学会認定専門医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本人類遺伝学会人類遺伝専門医。
年齢は10代でも身体は40代、小児がんにかかるとどうなるのか
編集部
先生のご専門は、「小児血液腫瘍疾患」ということですが?
福島先生
簡単に言うと、小どものがんや血液疾患、遺伝を専門にしています。また、2018年に「小児がんサバイバードック」を立ち上げました。仮に小児がんを克服したとしても、後日、さまざまな全身疾患に悩まされることが多いからです。
編集部
「小児がんサバイバードック」とは一体なんですか?
福島先生
小児がんの患者さんが大人になってから発症する病気のことを「晩期合併症」といいます。この晩期合併症を早期に発見し、あわせて長期のフォローアップにつなげていくような検診システムです。
編集部
小児がんの晩期合併症には、どんな病気があるのでしょう?
福島先生
まさに“さまざま”です。身長や体質などを左右する成長障害、不妊や甲状腺の機能に関わってくる内分泌障害、心疾患ほか各内臓疾患、呼吸器・循環器の疾患、骨や歯の異常、免疫低下による合併症、そして二次がんなどです。
編集部
これらの罹患(りかん)率が、小児がんにかかっていない人よりも“高い”ということですよね?
福島先生
はい。わかりやすいイメージとしては、大人の生活習慣病が、“20年から30年”前倒しになって現れるといったところでしょうか。加えて、通常なら起こりえないこと、例えば、小児がんによって「足を切除するケース」なども生じえます。
がんや治療そのものが、成長を抑制することも
編集部
どうして罹患率が“高い”のでしょうか?
福島先生
まず考えられるのは、小児がんが「治る病気」になってきたことです。生き延びられる、つまりサバイバーできるからこそ、次の病気へかかる可能性が生じてきました。小児がんの治癒率は、現段階で、おおむね8割前後となっています。
編集部
がんの治療方法が悪影響を与えることもありますよね?
福島先生
そのとおりです。挙げられる要因としては、やむを得ず放射線治療などを用いた結果、髪の毛が抜け落ちてしまうようなケースです。また、強い抗がん剤の使用なども同様ですね。命を優先すると、場合によっては、よく知られている副作用が避けられません。
編集部
子どもならではの特徴はあるのですか?
福島先生
お子さんは“成長する”んですよね。放射線や抗がん剤は、正常な細胞の成長を抑制してしまうことがあります。また、小児がんが体の左右いずれかだけに発症していると、正常な側だけ発育しますので、体のバランスを崩してしまいます。大人は“育ち終えて”いるので、その点が、成人のがんと小児がんの大きな違いといえるでしょう。
編集部
子どもならではの問題点を、もう1例ほどお願いします。
福島先生
考え方ひとつですが、高齢者なら、「治療せずに、余生と折り合いをつける」という選択肢もあります。ところが、余生の長いお子さんの場合、「治療して治しきる」ことが前提になるでしょう。つまり、より“副作用の強い”治療法を選択するケースが、十分に考えられるということです。
病気のことは医師に任せて、人生を楽しむ
編集部
小児がんを克服できたと思ったら、再び闘病生活が待っているとなるとご家族も心配ですよね?
福島先生
ご本人も含め、ご家族で晩期合併症の早期発見に努められればベストです。しかし、その前段階の「小児がん」という事実が大きすぎて、克服後の生活になかなか目を向けられないんですよね。元の小学校へ戻るといった「生活上の変化」も待ち受けていますから、晩期合併症をケアする余裕がもてません。
編集部
でも、現実問題として、晩期合併症のリスクはあると?
福島先生
ご自身やご家族ですべてを抱え込もうとせず、少なくとも医療の問題は、かかりつけ医へ任せてしまいましょう。年に1回程度の定期検診だけ留意しておいて、なにかあったら、主治医から連絡が来るようにしておきます。それ以外の時間は、いつもどおりの生活を送ってください。もちろん、転校や引っ越しの際には、かかりつけ医の引き継ぎを推奨します。
編集部
かかりつけ医をもつとしたらどうすればいいのですか? 筑波大学まで通うのは遠いと感じる人は多いと思います。
福島先生
小児がんを治療したドクターに、成人後のことも含めていろいろ相談してみてください。理想的なのは、成人疾患を対象にしつつも、小児の病気が把握できていて、なおかつ、小児がんサバイバーへの理解もあるドクターでしょう。しかし残念なことに、小児医療と成人医療の連携が、現時点ではうまく取れていません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
福島先生
小児がんサバイバーの方は、1年365日のうち364日を元気に楽しく生活してください。ただし、残りの1日のみ、将来の健康管理のために使っていただけないでしょうか。我々医療従事者も、小児医療と成人医療の連携確保に努め始めています。ぜひ、ご一緒に、改めるべき点を改めていきましょう。また、知らない人にもこの現状を周知していけるように、引き続き活動をしていきます。
編集部まとめ
子どもは「成長すること」が仕事。しかし、その成長を妨げかねないのが、小児がんや晩期合併症ということでした。その意味で小児がんは、ほかのがんと一線を画す「固有の疾患」といえるのかもしれません。とは言え、日々不安に悩まされるのではなく、医師に任せられる部分は丸投げし、「年に1回程度の定期検診」を心がけてください。「元気に遊ぶこと」も子どもの仕事ですから、そのためにできることを実行しましょう。
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