妊娠しにくい身体は漢方で改善できる!? これってホント?
体や心の病気に対し「頼りの綱」となるのは、なにも西洋医学に限りません。東洋医学も国に認められたれっきとした解決手段です。はたして、不妊治療の効果が十分に得られていない場合、漢方という選択肢はアリなのでしょうか。脳神経外科出身で漢方医でもある「新井五行堂醫院」の新井先生に、最前線の実情を教えていただきました。
監修医師:
新井 紀元(新井五行堂醫院 院長)
西洋医学が見逃していた「冷え」という視点
編集部
ズバリ、不妊に漢方は有効なのでしょうか?
新井先生
有効です。不妊の原因はさまざまにあり、東洋医学では、冷え性、血行不良、ストレスのほか、漢方でいうところの「腎虚(じんきょ)」、つまり精力減退などが挙げられます。最もわかりやすいたとえは「冷え」ですかね。これらの改善に漢方はとても有効です。
編集部
冷え性なら、漢方以外にも改善方法があると思いますが?
新井先生
そうなのですが、西洋医学では、不妊と冷え性を結びつけません。婦人科の多くは、ホルモン剤の処方や体外受精といった治療方法で対処することになると思います。また、「妊娠したいので、冷え性を改善してください」といった相談も、通りにくいですよね。
編集部
漢方薬には、不妊改善の実績があるのですか?
新井先生
あります。患者さんの年齢が35歳くらいまでなら「温経湯(うんけいとう)」という漢方薬を処方します。1年ほど試みて、効果が得られないようなら、「紫石英(しせきえい)」や「鹿茸(ろくじょう)」を含んだ“強い”煎じ薬に切り替えましょう。いずれも、体を温める効果が確認されている漢方薬です。患者さんが35歳以上の方なら、最初から強いお薬を出すかもしれませんね。
編集部
どれくらい漢方薬をのみ続けていれば、効果が現れるのでしょう?
新井先生
人それぞれでしょうが、漢方薬の目的には体を温めるほか、「良好な卵子をつくる」ことも含まれます。漢方薬をのみ始めた段階で卵巣にいた卵子が排出されるのは、おおむね3か月後ですから、最低でも3か月は続けていただきたいですね。
編集部
漢方薬の費用についても教えてください。
新井先生
生殖能力を高める生薬には保険の効かないものが多く、原則自費となります。お薬代の目安としては、1日あたり1000円から1500円ほどですね。
妊娠前・妊娠中でも服用可能な漢方薬がある
編集部
ここまでのお話を伺うと、治療というより体質改善のイメージですね?
新井先生
「治療」という言葉が西洋医学的に受け取られているとしたら、そうかもしれません。しかし、東洋医学は「結果に結びついた学問体系」であり、実際、体外受精を5回繰り返しても妊娠できなかった患者さんが、1回の漢方薬で成功したケースもあります。
編集部
妊娠を控えた女性や妊婦さんの場合、禁忌や副作用が気になります。
新井先生
妊娠前・妊娠中に処方してはいけないリストがありますので、そうした漢方薬は除きます。気をつけたいのは、妊娠中などに、ご自身で市販の漢方薬を購入し使用するケースです。たとえ風邪などであっても、妊娠に悪影響が出ないか、薬剤師さんと相談してください。もちろん、専門医を受診していただければ、まず間違いありません。
編集部
妊娠の確率を高める目的で、健康な人が漢方薬を利用してもいいのですか?
新井先生
考え方としてはアリだと思います。「不妊」という診断がついていないので自費になりますが、もともと生殖能力を高める生薬は自費ですから、同じことですね。
編集部
西洋医学と東洋医学、どちらを受診すべきか悩みます。
新井先生
生殖器自体に問題が生じている場合もありますので、まずは、西洋医学の医院を受診すべきでしょう。婦人科の診断でホルモン異常以外認められず、妊娠に至らないようなら、東洋医学の医院へご相談ください。もちろん、「併用」という考え方もあります。
漢方薬は、妊娠後の予後ケアも可能
編集部
不妊の原因が男性側にあるかもしれませんよね?
新井先生
大いにありえます。WHO(世界保健機関)によると、不妊で悩むカップルのうち約24%が、男性側のみの原因によるものでした。ただし、その検査・診断は、西洋医学でしかできません。男性側に原因があると判明し、そのうえで漢方薬を用いるとしたら、「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」がいいでしょう。精子運動率や精子濃度の改善が認められています。不妊の原因が男性側にあるかもしれませんよね?
編集部
めでたく妊娠が確認されたら、再び漢方医を受診すべきでしょうか?
新井先生
ぜひ、そうしてください。たとえば女性なら、漢方薬の目的が「妊娠させる」から「安産へ導く」へ変わってきます。つまり、漢方薬の中身を変える必要があるということです。
編集部
漢方薬はどれくらいもらえるのですか?
新井先生
最初は1〜2週間ほどの量を処方して、お薬がなくなったら、再び受診していただきます。そのときの診断で問題なければ、月単位の処方量にすることが多いですね。また、体質改善が認められた場合など、随時、違うお薬へ切り替えることもあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
新井先生
西洋医学で妊娠へ至れなかったカップルに、ぜひ、「漢方薬という選択肢があるんだ」ということを知っていただきたいですね。2000年以上の歴史を通じて、同じ悩みの中から紡ぎ出された「答え」なのですから、気軽にご相談いただければなによりです。
編集部まとめ
不妊は漢方で改善可能なのでした。加えて、漢方しか持ち合わせていない「冷え性の改善」という利点が得られます。他方、生殖器の精密検査などは、西洋医学だけがなしえる領域です。不妊でお困りなら、必要に応じて西洋医学と東洋医学双方の恩恵を受けてみましょう。なお、この記事に書かれている「温経湯」「紫石英」「鹿茸」などの漢方薬・生薬は、あくまで冷え対策の一例です。不妊の原因が冷え以外の場合もありますので、詳しくは漢方医にご相談ください。
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