ゾフルーザの評価は? 抗インフルエンザ薬の特徴を医師が徹底比較
2018年3月、これまでとは全く異なった抗インフルエンザ薬「ゾフルーザ」が販売開始されました。一部から「夢の治療薬」という評判が立つ一方で、処方を見送る医師もいるそうです。インフルエンザの流行ピークである今、「鈴木内科・糖尿病クリニック」の鈴木先生に、抗インフルエンザ薬の最新事情を整理していただきました。
監修医師:
鈴木 一成(鈴木内科・糖尿病クリニック 院長)
北里大学医学部卒業。日本医科大学付属病院老年内科病棟医長、東京臨海病院糖尿病内科医長などを歴任後の2019年、東京都葛飾区に「鈴木内科・糖尿病クリニック」開院。改善の難しい糖尿病の治療機会を広げるべく、診療に努めている。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本老年医学会老年病専門医・指導医・評議員、日本糖尿病学会専門医・研修指導医。
各種、抗インフルエンザ薬の特徴
編集部
一言で「抗インフルエンザ薬」と言っても、いろいろあるのですよね?
鈴木先生
そうですね。内服薬としてはタミフルやゾフルーザ、吸入薬にはリレンザやイナビル、ほか、点滴薬のラピアクタなどが一般的なところでしょうか。
編集部
なるほど。主だった特徴を薬の種類ごとに整理していただけますか?
鈴木先生
(※)日本感染症学会による2019年10月の提言を反映
編集部
いわゆる「のみ薬」に限らず、吸入薬や点滴薬もあるのですね。
鈴木先生
そうですね。吸入薬は、粉状のお薬を肺へ吸いこんで使いますが、小さなお子さんや高齢者の場合、うまくできずにむせ込むと、お薬が体外へ出てしまいますよね。対象年齢を「5歳以上」としているのは、主にこの観点です。点滴薬は、起き上がれない入院患者さんなどに用います。
編集部
最も効果的な薬というと、ズバリ、どれですか?
鈴木先生
効果はそれぞれ同等といえるので、難しい質問ですね。エビデンスや症例研究が多いのは「タミフル」です。加えて、ジェネリック医薬品も出ていますので、薬価が低いことも特徴といえるでしょう。
編集部
先生の“推し”は「タミフル」だと?
鈴木先生
いいえ。「タミフル」の用法・用量は「1日2回 x 5日間」の10回なので、1回でものみ忘れしまうと、本来の効果が望めません。その点で、個人的には1回で済む「イナビル」をお出しし、その場で吸っていただくことが多いですね。ただし、吸引が苦手という方もいらっしゃいます。また、予防的な長期投与となると、「タミフル」を「1日1回 x 10日間」服用する考え方もあります。結論としては、「ケース・バイ・ケース」としか言いようがないですね。
編集部
気になる副作用リスクについても教えてください。
鈴木先生
いずれのお薬でも、重篤な副作用は「ない」と言っていいでしょう。一時、異常行動が話題になったものの、「必ずしも抗インフルエンザ薬が原因ではない」と結論づけられました。注意すべきは妊婦さんへの処方で、胎児への影響が心配です。かといって、お薬を処方せずにいると、発熱による胎児への影響が懸念されます。場合によっては、抗インフルエンザ薬ではなく、解熱剤にとどめることもあります。
話題の「ゾフルーザ」は、なにが問題なのか
編集部
一般的には、「ゾフルーザ」の評価が高いような気がします。
鈴木先生
たしかに、「早く効いて、1回の服用でいい」点は大きなメリットです。その一方、体内にいるウイルスへ「耐性」を与えてしまうという報告がなされています。耐性をもったウイルスがほかの患者さんに感染すると、「ゾフルーザ」では治せません。この点が、大きな懸念事項ですね。
編集部
「12歳以上」というゾフルーザの対象年齢とも関係していますか?
鈴木先生
はい。どうやら、お子さんほどウイルスに「耐性」を与えやすいようなのです。このため、日本感染症学会は2019年の10月、「12歳未満の子どもへの投与は慎重に行うべきだ」と提言しています。加えて、感染症を起こしやすい方にも、同様の耐性変異が多く見られます。
編集部
しかし、「早く効く」のは魅力です。
鈴木先生
じつは「ゾフルーザ」のみ、お薬の仕組みが異なっているのです。ほかの治療薬は、ウイルスが細胞から出てくるのを待ち構えて、細胞の外で攻撃します。これに対して、ゾフルーザは細胞の中に入りこんで攻撃します。残念ながら、この新しい仕組みに対して、臨床データの量が「十分」とは言えません。耐性の問題も含めて、もう少し様子を見たいですね。
編集部
患者から「ゾフルーザ」の希望があったときは、どうしていますか?
鈴木先生
ここまでの事情をご説明し、なおかつ薬価が比較的高いことに納得いただけたら、処方しています。ご自身のお体ですから、ご自身の結論を尊重します。
抗インフルエンザ薬不要論はなぜ起こるのか
編集部
インターネットを見ると、そもそも「抗インフルエンザ薬は要らない」という医師もいますね?
鈴木先生
抗インフルエンザ薬が有効なのは、ウイルス感染を起こしてから2日以内です。3日目には、体内の免疫システムによってウイルスが死滅しています。せきや発熱などは、体の防御システムによるものであって、ウイルス自体が起こしているわけではないのです。また、インフルエンザでは“めったに”死に至らないことから、抗インフルエンザ薬の不要論も散見されますね。
編集部
先生のお考えはどうなのでしょう?
鈴木先生
せきや発熱などの不快な症状が1日でも早く治まれば、それに越したことはないと思います。また、他人に移してしまう可能性を考えると、処方は有効です。加えて、肺炎やインフルエンザ脳症といった重症化リスクが捨てきれません。
編集部
先生が考える、「最もインフルエンザに有効な手段」は?
鈴木先生
一番は「十分な休養と睡眠で体力を付ける」ことです。諸症状がつらければ、抗インフルエンザ薬ではなく、市販の「かぜ薬」でも十分です。ただし、お仕事や就学の都合上、何日も休むのは難しいのが実情でしょう。発症から間もない段階であれば、抗インフルエンザ薬を有効にご活用ください。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
結論としては、「そのときどきに応じて医師が判断した薬、あるいは治療法が一番」ということでしょうか。インフルエンザとは別の病気の可能性もあるため、自分で「決め打ち」しないことが大切です。ご家族への予防投与なども考慮する必要があります。まずは、早期に受診していただいて、その後の処置を決めていきましょう。
編集部まとめ
新薬である「ゾフルーザ」は臨床データが足りない。吸入薬はむせ込んで吐きだしてしまうことがある。複数回にわたる服用薬はのみ忘れの危険がある。治療に限らず、本人や周囲への予防的投与という観点もある。起き上がれない患者には投与できる薬の種類が限られる。医師は、ほかにもさまざまに考えられる観点から、抗インフルエンザ薬の種類を絞りこんでいるのでした。一律に「どれがよい」とは言いきれませんので、なるべく「決め打ち」は避けましょう。
医院情報
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診療科目 | 内科・糖尿病内科・生活習慣病 |