【漫画付き】睡眠不足が糖尿病を悪化させる!? これってホント?
更新日:2023/03/27
日本人の平均的な睡眠時間は、ただでさえ、主要先進国のそれよりも短いとされています。もし、睡眠不足が糖尿病と関係しているとしたら、日本は「糖尿病大国」になりかねません。はたして、両者の関係はどうなっているのでしょう。「鈴木内科・糖尿病クリニック」の鈴木先生を取材しました。
監修医師:
鈴木 一成(鈴木内科・糖尿病クリニック 院長)
鈴木 一成(鈴木内科・糖尿病クリニック 院長)
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北里大学医学部卒業。日本医科大学付属病院老年内科病棟医長、東京臨海病院糖尿病内科医長などを歴任後の2019年、東京都葛飾区に「鈴木内科・糖尿病クリニック」開院。改善の難しい糖尿病の治療機会を広げるべく、診療に努めている。医学博士。日本内科学会認定内科医、日本老年医学会老年病専門医・指導医・評議員、日本糖尿病学会専門医・研修指導医。
たとえ1時間の寝不足でも、調節機能は落ちていく
編集部
かかると怖い糖尿病ですが、なにがきっかけとなるのですか?
鈴木先生
ウイルスなどによる突発性の1型を除き、一般的な2型の糖尿病には、遺伝のほかストレス、食生活、運動不足など、さまざまな生活習慣が関わっています。そのなかには、睡眠不足も含まれます。しかも、短期間の睡眠不足で、血糖値の調節機能が崩れかねません。睡眠時間は1日の約3分の1を占めますから、ウエイトの高い生活習慣といえるのではないでしょうか。
編集部
平日はどうしても寝不足になりがちです。詳しく教えてください。
鈴木先生
私が感心したのは、イギリスの「ロンドン大学キングス・カレッジ」による2016年の研究です。それによると、1時間長く寝るだけで、約385kcalの糖分摂取を減らせるそうです。お薬によって1日に排出できる糖分の上限がほぼ同量ですから、わずか1時間の睡眠不足といえどもあなどれません。血糖値と睡眠の関係性を示す研究や論文は、国内外を問わず、ほかにも多数あります。
編集部
睡眠不足そのものがいけないのですか? 夜更かしした結果、お菓子や夜食を食べているのも関係ありそうです。
鈴木先生
両方ですね。飲んだ後のラーメンなどは確実に悪化させます。ただし、睡眠不足も直接的に関与していることを、ぜひ、覚えておいてください。仕事などで遅くなりそうだったら、どこかのタイミングできちんとした夕食を取り、帰宅後に再び食べないこと。そして、なるべく早く就寝することが大切です。
編集部
なぜ、睡眠不足によって血糖値の調整がうまく働かなくなるのでしょう?
鈴木先生
起きている間は交感神経が優位にあり、血中に糖を開放することで、脳や筋肉の働きをサポートします。つまり、起きている時間が長いと、糖分の調節機能を働かせすぎて疲れてしまうと考えられています。また、睡眠時は「体のメンテナンスタイム」なので、調整する時間が足りていないという見方もできるでしょう。体の疲れは臓器の疲れ、疲れをため込むと、臓器も失調します。
寝不足でも寝過ぎでもダメ、睡眠時間には「Jカーブ」がある
編集部
理想的な睡眠時間はどれくらいなのでしょう?
鈴木先生
医学雑誌「Archives of Internal Medicine 2005」によると、糖尿病リスクが最も少ないのは、1日「7時間から8時間」の睡眠とのこと。これより少なくても、逆に多くても、糖尿病リスクを押し上げるとされています。この関係をグラフにすると「J」の字のようになるため、「Jカーブ」と言われることもあります。
編集部
具体的にどれほど変わるのでしょう?
鈴木先生
睡眠時間が7時間から8時間の人を基準に考えると、5時間以下の人は糖尿病発症リスクが2.5倍となります。また、睡眠時間が9時間以上の人でも糖尿病発症リスクは1.8倍となっています。
編集部
通勤中の居眠りや休日の寝だめは、有効なのでしょうか?
鈴木先生
糖尿病との関連性で言えば、睡眠は足し算できません。1回あたりの睡眠時間が問われます。また、寝だめが悪影響を与えることは、上記からも明らかでしょう。
編集部
なかなか厳しいですね。睡眠時間の改善は、必要なことだと思われますか?
鈴木先生
ストレス、食生活、運動不足などと比べて、どのくらいの重きを置く話なのかということですよね。たとえば、ストレスは寝不足につながりますし、時間のないなかで運動すると睡眠時間が削られます。ですから、一つひとつの要素を個別に考えるのではなく、全体として「理想的な生活」をめざしてみてはいかがでしょうか。
過ぎたるは、及ばざるがごとし
編集部
ちなみに、糖尿病を発症するとどうなるのでしょう?
鈴木先生
今までとは違ったバランスのよい食事内容への切り替え、または、食事制限やご自身でインスリン注射を打ち続ける生活などが待ちうけています。加えて、腎機能が9割以上失われると、透析生活を余儀なくされるでしょう。2日から3日に1回の頻度で透析しないと、命をつないでいけなくなります。加えて、失明する可能性すらあります。
編集部
でも、糖って栄養ですよね? お話を聞くと「毒」に思えてきます。
鈴木先生
そうですね。糖は大切なエネルギー源なのですが、インスリンによる調節機能が働かなくなると、むしろ弊害になりかねません。血液中の過剰な糖分が、血管にダメージを与えてしまうからです。血管のキズには悪玉コレステロールが付着しやすく、動脈硬化を招きます。糖尿病の特徴は、全身の細かな血管が傷ついてしまうことで、腎臓やすい臓、目といった末端の疾患として現れやすくなります。
編集部
十分な睡眠ともに、糖質制限もしたほうがいいですか?
鈴木先生
何事もバランスが大切で、過度な糖質制限をすると、今度は低血糖症のリスクが高まります。目安としては、「1日に必要なカロリーのうち、その半分を炭水化物で取る」こと。ご自身でのコントロールが難しければ、かかりつけ医を持ち、「ライフデザインのための相談」を心がけてください。私たち医師は、こうした予防や未病への取り組みを全面的にご支援いたします。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
鈴木先生
糖尿病こそ、予防が問われる病気だと考えています。血管や臓器へのダメージは、糖尿病になった段階で、かなり進んでいるからです。たとえば1年に1回でも2回でも、かかりつけ医へ相談する機会を持つと、自ずと健康意識が高まるのではないでしょうか。機械的に進む定期検診で満足せず、対面して正しい情報のやりとりをしていきましょう。もちろん早期発見の機会にもなります。
編集部まとめ
直感的な捉え方として、「体が疲れると臓器も疲れる」ことを覚えておきましょう。そして、臓器の疲労は、十分な睡眠が取れないことで起こりえます。また、鈴木先生の「ライフデザインのための相談」という観点が印象的でした。病院はもはや、病気になってから行くところではなく、病気を防ぐために行くところ。健康な状態で受診するのが、現代的かつ健康的なスタイルです。
医院情報
鈴木内科・糖尿病クリニック
所在地 | 〒124-0025 東京都葛飾区西新小岩1-2-8 第1鈴亀ビル4F |
アクセス | JR「新小岩駅」より徒歩1分 |
診療科目 | 内科・糖尿病内科・生活習慣病 |