「肝斑にレーザー治療は逆効果」これってホント?
頬や目の下の部分にできやすい、モヤッとした「肝斑」。シミ対策として多用されているレーザー治療は、この肝斑にも有効なのでしょうか。シミも肝斑も、元をたどれば、同じメラニンという色素が関係しているはず。素人目には“同じ”と思える肌トラブルの治療方法について、「医療法人浜悠会 KO CLINIC」の黄先生を取材しました。
監修医師:
黄 聖琥(医療法人浜悠会KO CLINIC 院長)
横浜市立大学医学部卒業。同大形成外科入局、同大学附属市民総合医療センター形成外科助教を経た2014年、神奈川県横浜市に「医療法人浜悠会KO CLINIC」開院。スキンケアのなかでも肝斑の治療・対処法に注力している。日本形成外科学会専門医。日本レーザー医学会、日本美容外科学会、日本美容皮膚科学会、日本抗加齢医学会の各会員。横浜市立大学附属病院形成外科客員研究員。
肝斑は正常な細胞、シミは異常な細胞
編集部
肌のレーザー治療について、諸説まちまちな気がします。
黄先生
そうですね。「一般の方の認識」、「国内の学会で取りあげられていること」、「世界的な治療の傾向」のそれぞれでも違うと思います。今回は、私の個人的な見解も含めて、不定見な状況を整理させてください。
編集部
お願いします。さっそくですが、肝斑とはなんでしょう?
黄先生
あくまで見た目としてですが、「ある程度の広がりをもって色づいたお肌」のことでしょうか。その特徴は、境目がはっきりしていることです。他方、小さなツブツブ状の着色は、老人性色素班(一般的なシミ)になります。双方が併発している場合もありますね。
編集部
肝斑と老人性色素班は、それぞれ違うものなのですか?
黄先生
違います。ともに原因となるのは、色素を生みだしているメラノサイトという細胞です。ただし、肝斑の場合は、「正常に分裂する細胞(ケラチノサイト)」の中に色素を送り届けているようなイメージ、他方の老人性色素班は、「メラニン色素を含んだ異常な細胞(ケラチノサイト)」そのものを異常に増殖させているイメージです。
編集部
気になるのは、レーザー治療の向き・不向きです。
黄先生
仮にレーザーで細胞を“壊す”としたら、異常な細胞である老人性色素斑に有効です。他方、肝斑のメラニン色素を含んだ正常な細胞(ケラチノサイト)は、壊す必要がありません。メラニン色素を産生しケラチノサイトにメラニンを送り込むメラノサイトの活動を抑えられれば、いずれ消えていきます。もちろん、老人性色素斑であっても、メラノサイトの活動を抑える必要はあります。
編集部
つまり、肝斑の治療ではレーザーを用いないと?
黄先生
まず、「なぜ、肝斑ができてしまうのか」を突きとめないといけないですよね。要因は主に3つあり、①化粧品やスキンケアによる肌への刺激、②紫外線、③女性ホルモンバランスの変化です。女性ホルモンは、生理の周期、妊娠の有無、経口避妊薬などの服用によって変化します。これらの要因を改善することが先決でしょう。その次に、紫外線の刺激を受けにくい「トラネキサム酸(商品名・トランサミン)」の処方を検討していきます。
夢の治療法ではなかった「レーザートーニング」
編集部
しかし、一部で肝斑のレーザー治療を見かけますよね?
黄先生
かつて、「レーザートーニング」という方法が話題になりました。細胞ごと“壊す”のではなく、色素だけを除去するようなレーザー治療です。また、結果として肌にハリが出ることもあり、患者さんからしたら好評でした。
編集部
「でした」ということは、ハッピーエンドで終わらなかったのですか?
黄先生
そういうことです。レーザートーニングを繰り返し施術すると、合併症として「白斑(はくはん)」という一部の皮膚が白くなる病気になってしまう方がいたのです。メラノサイトの機能不全により、ぽっかりとした白い円ができてしまうんですね。
編集部
レーザートーニングが“逆効果”の場合もあると?
黄先生
最初からダメなのではなく、頻度と施術者の知識によるでしょう。実際、レーザートーニングについては、学会の中でも賛否両論です。なお、一般的な「Qスイッチルビーレーザー」などによる肝斑の治療は、前述のように、最初からダメだと考えています。正常な細胞を壊す必要はありません。
編集部
患者さんからしたら、レーザーの種類までは追えません。
黄先生
少なくとも、今までご説明してきたことは、知っておいていただきたいですね。そのうえで、受診時に「ああ、そんなことが書いてあったな」と思えるだけの十分な説明がなされているかどうか。その観点が、医院選びの要になると思います。将来的な変化要因とリスクの説明は欠かせません。
安易な結論に釣られないための理論武装
編集部
おさらいです。肝斑の特徴を教えてください。
黄先生
女性に多い理由は、「①化粧品やスキンケアによる肌への刺激」でしょう。なかでも30代から40代が顕著なのは、「③女性ホルモンバランスの変化」の影響を受けやすいからです。また、左右対称にできやすいとされていますが、「②紫外線」を片側からのみ浴び続ける環境にいると、この限りではありません。
編集部
治療を受けるとしたら、その効果はどれくらいから現れるのですか?
黄先生
三大要因の改善効果が現れるのは年単位です。したがって、先行してトラネキサム酸を処方することがほとんどです。それでも、平均して2カ月前後はかかります。多少改善する程度であれば、トラネキサム酸の内服でも可能です。長期的に安定した改善効果を維持していくには、根本的には三大要因を乗り越えた後でしょう。それには数年がかりで取り組んでいくことになります。
編集部
レーザー治療を甘く見ていました。
黄先生
個々の部分で是非を問うのではなく、「全体として見たとき、今やっている方法ってどうなの」ってことですよね。最初にお薬をのみ、三大要因を改善した後、肌質改善も兼ねたレーザートーニングを“限定的に”おこなうなら可です。その意味で、「肝斑にレーザー治療はアリ」なのでしょう。要は、使い方とタイミングです。
編集部
肝斑のセルフケア方法があったら教えてください。
黄先生
個人的な考えですが、「メラノサイトをなるべく刺激しない」のであれば、「化粧品はなるべく使わない」という結論になろうかと思います。化粧品の成分によっては、本来備わっている肌バリアを壊して浸透していくのです。また、「塗る、こする」といった摩擦も刺激の一種といえるでしょう。例えば、液状のファンデーションは合成界面活性剤を含んだ液体状のものがよくあります。パウダー状のものに替えれば、角層のバリア機能に負担をかける合成界面活性剤を避けられます。また角層に負担をかけるクレンジング剤を使用せずに洗顔も可能です。物理的な刺激である「塗る、こする」も避けられ、結果的に角層のバリア機能を守ることができます。角層を守ることでメラノサイトへの刺激を大分予防できることになります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
黄先生
好ましい治療結果が得たいのであれば、情報収集に時間をあてましょう。短絡的な「○○は□□にいい、あるいは悪い」という図式は、物事の部分的な面しか説明していません。安易な二元論からは、むしろ遠ざかることを推奨いたします。ある程度の理論武装ができてから、担当医の言うことを吟味してみてください。
編集部まとめ
どうやら、「組織の破壊」を目的とした肝斑のレーザー治療は、逆効果というより“不必要”ということになりそうです。「組織の破壊」というキーワードを、この機に覚えておきましょう。「組織の破壊」を伴わない種類のレーザーで、数回施術する程度なら可。ただし、そのタイミングは、三大要因の改善が達成された後ということでした。あとは、黄先生の理想とするこれら一連の流れを、どう受け止めるかでしょう。
シミに関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
医院情報
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診療科目 | 皮膚科、美容皮膚科 |