新型コロナウイルスのワクチンはいつできる? ワクチン開発のプロセスを教えて!
感染症への終止符ともくされているワクチン。新型コロナウイルスに対する研究や進行状況はどうなっているのでしょう。「これで、安心」と言える日はいつ来るのか。「国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター」センター長の保富先生を取材しました。
監修医師:
保富 康宏(国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター センター長)
酪農学園大学獣医畜産学研究科獣医微生物学博士課程修了。ハーバード大学医学部助手、三重大学大学院医学系研究科教授などを経た2007年、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所霊長類医科学研究センター長就任。免疫制御ワクチン分野を設立し、主に免疫反応の調節による疾患制御および病態解明をおこなっている。獣医師、獣医学博士。米国免疫学会、日本ワクチン学会、日本ウイルス学会、日本エイズ学会、日本寄生虫学会、日本免疫学会、日本癌学会、日本獣医学会の各会員。
流通は年明けにも、ただし効果や副作用が不明
編集部
期待されている新型コロナウイルスのワクチンですが、ズバリ、時期的な目安は?
保富先生
「第3段階」という治験の最終プロセスを、2020年中に始められるワクチンはあります。また、緊急性を鑑みて、第3段階の治験と流通を同時進行させる動きもあります。ただし、患者を数万人規模で抱えている一部の国でしか、有効なデータは取れないでしょう。
編集部
どういうことですか?
保富先生
感染率が高い前提で、それをワクチンによって低く抑えられるから、「効果あり」と言えるのです。ところが、もともとの感染率が低い日本のような国の場合、「ワクチンで抑えられている」のか、「その他の生活習慣などで抑えられている」のか、わからないですよね。治験そのものが成り立ちにくいのです。
編集部
つまり、ワクチンと称されるモノが流通しただけでは、その実が見えないと?
保富先生
問題はそこからですね。広く流通してみたら、効く割合が治験より圧倒的に少なかったり、あるいは想定外の副作用が出たり、そんな実例が過去に山ほどあります。一例を挙げれば「RSウイルス感染症のワクチン」で、運用されてから多くの重篤者を出しました。
編集部
ワクチンといっても、いくつか種類があるのですよね?
保富先生
はい。代表的なワクチンの種類をまとめてみました。
・ウイルスベクターワクチン
ベクターとは、簡単に言うと「運搬係」のことです。新型コロナウイルスの遺伝子のうち、「感染の仕組みに関わっている部分」だけを取りだしてベクターに持たせると、挿入したコロナウイルスの遺伝子産物に対する抗体ができて、新型コロナウイルスをやっつけてくれます。「病気に関わっている部分」は持たせないので、比較的安全です。
・DNAワクチン
同じく、「感染の仕組みに関わっている部分」だけのDNAを体内に入れ、体内の細胞に、そのDNA産物(タンパク)を作ってもらいます。タンパクに対する抗体ができれば、新型コロナウイルスにも機能します。DNAワクチンの特徴は早く大量にできることですが、いままで実績がありません。
・RNAワクチン
設計図であるDNAからタンパク質がつくられるとき、二本鎖の片割れであるRNAの情報を読み取ります。だったら「最初からRNAを入れればいい」というのがRNAワクチンです。DNAワクチン同様、早く大量にできるものの、実用化の例はありません。
・不活性化ワクチン
新型コロナウイルスウイルスの本体を不活化したもの、もしくは不活化した一部を用いたワクチンです。不活性化ワクチンの実績は豊富ですが、開発に時間がかかります。
編集部
完成するとしたら、どれが早そうですか?
保富先生
RNAやDNAを用いた核酸ワクチンでしょう。なおかつ、大量につくれますから、価格が比較的安くなるはずです。ただし、評価が難しいという点と副作用の問題が残ります。
開発から流通までのプロセス
編集部
そもそも「治験」って、具体的になにをするのですか?
保富先生
ワクチンを打った人がどうなったか。それと同時に、ワクチンを打たなかった人がどうなったかを比較します。そのうえで、ワクチンを打った人だけに有意な差が認められ、安全性などの問題点もクリアできれば、承認手続きへ進みます。
編集部
「ワクチンを打たない人」の協力も必要なんですね?
保富先生
じつは、「ワクチンを打つ」と知らせると、その期待感だけで改善する人が一定数います。そこで、なにも知らせずに治験を進めているのが現実です。「治験向けのワクチン」と、「比較のための無害な液体(プラセーボ)」があるとして、医師ですら知らされていない場合もあります。
編集部
うーん、少し人道的な問題を感じます。
保富先生
おっしゃるとおりで、そのため、A.I.にワクチンの効果を予測させるような取り組みも始まりました。今までに得られた被験者の生体データやワクチンのデータを数多く入力しておいて、比較、分析させるわけです。また、今回の様な場合はプラセーボを置かない可能性も高いと思います。
編集部
ワクチンの開発国が自国民を優先することだってありえますよね?
保富先生
「自国民だけを優先するな」という声は、国内からだと通りにくいですよね。また、「特許なんて認めない」というお触れを出すと、利益追求型の企業は開発から手を引くでしょう。安倍総理は米国・英国のワクチンを依頼していると聞いています。これらが保険適用されたにしても、相当高額な可能性はあります。
抗体の自然獲得を待つ選択肢はアリか
編集部
その一方、知らずに抗体を獲得した人って、一定数いるのですよね?
保富先生
6月16日に、厚生労働省による抗体陽性者のサンプリング調査結果が発表されました。それによると、東京は0.1%、大阪で0.17%の方が、すでに抗体をもっていたということです。計算上では、1000人に1人から2人となりますね。
編集部
ワクチンが完成するまでの間、当然、抗体陽性者も増えるはずですが?
保富先生
そのとおりですが、「自然に抗体を獲得して収まる」というシナリオは、なんとしてでも避けないといけません。その前に、相当な死亡者が出ます。施策的に「なにもしない」ということですから、国民の納得が得られないでしょう。つまり、ワクチンによる抗体保持者を、是が非でも増やさなければいけないということです。
編集部
日本には、ワクチン接種そのものに否定的な考えがあるようです。
保富先生
日本に限らず、そういう集団は存在しますよね。HPVワクチンの接種勧奨にしてもそうですが、国が奨励しないと進みません。「ワクチンによる副反応」と「ウイルスによる死亡」は同列に語れないと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
保富先生
感染症対策として最も有効な方法が「予防」であり、予防に最も効果的な方法が「ワクチン」です。ですが、「本当に効くね、安心だね」という最終フェーズへ至るには、世界的な実験を同時進行していく時間が必要でしょう。ワクチンの初出が最終フェーズとは限らないことを、この機にご理解ください。
編集部まとめ
「ワクチンの初出が最終フェーズとは限らない」。我々は今から、この覚悟をしておきましょう。また、ワクチン開発にはさまざまなプロセスがあり、疑問を感じる点も少なからずあります。それでも“なお”、感染症に最も有効な手だてはワクチンです。協力できることがあれば「世界実験」に参加し、早々に最終フェーズを引き寄せたいもの。世界中が「待ち」になってしまうと、むしろ、ゴールを遠ざけかねません。
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