子どものゲームやスマホの長時間使用で斜視の相談増加!? 眼科医が影響を解説
「CS眼科クリニック」の宇井先生によると、最近、ゲームやスマホに関連した目の相談が増えているそうです。そのなかには、疲れ目や視力の悪化にとどまらず、目の機能に異常をきたす症例も含まれるのだとか。もし、子どもが発症した場合、その悪影響を生涯にわたって抱え続けないといけないのでしょうか。詳しい話を伺いました。
監修医師:
宇井 牧子(CS眼科クリニック 院長)
「寄り目」の子どもが急増中、その理由は
編集部
小学校高学年のスマホ普及率が6割を超えたそうですね?
宇井先生
そのようですね。スマホの普及に伴い、ある程度の年齢になってから起きる「スマホ内斜視」のご相談が増えています。正式には「急性内斜視」と言いますが、簡単に言うと目が内側に寄ってしまう症状です。また、日本眼科医会では、スマホなどがもたらす目への悪影響を、「IT眼症」という症候群で広く捉えています。
編集部
「IT眼症」ですか? 聞き慣れない言葉です。
宇井先生
日本眼科医会の定義によると、「IT機器を長時間あるいは不適切に使用することによって生じる目の病気、およびその状態が誘引となって発症する全身症状」となっています。ここで意味する「不適切」とは、「物を見る距離の近さ」と「長時間にわたる目の使いすぎ」でしょう。
※参照:日本眼科医会 「子どものIT眼症」
https://www.gankaikai.or.jp/health/36/02.html
編集部
その中に急性内斜視が含まれると?
宇井先生
急性内斜視のご相談が増えているのは事実ですが、スマホやゲームとの因果関係は解明されていません。そこで日本弱視斜視学会では、学会員となっている医療機関の協力の元、その解明に乗りだしたところです。急性内斜視になった患者に対し、「どれくらいの時間ゲームをしていたのか」、「メガネが適正だったのか」など、さまざまな生活要因を調査しています。
編集部
なんだか、スマホが「悪者扱い」されているような印象です。
宇井先生
スマホの固有な要因として、「画面を見る距離の近さ」が挙げられます。目は近くの物を見ると寄りますから、急性内斜視の症状と合致していますよね。「目の焦点距離が20cmにロックオンされた」と考えてもおかしくはないわけです。ただし、正式な結論については、学会の調査・研究を待ちたいと考えています。
子どもならではの特性が逆効果になることも
編集部
先ほどの学会定義の中に、「全身疾患」が含まれていましたよね?
宇井先生
そうなんです。疲れ目からくる肩こりや頭痛などは知られていますが、IT機器の長期使用によって抑うつ症状や腰痛が起こるなど、全身の症状でIT眼症の可能性が考えられています。
編集部
今回は「目への悪影響」に絞りたいと思います。IT機器が原因とされる典型的な病気を教えてください。
宇井先生
スマホやゲームによるものとしては、やはり急性内斜視ですね。発症するお子さんの多くは、「内斜位(ないしゃい)」といって、もともと寄り目がちなのだと思います。そうした素因のあるところに、「長時間の20cmロック状態」が加わると、斜視になるリスクが上がりますね。
編集部
常時寄り目になるということですか?
宇井先生
そういうことです。お子さんは“若い”ですから、目の疲れを感じにくい傾向にあります。健常な大人が意図的に寄り目をしていても、長続きはしません。その一方、お子さんはできてしまいます。お子さんならではの順応力が、まさに悪循環を起こしているといえるでしょう。
編集部
その他、気をつけたい病気や症状は?
宇井先生
病気とは違いますが、「スマホ老眼」が挙げられるでしょう。目のピント調節筋が近距離に固定されてしまうことで、モノがぼやけて見にくい、目が疲れて重い、まばたきするのがおっくうでドライアイになるなどの症状が起こります。“老眼”という名前がついていますが、ピント調節筋のコリが原因のため、若い人でも起こりうる症状なのです。
子どもの目を守る予防対策と治療方法
編集部
注意すべきは、やはり「距離と時間」ですか?
宇井先生
はい。スマホを見るときは、なるべく50cm以上離して見るようにしましょう。コツとしては、肘を腰に当てて、そこから離さないことです。肘を腰につけることで、スマホを近づけることができなくなりますから。時間については、30分につき5分以上の休憩を取るようにしてください。休憩といっても目をつぶる必要はなく、あくまでスマホやゲームなどの連続使用を控えるという意味です。
編集部
どういう症状が出たら眼科にかかるべきですか?
宇井先生
他人からみて寄り目になっているであったり、物が二重に見えるなど、本人の見え方がおかしいと思われた時ですかね。しかし、子どもは、たとえば物が二重に見えていてもそういう物だと思ってしまう傾向があるので、お子さんの様子を注意深く見守る必要があります。急性内斜視の治療としては、手術やボツリヌスという神経毒素の注射によって、元に戻ることがあります。寄り目になっている筋肉の働きを阻害して、まっすぐな視線に戻すイメージです。
編集部
スマホやゲーム機を取りあげるような強制力は必要だと思いますか?
宇井先生
急性内斜視の治療の一部として、視聴時間を減らすことをお願いしています。ただし、依存症や不安障害といったレベルになると、暴力問題へ発展しかねません。実際、そうした事件も起きています。ここは、慎重に進めたいですね。もし依存症の傾向がみられたら、「小児精神科」へ相談するといいでしょう。目や見え方の範囲なら、眼科へ気軽にお声がけください。担当医師が日本弱視斜視学会の会員であれば、スマホやゲーム対策について、しっかり勉強しています。
編集部
最後に、読者へのメッセージをお願いします。
宇井先生
スマホやゲームの悪影響として最初に現れるのは、やはり、近視も含めた目のいろいろな病気でしょう。ですから、眼科医を問題解決の入り口としてご活用ください。学会からの研究報告も届きはじめていますので、適切なアドバイスを差し上げられると思います。
編集部まとめ
どうやら、スマホやゲームのやりすぎは、さまざまなIT眼症を引き起こすようです。そして、子どもならではの「悪条件に順応しやすい」といった特性が、若い世代の疾患リスクを高めているのでした。なかでも注目すべきは、急性内斜視です。日本弱視斜視学会は2018年、1000人以上の眼科医にアンケート調査をおこない、有意な回答を得られた中の4割を超える医師が過去1年間に急性内斜視を診療したことがあると回答したとのこと。今後、目の病気とスマホやゲームとの関連性が、ますます明らかになっていくことでしょう。
斜視に関する症状についてもっと詳しく知りたい方は、こちらの記事を参照してください。
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