【漫画付き】椎間板ヘルニアってなんで起こるの? 発症原因と予防法について教えて!
「みやき整形外科・脊椎クリニック」の味八木先生によると、もともと「ヘルニア」には、「飛びだすこと」「飛びでたもの」などの意味があるそうです。椎間板ヘルニアの場合、はたして何が、どうして飛びでたのでしょう。そして、予防法はあるのでしょうか。詳しく取材しました。
監修医師:
味八木 二郎(みやき整形外科・脊椎クリニック 院長)
昭和大学医学部卒業。昭和大学藤が丘病院、麻生総合病院への勤務、昭和大学藤が丘病院整形外科兼任講師などを歴任後の2018年、東京都世田谷区に「みやき整形外科・脊椎クリニック」を開院。日本脊椎脊髄病学会指導医、日本整形外科学会認定脊椎内視鏡下手術・技術認定医という専門性を生かしつつ、地域密着型の医療に専心している。医学博士。日本医師会、日本整形外科学会、日本脊椎脊髄病学会、日本脊椎インストゥルメンテーション学会、日本低侵襲脊椎外科学会の各会員。
飛び出てくるのは、椎間板内の髄核(ずいかく)
編集部
なぜ椎間板はヘルニア、つまり「飛びでて」しまうのでしょう?
味八木先生
背骨に「圧力」がかかるからです。椎間板ヘルニアの正体は、背骨そのものの変形ではなく、背骨の内側に存在する「髄核(ずいかく)」という組織が“押されて”飛びでてしまった状態です。激しい痛みは、この髄核が椎間板周りの神経を圧迫することで生じます。
編集部
「髄核」とは何なのですか?
味八木先生
軟骨の一種で、クッション剤のような役割を担っています。髄核自体に神経のような知覚機能はありません。したがって、物理的に切除しても、そのことによる痛みは起こりません。
編集部
今度は「圧力がかかる原因」について教えてください。
味八木先生
まずは遺伝的な素因が挙げられますね。後天的な要因としては「過度な力が加わること」で、その中に加齢なども入ってきます。経年劣化とでもいえばいいでしょうか。ほか、力仕事や激しいスポーツ、さらには喫煙習慣も関係してきます。タバコは、末梢の血管が収縮して循環を悪くするため、変性に至りやすいと考えられています。体の修復機能が働きにくくなるのです。
編集部
具体的な症状としては、やはり痛みですか?
味八木先生
神経痛をはじめ、下半身の痛みやしびれ、足がうまく動かせなくなる運動マヒなどですね。とくにマヒが起こってきたときには注意が必要です。回復する能力が失われてくることも考えられますので、早急に受診するようにしましょう。加えて、尿や便の排せつ障害へ発展することもあります。尿や便などがたまっている感覚を感じにくくなるのです。
ヘルニアでも痛みを伴わないケースがある
編集部
椎間板へルニアを予防する方法はありますか?
味八木先生
遺伝や体質的な素因は、予防のしようがないですよね。それでも「体幹筋を鍛える」、「ストレッチを十分におこなう」、「腰ではなく足の力で持ち上げる」、仕事によっては「ロボットなどの補助装置を有効に使う」などが考えられます。
編集部
介護用ロボットは、テレビなどで見かけるようになってきましたね。
味八木先生
何もハイテクなものに限らず、例えば農家さんなどで、手押し車を改良した“ローテク”の機器を使っているところもありますよ。車の上に座り、動かしながら種まきができるという優れものです。
編集部
カルシウムの摂取など、食事面の工夫はどうですか?
味八木先生
カルシウムは「骨の丈夫さ」と関係してくるので、ヘルニアの予防にはならないかもしれません。あえて言うなら「バランスの良い食事」に気を配ることでしょうか。
編集部
オススメのトレーニング方法などはありますか?
味八木先生
「腰にいい運動」などで調べていただければ、インターネット上にいろいろと載っているでしょう。ただし、メーカーなどが販売目的で宣伝している器具類には注意し、医師の監修している方法を参考にしてください。
編集部
学生時代、運動をしていてヘルニアになることも多いと思うのですが?
味八木先生
そのとおりで、過度な運動は、かえって逆効果です。学校なら体育の先生、ジムならトレーナーなど、きちんとした指導の元に運動をしていただきたいですね。
編集部
ヘルニアに心当たりがある場合、検査だけをしてくれるのでしょうか?
味八木先生
もちろんです。心当たりがある場合の検査には、保険が適用されます。ただし、ヘルニアが画像診断で認められても、痛みの伴わない場合もあります。その逆で、痛みを伴うのにヘルニアが認められない場合は、心因性の腰痛かもしれません。
一般的な腰痛なら、保存療法でも十分な効果が
編集部
続けて、治療方法についても教えてください。
味八木先生
マヒや排せつ障害が伴わないなら、まず、保存療法を試みます。具体的には、けん引などの物理的な方法、お薬やブロック注射といった痛みを抑える方法、電気を使った療法などです。これらは原則的に、保険の適用が可能です。
編集部
マヒや排せつ障害のある場合は、手術が適応されるのですね?
味八木先生
はい。ただし、物理的な切除に限らず、特殊なお薬で神経の圧迫を弱める手術もあります。「ヘルニコア」という髄核内のタンパク質を分解するお薬を使った施術なのですが、脊椎指導医のいる医院など、施術できる施設が限られています。また、保険が適用されたとしても、3割負担で5万円前後と、大変高価です。
編集部
手術による切除は、どのようにおこなうのですか?
味八木先生
直径16mmほどの管を刺し、その中に通した鉗子(かんし)というハサミのような手術器具などで切除します。切開のような大きな傷跡は残りません。なお、管の細さは医院によっても異なり、直径6mmほど細いものを「PED」、直径16mmほどのものを「MED」と呼んでいます。PEDは日帰り可、MEDは入院推奨で、ともに保険の3割負担を前提として3万円弱の費用となっています。
編集部
どの方法で進めるかは、患者が選んでいいのでしょうか?
味八木先生
繰り返しになりますが、マヒや排せつ障害を伴うケースは重篤なので、手術による治療が優先されます。医師が保存療法でいいと判断したら、その中身を相談しながら決めていきましょう。
編集部
再発も含めて、手術の成功率はどれくらいでしょう?
味八木先生
椎間板をすべて取り去るわけにはいかないので、約1割のケースで再発がみられます。ただし、再手術が必要な場合は少なく、当院に限っていえば1%あるかないかです。ほとんどの方は保存療法で済みます。
編集部
市販のシップで痛みが止まれば、それでも構いませんか?
味八木先生
一度は専門医に診せていただきたいですね。接骨院などを利用する場合でも、まず、整形外科で判断してから通うといいでしょう。後々、マヒや膀胱・直腸障害、後遺症などに悩まされないためにも、最初に医師の診断を受けてください。
編集部まとめ
椎間板ヘルニアは、本来なら内側に収まっているはずのクッション剤が飛びでることで、発症するようです。その原因は、先天性のものと後天性のものに分けられますが、「喫煙習慣」が意外でした。体幹トレーニングやストレッチとともに、必要に応じて「禁煙」しながら、予防・改善を心がけましょう。
医院情報
所在地 | 〒154-0022 東京都世田谷区梅丘1-26-5 2F |
アクセス | 小田急小田原線「梅ヶ丘駅」より徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科、形成外科 |