目次 -INDEX-

  1. Medical DOCTOP
  2. 医科TOP
  3. コラム(医科)
  4. 新型コロナの「抗体検査」とは? 抗体があればもう感染しない?

新型コロナの「抗体検査」とは? 抗体があればもう感染しない?

 更新日:2023/03/27
新型コロナウイルス

新型コロナウイルスに関して、「PCR検査」というキーワードをよく耳にします。ところが、「ナビタスクリニック」の久住先生によると、全く別の「抗体検査」もあるそうです。はたして両者の違いはなんでしょう、抗体検査が重要な理由とは。必要な情報をひもとくためにも、知っておくべき医療用語の1つが抗体検査です。

久住英二(ナビタスクリニック理事長)

監修医師:
久住 英二(ナビタスクリニック理事長)

プロフィールをもっと見る
新潟大学医学部卒業。虎の門病院血液科勤務、東京大学医科学研究所勤務を経た2008年、「ナビタスクリニック立川」開院。2014年には法人化により、医療法人鉄医会理事長就任。現在、新宿・立川・川崎の三院で、駅に直結した「通いやすい」医療を心がけている。

「免疫がついた」と「抗体をもった」は微妙に違う

「免疫がついた」と「抗体をもった」は微妙に違う

編集部編集部

感染症で話題に上る「抗体」とは、そもそもなんでしょう?

久住先生久住先生

体内に侵入してきた病原体などを認識するタンパク質の一種です。認識する方法は「鍵と鍵穴」の関係に例えられ、病原体の鍵がピタッと抗体の鍵穴に合致することで「同定」されます。敵の正体が判明すれば、いよいよ総攻撃に移れますよね。この抗体には「IgM」と「IgG」の2種類があります。

編集部編集部

「IgM」と「IgG」は、どう違うのですか?

久住先生久住先生

鍵穴の数が違います。「IgM」の鍵穴は5つあるので、感染初期の「相手の正体がわからない」段階で多く生産され、早々に見当をつける仕組みです。ただし、“弱い”抗体であることがわかっています。相手の正体が判明したら、いよいよ専用の鍵穴を1つだけもった強い抗体「IgG」の出番となります。感染初期には「IgM」、続けて「IgG」の順に増加することを覚えておいてください。

編集部編集部

抗体検査とPCR検査は、それぞれ別ものですよね?

久住先生久住先生

抗体検査は、過去に感染したウイルスなどの“免疫”を今もっているかどうかの検査。PCR検査は、体内にいる“ウイルス”をリアルタイムに調べる検査です。ですから、両者の目的は違います。ちなみに、厳密に言うと、抗体があるからといって「免疫がついた」とは言いきれません。

編集部編集部

「抗体を得た」イコール「もう感染しない」というわけではないと?

久住先生久住先生

じつは、毒性を中和できる抗体と、できない抗体があります。したがって、「抗体がある」イコール「もう感染しません」ではないのです。ただし、新型コロナウイルスで問われる抗体は、おそらく、中和できるタイプと考えられています。

編集部編集部

少し安心しました。抗体は、感染したら必ず獲得できるものなのですか?

久住先生久住先生

新型コロナウイルスに関して言うと、まだ、わかっていません。仮に抗体検査で陰性(獲得していない反応)がでたとしますよね。このとき、検査が不十分で検出できないのか、本当に抗体を獲得できていないのかが、不明確だからです。また、再感染を防ぐには、一定数以上の抗体が必要になります。したがって、抗体がある方の発症リスクを「ゼロ」と言いきることはできません。

編集部編集部

仮に抗体を獲得できたとして、その数は上下するのでしょうか?

久住先生久住先生

各論文などを見ると、感染からおおむね2週間で、IgGの抗体価が上がってくるようです。とはいえ、今後、回復した方に社会復帰をお願いするにしても、「フリーパス」のようなことにはならないでしょう。今までと同様の感染対策を、引き続き、おこなっていただくことになります。

医療と経済を滞らせないために

医療と経済を滞らせないために

編集部編集部

「フリーパス」ではないとすると、抗体検査の意味が薄れませんか?

久住先生久住先生

医療リソースを新型コロナウイルスに集約すると、必然的に、ほかの疾患で苦しんでいる患者さんへのケアがおろそかになってしまいます。そうならないための施策や基準を作成する必要があるでしょう。

編集部編集部

「社会へ出していい人」の基準ということですか?

久住先生久住先生

一例として、イギリスの医療従事者は、各種検査をするまでもなく、「発症と思われるタイミングから8日間がすぎれば働いてよい」としています。他方、社会人に関しては、抗体検査だけでストレートに可否を付けるのではなく、医師の総合判断が求められるでしょう。その材料として、抗体検査には意味があります。

編集部編集部

抗体検査のキットは入手可能なのでしょうか?

久住先生久住先生

はい。日本国内の場合、“正規なルート”で入手できる検査キットが1種類だけあります。10セット入りで2万5000円です。しかし「試薬」という扱いで、確定診断には使えないことになっています。医師が総合判断する際の、1つの材料にすぎません。

編集部編集部

先ほど、検査精度が問われるとのことでしたが?

久住先生久住先生

同キットには、賛否両論あります。試薬は抗体の数が多いほど、つまり症状の重かった方ほど高感度に反応するのです。一方、無症状感染者などをこのキットでどこまで拾えるかという点については、今後の検証が必要です。なお、このキットで「抗体がないのに、あるとしてしまう誤判定」については、比較的少ないとされています。

編集部編集部

とは言え、医療や経済は、検証が終わるまで待ってくれないですよね?

久住先生久住先生

現実的な問題として、「免疫をもっていて働ける人をどんどん見つけていく」必要がありますよね。そのなかには自覚のない方も含まれますから、探さないと見つかりません。緊急事態ですし、感度の問題で立ち止まるより、走りながら方向修正していくスピード感が求められます。

安易な○×の二元論を持ち込むことは危険

安易な○×の二元論を持ち込むことは危険

編集部編集部

もし、「自分は抗体をもっているんじゃないか」と思った場合は?

久住先生久住先生

一般の人が自分の判断で検査キットを使うことは、今のところ認められていません。なぜなら、最終的には、医学的な判断が求められるからです。また、抗体検査をおこなう優先順位として、第一に医療従事者が挙げられるでしょう。医療従事者にしても、じつは感染していて、症状の出ないまま医療に尽くしているかもしれません。

編集部編集部

限りある抗体検査の使われ方が問われそうですね?

久住先生久住先生

その必要性がある方のほか、「現段階で、どれくらいの市民が抗体をもっているのか」という実態をサンプリングするような使い方は有効でしょう。集団免疫の獲得具合が推測できます。「PCR検査と抗体検査は、中身も意味も使い方も違う」ということが、おわかりいただけたでしょうか。

編集部編集部

薬はどうでしょう。「抗インフルエンザ薬がコロナに効いた」などという報道を目にしますが?

久住先生久住先生

新型コロナウイルスを死滅させられるのは、今のところ、ヒトの免疫システムだけです。他方で、本来はほかの病気の治療薬でありながら、新型コロナウイルスの増殖を抑える効果が認められているお薬もあります。しかし、これらのお薬では、ウイルスを死滅させられません。

編集部編集部

そうなると、いわゆる「効く薬」の使い道は?

久住先生久住先生

「ウイルスの少ないうちにお薬で抑えておきながら免疫に任せる」進め方が好ましいですよね。人工呼吸器が必要なレベルになってからお薬で抑えても、すぐには治らないのです。軽症者や中等症者を重篤化させないことに注力すべきでしょう。

編集部編集部

新型コロナウイルスの終息について、先生は、どのような見通しを立てていますか?

久住先生久住先生

おそらく終息へ至るには2つの道のりがあり、1つは「大多数のヒトへの感染により、ウイルスの行き場がなくなること」、いわゆる集団免疫の獲得です。もう1つは「ワクチンなどの手段で、大多数のヒトが抗体をもつこと」です。ワクチンができるのは、早くて来年の初めといわれています。好ましいのは、医療によって救える範囲で前者に対応しつつ、後者を待つことでしょう。つまり、「早くて年明け」とみています。

編集部編集部

経済活動も必要不可欠ですからね?

久住先生久住先生

現在、施策効果のインジケーターは、新規感染者の数です。しかし、感染からPCR検査で陽性とわかるまで約2週間かかりますから、修正がタイムリーにおこなえません。船に例えるなら、かじをきってから曲がるまで、しばらく時間がかかるわけです。ときに自粛を要請して、ときに制限を緩和する。そのようなかじ取りが、この先約8カ月は続くと考えています。

編集部まとめ

抗体検査の現実的な意義は、「社会参加してもいい人を探すため」と言ってよさそうです。平時なら、検査精度の検証を十分におこなってから運用すべきでしょう。しかし、そのような正論は、時と場合によります。「抗体獲得者」イコール「フリーパス」とはいかないまでも、医療と経済を担える最有力な候補者であることは事実。公的なルールをいち早く定め、医療崩壊と経済の停滞をくい止めるべきでしょう。

医院情報

ナビタスクリニック

ナビタスクリニック
所在地 〒190-0023 東京都立川市柴崎町3丁目1−1 エキュート立川4階
アクセス JR立川駅直結
診療科目 内科・小児科・皮膚科・貧血外来・血液内科・トラベルクリニック

この記事の監修医師