【漫画付き】「未病を漢方で治す」、いったいどういうこと?
昨今、紙面やテレビなどで見かけるようになってきた「未病」という言葉。字面からすると「いまだ病になっていない」状態と思われますが、実際はどのような意味なのでしょうか。また、具体的なアプローチ方法が確立されているのでしょうか。漢方の専門医である「新井五行堂醫院」の新井先生を取材しました。
監修医師:
新井 紀元(新井五行堂醫院 院長)
知らないうちに取り入れていた身近な未病対策
編集部
最近、「未病」という言葉をよく聞きますが、どういう意味なのでしょう?
新井先生
「未病」の解釈は、その言葉を用いる人によってそれぞれ異なるでしょう。私なら、自分では健康だと思っていても、いろいろと問診をしていくと、将来的な症状が見え隠れすることでしょうか。
編集部
西洋医学の場合、診断が付かないと、その先に進めませんよね?
新井先生
その落とし穴が考えられますよね。ですから、治療へは進まず、生活習慣の改善などでアプローチしていくケースがほとんどだと思います。他方の漢方薬は、個々の症状に適したお薬があるので、未病段階でもアプローチできます。
編集部
病気でないなら、様子見でもいいと考えてしまうのですが?
新井先生
日本東洋医学会は、公式サイトなどを通じて、「病気になってからでは遅い」と呼びかけています。漢方的な考えでは、患者さんの体質などから、次に起こる病態が“ある程度”予想できるのです。あとは、皆さんがどう捉えるかですね。
編集部
でも、100%健康な人っていませんよね? どこから「未病」なんでしょうか?
新井先生
たしかに線引きは難しいですが、皆さん、ウォーキングを始めたり、無農薬野菜に切り替えたり、高機能の空気清浄機を買ったりなど、なにかしらの“未病対策”を取り入れられているのではないでしょうか。漢方も、その延長線上で考えていただければうれしいですね。
薬に限らない、漢方ならではの発想が「薬膳」
編集部
未病の漢方的な受診といっても、何を話せばいいのかわかりません。
新井先生
60項目以上にわたる設問リストがありますので、漢方医と応答していただければ大丈夫です。また、患者さんの側から、「風邪を引きやすいんですけど、なにかいい手だてはありますか」といったご要望を受けることもあります。
編集部
続けて、漢方薬が処方されるまでの流れを教えてください。
新井先生
設問リストの応答から浮かんできた患者さんのタイプを、漢方では「証(しょう)」といいます。2000年以上の経験則に基づいた分類法ですね。そして、その「証」ごとに適した漢方薬を処方します。
編集部
漢方薬を処方された後、継続的な受診が必要なのでしょうか?
新井先生
そうしてください。処方したお薬が合っているかどうかを確認したいですし、体質が改善されてお薬を必要としなくなるケースもあるでしょう。あるいは、次のステップとして、別の未病対策に取りかかる場合もあります。皆さんが「漢方薬のやめどき」を判断することは控えてください。
編集部
改めるべき生活習慣や食事内容などのアドバイスもいただけるのですよね?
新井先生
もちろんです。とくに食事は漢方と深い結びつきがあり、食による体調管理のことを「薬膳」と呼びます。皆さんも、一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。一例を挙げるとすれば、サラダの食べすぎによる体の冷えですね。夏野菜の多くは、体を冷やします。冬なら冬に採れる野菜を食べることが、理にかなっています。
「未病」という言葉にとらわれず、健康意識を育てよう
編集部
未病と体質の区別が難しいですね? 意外と「未病」であることに気づいていない人も多いのでは?
新井先生
言葉にとらわれず、周りとの比較から気づいていってください。「なぜ、自分だけ疲れやすいんだろう」、「なぜ、何回も風邪を引くんだろう」、「とても寒いんだけど、なぜ周りの人は平気なの」、「あの人はいつも元気ですごいなぁ」といった具合です。
編集部
ちなみに、漢方による「人間ドック」的な発想ってないんですか?
新井先生
中国には「未病センター」と呼ばれる施設がありますが、日本にはありません。日本に住んでいる方なら、個々の漢方専門医を訪ねるしかないですね。いずれにしても、共通した「漢方」という学問体系を用いますので、大きな差はないと思います。
編集部
漢方薬の処方を前提とするのではなく、「健康チェック」目的で受診してもいいと?
新井先生
もちろん歓迎します。きっと、ご自身のことを詳しく知る機会になるでしょう。ただし、予防目的からすると、積極的に漢方薬を服用していただきたいところです。治療しなければ未病が進むだけですから。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
新井先生
サプリメントと漢方薬の間には、一線を引いていただきたいですね。サプリメントの中には化学物質を含むものがあります。もしかしたら、短期的な安全性は立証されているのかも知れませんが、長期の継続服用を懸念します。そのサプリメントができて仮に20年だとしたら、20年以上の知見は得られていないわけです。一方、漢方薬は自然由来ですし、2000年以上の知見があります。皆さんがおこなっている健康への取り組みの中に、漢方薬も含めてみてはいかがでしょう。
編集部まとめ
空気清浄機やオーガニック野菜の延長線上に、漢方薬という存在を置いてみる。そう考えると、「未病」がすんなり理解できそうです。特定の病気を想定した「予防」より、もっと大きな広がりを感じますよね。ただし、オーガニック野菜がそうであるように、その効果は長期のスパンで現れます。将来に向けて落ちていく急傾斜を、ある程度なだらかにするようなもの。「転ばぬ先の杖」とするかどうかは、皆さんの判断次第でしょう。
医院情報
所在地 | 〒164-0002 東京都中野区上高田2-9-11 |
アクセス | 西武新宿線新井薬師前駅 南口より徒歩7分 JR中央線中野駅北口徒歩15分 都営大江戸線東中野駅徒歩20分 |
診療科目 | 内科 漢方 耳鼻咽喉科 |