「ぎっくり腰」って予防できないの?【漫画付き】
突然、何の前触れもなしに起きる「ぎっくり腰」。西洋では「魔女の一撃」と呼ばれるほど、突然発症するようなイメージがある一方、未然に防ぐことはできないのか気になるところ。できることなら避けて通りたい腰痛の頻発症状について、「洗足整形・形成外科」の伊藤先生に、解説していただきました。
監修医師:
伊藤 大助(洗足整形・形成外科)
信州大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部整形外科学教室医員、稲城市立病院整形外科医長歴任後の2004年、東京都目黒区に「洗足整形・形成外科」開院。総面積270㎡超の広々とした施設で、医師ほか、理学療法士、鍼灸マッサージ師、柔道整復師らがホスピタリティにあふれた治療を提供している。日本整形外科学会専門医、日本医師会認定産業医、日本レーザー医学会認定医、日本抗加齢医学会認定医。日本股関節学会、日本人工関節学会、日本ペインクリニック学会の各会員。
ぎっくり腰の原因は、日ごろの運動不足にあった
編集部
ズバリ、ぎっくり腰にならない方法はあるのですか?
伊藤先生
あります。端的に言えば、筋力不足を補うことですね。ヒトの筋力は、ある程度の運動をしないと、「1年につき1%の割合で減退する」とされています。また、運動を盛んにしていた学生時代と比べ、「10%から15%の筋力低下」が起きると、ぎっくり腰になりやすいともいわれています。
編集部
社会人になって10年から15年、つまり30代や40代になると、ぎっくり腰のリスクが高まるわけですね?
伊藤先生
ざっくりした考え方ですが、そういうことになります。この場合の「ある程度の運動」とは、ウォーキングなどの軽度な運動を含みません。鍛えることを意識した“重め”な運動です。
編集部
どうして筋力不足が、ぎっくり腰を起こすのでしょう?
伊藤先生
いわゆる「ぎっくり腰」にもさまざまな原因があり、なかでも多いのは「仙腸関節炎(せんちょうかんせつえん)」という症状です。「仙腸関節」は骨盤の一部で、大きな力が加わるとゆがみ、痛みを起こします。この不具合を防いでくれるのが、腰周りの筋肉です。
編集部
ぎっくり腰の、ほかの原因についても教えてください。
伊藤先生
腰周りの肉離れや筋膜炎、関節障害など、さまざまに考えられます。これらの症状は、主に「急激な動作」によって生じます。ですから、「急激な動作」を控えることも、有効な予防方法です。とくに起床時など、体が温まっていないときには注意してください。
腰だけに注目せず、全身のバランスを整える
編集部
腰を鍛えるとすると、具体的に何をすればいいのでしょう?
伊藤先生
「腰痛の原因は腰にある」と考えてしまいがちですが、実は、そうとも言い切れません。膝が悪かったり、腹筋が弱かったりしても、ぎっくり腰を誘発します。加えて、「腰に負担をかけない体の使い方」という発想も必要でしょう。
編集部
「腰に優しい生活」ということですか?
伊藤先生
そうですね。腰が水平方向に稼働できる最大幅は、「約5度」といわれています。時計にしたら「1分の幅」にも満たない角度しか動かないんですよ。それなのに、ラケットやゴルフクラブを振り回していたら、おかしくしてしまいますよね。
編集部
でも実際は、腰を回していますよね?
伊藤先生
腰ではなく、股関節を回しています。試しに、フルスイングをしてみてください。ベルトの止め具が横を向きますよね。もし腰だけを回そうとしたら、ベルトの止め具は動かないはずです。ベルトの留め具が動かないようにスイングをしても、ほとんど腰は回らないのではないですか。
編集部
あっ、本当だ。まったくといっていいほど動けません。
伊藤先生
つまり、腰を回さなくても、それに似たような動作はできるのです。それなのに、無理やり腰を使ってしまうから、ぎっくり腰が起きるわけです。スポーツ医やスポーツドクターの在籍している医院なら、全身のバランスや「腰に負担をかけない体の使い方」などを指導してくれるでしょう。ぎっくり腰の治療と平衡してトレーニングします。
「とっておきの方法」はかえって危険、ヒトの数だけ治療法はある
編集部
予防法についてわかりました。しかしどんなに予防しても、ぎっくり腰になる人はいますよね?
伊藤先生
そうですね。逆に全くぎっくり腰にならない方もいらっしゃいますので、やみくもに「予防」するというより、「なってから、再発に注意する」という方向でも構わないでしょう。ぎっくり腰を「体がうまく使えていなかった」ことのサインとして、捉えてみてはいかがでしょうか。
編集部
医院では、どのような治療をするのでしょうか?
伊藤先生
まずは「痛みのコントロール」です。痛み止めのお薬や注射などでつらくない状態を作りだしてから、筋トレやリハビリなどを検討していきます。その中身は、患者さんによりそれぞれですね。股関節が使えてなかったのか、悪い膝をかばおうとして腰を使っていたのかなど、主たる原因によって変えています。
編集部
場合によっては、運動療法もおこなうのですよね?
伊藤先生
はい。ただし、息切れするくらいの運動が、ぎっくり腰の再発防止には必要でしょう。健康促進のためのウォーキングなどとは、明らかに趣旨が異なります。
編集部
治療に際し、安静にしていなくてもいいのでしょうか?
伊藤先生
もちろん、ハードなトレーニングは、ぎっくり腰の症状が落ち着いてからです。ただし、治療中であっても安静にする必要のないことが判明しています。「安静にしていた患者群」と「普通に生活や仕事をしていた患者群」を比較した論文によると、両者に顕著な差はありませんでした。
編集部
ちなみに、マッサージ院ってどうなんですか?
伊藤先生
治療ではなく、「癒やし」として利用する分には構わないでしょう。「ゲートコントロール」という理論があって、より強い刺激を加えると、その後が楽になるのです。虫さされを「かく」とかゆみが“消えた” ように感じますよね。それと一緒です。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします。
伊藤先生
ぎっくり腰は、「病院に行くほど痛くない」などと放置していると、やがて慢性の腰痛へ移行しかねません。上述したさまざまな要因が隠れているからです。医院を探す際も、ぎっくり腰にしっかり向き合ってくれる医療機関を探しましょう。自分に合った選択肢をいくつも提示してくれる医師が好ましいと思います。
編集部まとめ
加齢とともに落ちてくる筋力を取り戻すこと、そして、腰に負担をかけない動作を体得すること。どうやらこの2点が、ぎっくり腰を防ぐ方法といえそうです。また、仮になってしまった場合、「簡単体操」「これだけ指圧」などの画一的な方法は、あまり意味を持たなそうです。個人ごとの原因を専門医と探しだし、適切に対処していきましょう。
医院情報
所在地 | 〒152-0012 東京都目黒区洗足2-7-15キューブ洗足2F |
アクセス | 東京急行電鉄目黒線洗足駅より徒歩1分 |
診療科目 | 整形外科、形成外科 |