見え方に影響がなければ、斜視は治療しなくても大丈夫?
片方の視線がズレる斜視。見た目の問題は別として、「斜視は、必ずしも治療しなくていい」という意見が散見されます。たしかに、斜視が出ている当人は、見え方に困っていないようです。はたして、この状態を放置していていいものなのでしょうか。斜視の手術を手掛ける「CS眼科クリニック」の宇井先生に解説いただきました。
監修医師:
宇井 牧子(CS眼科クリニック 院長)
2歳までの治療で、その後の見え方が大きく変わる場合も
編集部
まず、斜視について、簡単に説明してください。
宇井先生
一言で言えば、両目の視線がそろっていない状態のことです。片方の目は物を真っすぐ見ているのに、もう片方の目がずれていると、斜視になります。黒目が、内側に向くと内斜視、外側なら外斜視と言います。また、上下にずれる斜視もありますね。
編集部
子どもが斜視の場合、一般的に治療は行うのですか?
宇井先生
内斜視では、斜視の起きている目の「見る力」が育たず、メガネをかけても視力が出ない弱視に至る可能性があります。この場合、視力が良い方の目を隠す訓練を用いて、弱視を防いでいきます。他方、外斜視の多くは「間欠性外斜視」といって、意識をしていれば両目の視線をそろえられるため、弱視にならないことが多いですね。ただし、この場合、大人になると、両目をそろえることが出来なくなるケースが散見されます。
編集部
そこで本題ですが、「見え方に影響がない」ことはありえるのでしょうか?
宇井先生
問題なのは、内斜視のお子さんですね。実際のところ、見え方の不具合は感じていません。脳が、真っすぐ見ているほうの目からの情報だけを“選択して”処理しているからです。しかし、ずれているほうの目の視力は育っていきません。医師としては、見え方に不具合を感じていなくても、できるだけ早く治療していただきたいです。
編集部
どういうことでしょう? 詳しく教えてください。
宇井先生
物を立体的に見る力は2歳ごろまでに、視力は8歳ごろまでに発達しきってしまうので、それまでに治療をしないと、これらの機能が未発達なままになってしまうのです。つまり、立体感がつかみにくかったり、視力がメガネをかけても出ない為、将来、スポーツが苦手になったり一部の職業に就けなくなったりすることがあります。ですから、内斜視のお子さんは治療を急ぎますよね。「3歳児健診」を待たずに受診しましょう。
目の機能に限らず、社会的な差別を避ける意味でも、治療は必要
編集部
自分の子どもが斜視かどうかって、気づけますか?
宇井先生
内斜視や外斜視は、外見から気づきやすいと思います。上下の斜視のお子さんは、首を斜めに傾ける傾向がありますので、注意してみてください。目の上下のずれを、首の傾斜で補おうとしているんですね。いずれにしても、「おかしいな」と感じたら、自己診断は避け、眼科医の判断を仰ぎましょう。脳や神経の病気が隠れていることもあります。
編集部
斜視には、視力に限らず、外見的なコンプレックスの問題もありますよね?
宇井先生
大きな問題ですよね。アメリカの研究で、斜視のお子さんと普通のお子さんのイラストを並べ、「どちらのお友達を誕生会に誘いたいですか」と訪ねたスタディがあります。それによると、被験者の年齢が上がるにつれ、斜視のお子さんを選ばない傾向にあったそうです。また、斜視の方の年収が有意に低いという研究もあります。おそらく面接などで、外見的な“選択”がおこなわれたのでしょう。
編集部
その一方、子どもの斜視は手術しても再発するので、「大人になってからで十分」という意見が散見されます。
宇井先生
たしかにインターネット上などで見かけますが、誤解を与えかねない困った事態です。まず、内斜視については、弱視の可能性がありますから、早々に治療を開始すべきです。間欠性外斜視であっても、治療をすれば、意識して目をそろえるのが楽になります。大人になってからずれっぱなしになりにくいですし、それだけ外見的な不利益も防げるでしょう。
編集部
治療後の再発自体は起こりえるのですか?
宇井先生
お子さんの場合は、残念ながら起こりえます。ただし確率としては少ないですし、なにより頻繁にずれる斜視をそのままにしておくメリットがありません。また、手術の回数に制限はありません。早い段階で手術をしたからといって、2回目の手術が難しくなるといったことはありません。
編集部
ちなみに、大人になってから、急に斜視になることってあるのですか?
宇井先生
ありえます。事故や病気などで斜視になってしまったケースですね。最近では大人でもスマホの見過ぎで斜視になるケースも増えています。このような場合、物が二重に見える「複視」になりかねません。複視は生活するうえで困る症状ですので、治療を受けてください。なお、このような患者さんの場合、両目で物を見る力は、すでに獲得できているはずです。
斜視は手術によって治せる
編集部
改めて、斜視の治療法について、詳しく教えてください。
宇井先生
内斜視のなかには、もともと遠視で、近くの物を“頑張って見ようとして”目が寄っているケースも含まれます。このような場合は、視力補正用のメガネが有効です。メガネを用いた治療だけで斜視が治るのは、このパターンのみです。加えて、弱視が心配なケースでは、斜視が起きている目だけで見るようなアイパッチの併用も検討します。
編集部
遠視による内斜視以外は、手術をするのですか?
宇井先生
遠視による内斜視以外の場合、プリズムメガネという特殊なメガネで見え方の補正はできますが、斜視そのものを治すことはできません。見た目も含めて解決したい場合は、目の周りの筋肉を調整する処置が必要でしょう。ボツリヌスという神経毒素を注射するか、手術するかですね。
編集部
できれば目の手術は避けたいです。ボツリヌス注射でなんとかなりませんか?
宇井先生
ボツリヌス注射の効果は一時的なので、適応が問われるところです。「スマホ内斜視」といった、“もともと正常だった方が生活の中で斜視に至ったケース”では有効でしょう。異常な状態になった目の筋肉を、毒素の効果で元に戻してあげるようなイメージです。他方、先天的な内斜視で遠視が関係していない場合、12歳以下のお子さんでは、ボツリヌス毒素の適応がないこともあって、手術を推奨します。
編集部
早期に斜視弱視を発見できれば、視力1.0までもっていけますか?
宇井先生
もちろんです。視力1.2をめざします。大人になるまで治療を待つと、両眼視機能が得られないかもしれません。「片目がきちんと見えていればいい」という考え方もありますが、物や背景の立体感がつかみにくくなりますので、ぜひ、治療を検討してみてください。
編集部
治療方法の判断や見識は、眼科医なら、ある程度“同じ”なんですよね?
宇井先生
いえ、かなりのケースで意見が分かれます。なぜなら、斜視のボツリヌス注射や手術をしている眼科医自体が少ないからです。医院選びの際は、公式サイトなどの治療実績を参考にしましょう。治療選択肢が多いほど、適切な治療を受けられるはずです。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
宇井先生
一部に見かける、「斜視は治療をしても再発するので、治療を受けないほうがいい」という考えは、「大きな誤解」です。患者さんのなかには、「困っていないのなら、そのままでいいと言われた」という方もいらっしゃいます。ご本人の将来に大きく関わることですので、慎重に判断してください。
編集部まとめ
もし、斜視の治療不要論が、患者の囲い込みのために用いられているとしたら。斜視の手術を手掛けられる眼科医が少ないとすると、十分に考えられる話でしょう。少なくとも、「斜視をそのままにしておくメリットがない」ことは事実です。弱視や差別へ至らないためにも、適切な時期に必要な治療を受けるようにしてください。
斜視に関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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