脚の不快感が止まらない…「むずむず脚症候群 」とは?
寝ようとすると、脚の奥が騒ぎだす。気になって脚をさすったり、動かしたりすると治まるものの、またしばらくすると再発する。昨今、そんな安眠を妨げる「むずむず脚症候群」が注目されています。100人に4人が発症するという謎の病態について、「青山・表参道睡眠ストレスクリニック」の中村先生を取材しました。
監修医師:
中村 真樹(青山・表参道睡眠ストレスクリニック 院長)
東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科修了。大崎市民病院、東北大学病院精神科、睡眠総合ケアクリニック代々木勤務などを経た2017年、東京都港区に「青山・表参道睡眠ストレスクリニック」開院。主に睡眠障害全般と、ストレスが原因となりうるうつ状態・不安障害・パニック障害に対する医療を提供している。日本睡眠学会専門医・評議員、日本精神神経学会専門医・指導医、日本臨床神経生理学会脳波専門医の資格を有する。日本不安障害学会、日本精神科診断学会、日本生物学的精神医学会などの会員。
眠くなるとやってくる、別名「レストレスレッグス症候群」
編集部
最近、寝ようとすると脚がむずむずして眠れなくなります……。
中村先生
もしかしたら「むずむず脚症候群」かもしれません。同様の症例報告は17世紀ごろから上がっていたものの、1995年になって国際的な診断基準がまとめられました。また、2014年に一部改訂がおこなわれ、今では「特徴的な4つの症状」の有無をして、診断に結びつけています。
編集部
「特徴的な4つの症状」とは何ですか?
中村先生
①脚の不快感に伴って、脚を動かしたい欲求に駆られる |
①脚の不快感に伴って、脚を動かしたい欲求に駆られる |
以上の4点です。最近の知見ですので、診断基準だけでなく病気そのものを知らない医師も散見されます。「気のせい」にされてしまうケースも少なくありません。
編集部
どのようなむずむず感が多いのですか?
中村先生
皮膚表層よりも、“脚の深い場所”で感じることが多いようです。その表現は、「筋肉と骨の間をミミズがはっているような不快感」「じっとしていられない」「熱い」「冷たい」など患者さんによってさまざまです。脚を動かしたりさすったりすると一時的に治まるものの、眠ろうとすると再発しますので、「拷問のようだ」とおっしゃる患者さんもいます。
編集部
脚の病気なのでしょうか?
中村先生
「脚」そのものに異常や病気があるのではなく、神経の伝わり方による問題といえます。実のところ、脚がむずむず感じるような“脚の筋肉の細かなけいれん”は、誰にでも生じているのです。その一方、こうした全身のちょっとした知覚情報をすべて脳へ送ると、脳がパンクしてしまいます。そこで通常は、情報をシャットアウトしているのですが、「むずむず脚症候群」の方の場合、このちょっとした知覚情報をブロックする機能が弱まっているので、脳へこの知覚情報が“伝わって”しまうのです。こういった筋肉の細かなけいれんは脚以外でも起きますので、時に腕や腰などにも同様な症状を認めることもあります。
家族歴が問われる、遺伝要因の大きな症候群
編集部
なぜ、脳のブロック機能が低下してしまうのでしょう?
中村先生
残念ながら、直接的な原因はわかっていません。ただし、女性に多い鉄不足、腎臓疾患、遺伝的な要素などが関係していると考えられています。遺伝要因の場合、「家族みんながそうだったから、病気とは思わなかった」という患者さんもいらっしゃいます。
編集部
どれくらい患者さんがいるのですか?
中村先生
症状の発現に限れば、100人に4人くらいの割合といわれています。そのうち治療を要するのは2割弱程度で、およそ70万人の推定患者がいるのではないでしょうか。なお、比較的女性に多いとされています。
編集部
そのまま我慢していると、どうなりますか?
中村先生
眠りに対する障害が心配ですね。不快感のために寝付けなくなるので寝不足になったり、ストレスの結果、日中の生活に影響を及ぼしかねません。加齢も関係していますので、症状や日中への影響は、次第に増していくでしょう。
編集部
勘違いなどを恐れず、受診すべきでしょうか?
中村先生
脚の不快感で眠れず、生活に支障が出ていたら、まずこの病気を疑って、診断・治療する必要があるでしょう。リウマチや糖尿病のような、別の疾患を発見するケースもありますので、遠慮なさらず受診にいらしてください。
編集部
原因がわからないのに、診断・治療できるのですか?
中村先生
診断は、前述した「特徴的な4つの症状」の有無をもとにします。治療は不快感の症状がでる時間などをもとに、症状を抑える薬をメインに行います。鉄不足や貧血の影響が疑われる場合は、この治療も平行して行います。
脚の病気と自己判断せず、正しい受診先を
編集部
具体的な治療方法についても教えてください。
中村先生
ドーパミンという神経伝達物質が“筋肉のちょっとした知覚情報”の流れを抑える役割があるので、ドーパミンの作用を強めるお薬が有効です。また、ドーパミンの合成に鉄が必要なので、血液検査で鉄不足が判明したら、鉄剤を併用することもあります。なお、血液中の鉄分量は、夜になると減ることが知られています。「むずむず脚症候群」が夜に起きやすい一因です。
編集部
ドーパミン系の薬とは、いわゆる「抗けいれん薬」のことですか?
中村先生
いいえ、違います。「むずむず脚症候群」の治療薬として認可されているのは、「ビ・シフロール(プラミペキソール)」などの別のお薬です。患者さんの症状によっては、ドーパミン系とは別の作用機序の「レグナイト(ガバペンチン・エナカルビル」を使うこともあります。また、「抗てんかん薬」のクロナゼパムを使うこともありますが、むずむず脚症候群は診断基準や治療法が確立したのがここ10数年ですので、「むずむず脚症候群」と知らずに、誤った治療がおこなわれることがあります。
編集部
怖いですね。どの標ぼう化を受診すればいいのでしょう?
中村先生
※日本睡眠学会「睡眠医療認定医リスト」より
http://www.jssr.jp/data/list.html
編集部
ほか、日常生活で、注意したいことはありますか?
中村先生
長年、症状で苦しんできた患者さんの経験則を参考に、日常生活上、避けたいものとしてカフェインやアルコール、喫煙などが挙げられます。睡眠前のストレッチやマッサージ、軽度のウォーキングなどは症状を軽減させることがあります。ただし、人それぞれですので、「やってみないとわからない」ところはあります。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
中村先生
「むずむず脚症候群」に関連した鉄不足の場合、健康診断などの一般の血液検査では判明しないことがあります。「フェリチン」という鉄の運搬に関わるタンパク質の量を測定する必要があるからです。症状に悩んでいたら、いわゆる「隠れ貧血」かどうか、専門医院で検査してみてはいかがでしょうか。
編集部まとめ
中村先生によると、脚のむずむず感は“誰でも”脊髄まで伝わっているそうです。そのノイズをカットしきれず、脳へ伝えてしまっている状態が、「むずむず脚症候群」なのでした。したがって、脚の病気ではないのです。夜に強くなる脚の不快感のために眠れないことが続くようなら、専門医療機関受診がお薦めです。受診先については、日本睡眠学会のサイトを参考にしてみてください。
医院情報
所在地 | 〒107-0062 東京都港区南青山5‐1‐22 青山ライズスクエア3階 |
アクセス | 東京メトロ表参道駅B3出口直結ビル内 徒歩1分 |
診療科目 | 睡眠外来・ 睡眠時無呼吸症候群・ 心療内科 |