話題の「再生医療」で髪の毛を生やすことはできるのか、薄毛・抜け毛対策の最前線
病気やケガなどによって失われた機能を、回復させることが可能な再生医療。今、さまざまな分野での研究が進んでいます。もし、毛髪にも有効な治療方法だとすれば、薄毛や抜け毛などの悩みは解消されるでしょう。髪の毛も、同じヒトの細胞なのですから、理屈としてはできるはず。「青山エルクリニック」の杉野先生に、詳しい事情を取材しました。
監修医師:
杉野 宏子(青山エルクリニック 院長)
再生医療は髪の毛にも適応される?
編集部
大きな注目が集まる再生医療ですが、髪の毛にも有効なのでしょうか?
杉野先生
「再生」と聞くと、iPS細胞を用いた技術のように、「なくなった毛根を一から作る」とイメージする方が多いかもしれません。残念ながらそのような手法は、いまのところ実現していません。「今ある毛包の細胞を活性化する」手法が、薄毛における再生医療として期待されています。
編集部
どのような治療方法なのですか?
杉野先生
たとえば当院では、「PRP(多血小板血漿・たけっしょうばんけっしょう)育毛療法」を取り入れています。これは、第3種再生医療として厚生労働省に届出した医療機関だけで行うことができる治療法です。なお、「なくなった毛根を一から作る」手法はいまだ研究段階です。
編集部
PRP育毛療法について詳しく教えてください。
杉野先生
わかりました。多血小板血漿とは、患者さん自身の血液に含まれる血小板を濃縮した血漿(けっしょう)のことです。血小板の中には「サイトカイン」という特殊なタンパク質があって、体内の細胞に組織修復や血管新生を行うようさまざまな指示を出しているんですね。こうした血小板を血漿ごと頭皮内に注射するのが、PRP育毛療法です。髪の毛の根元にある「毛包(もうほう)」を活性化していく効果が望めます。
編集部
「毛包」って、どの部分ですか?
杉野先生
毛根を包んでいる毛を作る組織のことで、わかりやすく言うと、「頭皮の中にある髪の毛が作られる部分」です。せっかく生まれた髪の毛が太く、長く、元気に育つかどうかは、「毛包」の活性化にかかっています。
編集部
気になる効果のほどは?
杉野先生
個人差がありますし、男女による性差もありますが、一定の効果を出しています。まだ新しい治療ですが有効性を示す論文が数多く発表されています。PRP療法自体は、顔のシワ治療や関節周囲の外傷治療目的で、国内で10年以上行われている副作用のほとんどない治療法です。日本皮膚科学会は、「今後が期待される治療法ではある」と公表しています。
※参照:日本皮膚科学会ガイドライン 「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン 2017年版」
https://www.dermatol.or.jp/uploads/uploads/files/AA_GL2017.pdf
髪の毛が薄くなる理由
編集部
ちなみに、どうして毛髪が薄くなったり生えなかったりするのでしょう?
杉野先生
髪の毛が成長し抜けるまでの一生を、一般的に「ヘアサイクル」といいます。3年から6年ほど続くヘアサイクルは、「成長期」→「退行期」→「休止期」を繰り返していて、ずっと伸び続けるわけではないのです。このうち「成長期」が短くなってしまうと、髪の毛は十分に育ちません。すぐに「休止期」を迎えますから、抜け毛が増え、薄毛になってしまいます。
編集部
「成長期」を元通りにする治療方法はないのですか?
杉野先生
男性の場合、ヘアサイクルの異常には、男性ホルモンの変化した「ジヒドロテストステロン」が関わっているとされています。いわゆるAGA(Androgenetic Alopecia)ですね。日本語では、男性型脱毛症と言い、毛包が小さくなるので毛髪が細く短くなります。一部の脱毛症治療薬には、男性ホルモンがジヒドロテストステロンに変化するのを抑える成分が含まれており、成長期を延長させます。毎日規則正しく服用する必要がありますので、その効果は、ひとえに自己管理次第といえるでしょう。サボっていては、髪の毛が生えてきません。
編集部
なるほど! さらに、PRP育毛療法ならより期待できますよね?
杉野先生
そういうことです。ご家庭で毎日、育毛剤などを塗布してもなかなか効果が出ない方がお越しになります。また、原因がよくわからない女性の薄毛にも比較的良い結果が出ています。ただし、十分な効果を引き出すには3ヵ月に1回、3~5回治療を行うことが必要で、その後、効果を継続させるために6か月に1回程度、治療をすることが望ましいですね。
編集部
他にも薄毛の原因はありますか?
杉野先生
なにかしらの病気や食生活の偏りも薄毛の原因になります。治療前の血液検査で、血小板の状態に加え、病気の有無や栄養状態などをお調べします。とくに女性で多いのが、鉄分や亜鉛分の不足です。男性も含め、全体の7割近い患者さんが、必要とされる鉄分や亜鉛分の基準値を満たしていません。そのような場合、必要により、食事内容のご指導やサプリメントの処方をいたします。
現時点で受けられる毛髪対策
編集部
現時点で受けられる毛髪対策にはどのようなものが?
杉野先生
わかりやすいのは、かつらやウィッグの着用ですね。ほか、頭皮の血行改善を目的とした育毛剤、ヘアサイクルに働きかける育毛剤などは、広く知られているところでしょう。加えて、植毛という方法もあります。毛根の数が極端に少なくなった患者様には、薬物療法や再生医療では不十分で、植毛をお勧めすることもあります。
編集部
これらの方法に比べ、PRP育毛療法が優れている点は?
杉野先生
まずは安全性です。なにより、ご自分の血液のみを用いますからね。ご自分の成長因子を注入する手法はPRP育毛療法だけです。成長因子製剤は他にもありますが、安全性についてまだ十分に検討されていません。
編集部
ほかにも利点がありましたら、続けてお願いします。
杉野先生
編集部
PRP育毛療法のデメリットについても教えてください。
杉野先生
やはり費用が高額な点が挙げられるでしょう。効果を継続させるには、定期的な来院が必要ですし、ほかの育毛治療と比べても1回あたりの費用が高くなります。また、頭皮に注射を行いますので、頭皮から出血することがありますが、これは一時的で、数分で止まることがほとんどです。
編集部
PRP育毛療法の費用は大体どのくらいかかるのでしょう?
杉野先生
自費になりますので、医院ごとに異なります。当院の場合、1回あたり税込で17.6万円です。この費用の中には、事前の血液検査費用などを含みません。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
杉野先生
できれば、毛の数が極端に少なくなる前の受診をお願いします。それだけ、治療選択肢が多くなるからです。抜け毛や薄毛が気になる、ボリューム感がやや減った、生え際がやや後退したといった早めの段階で、ぜひ、遠慮なくご相談ください。
編集部まとめ
やはり、髪の毛にも再生医療はありました。ただし、PRP育毛療法は治療選択肢のひとつです。まずは相談して、どのような治療が受けられるかを知っておきましょう。杉野先生によると、男性の場合、「ジヒドロテストステロン」に“さらされている期間”も問われるとのこと。それだけ、早期の治療開始が肝要ということです。場合によっては、安全な再生医療が受けられないかもしれません。
医院情報
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アクセス | 地下鉄表参道駅より徒歩2分 |
診療科目 | 形成外科 美容外科 皮膚科 |