前立腺がんは早期発見が難しいってホント?
男性に固有の「前立腺がん」の罹患(りかん)率は、年々増加傾向にあるといいます。いずれ、「がんの部位別罹患数のトップを占める」という予想もなされているようです。そんな前立腺がんですが、初期の自覚症状が乏しく、早期発見が難しいとの話も耳にしたりします。そこで、この“注目すべきがん”といっても過言ではない前立腺がんの実態を、「ももたろう腎・泌尿器科クリニック」の船橋先生に伺いました。
監修医師:
船橋 健二郎(ももたろう腎・泌尿器科クリニック)
昭和大学医学部卒業、昭和大学外科系泌尿器科学大学院修了。一般医院や独立行政法人東京災害医療センターなどの勤務を経た2016年、埼玉県蕨市に「ももたろう腎・泌尿器科クリニック」開院。泌尿器科専門クリニックとして最新の設備を備え、童話『ももたろう』に随行する“お供”のような立場を目指し、患者中心の医療に努めている。医学博士。日本泌尿器科学会認定専門医・指導医。
画期的な検査手法!? 「PSA検査」とは
編集部
前立腺がんの早期発見は難しいのでしょうか?
船橋先生
「PSA検査」という手法が確立されてきてからは、容易になりました。採血のみで検査をすることができます。「PSA」とは前立腺から分泌される物質のことで、がんの罹患に伴い、血中数値の高くなることが知られています。
編集部
血液検査だけで早期発見ができるのですか?
船橋先生
最終的には、組織を取り出す生体検査やMRI検査などを併用します。「PSA」の数値は、「前立腺肥大」といったほかの病気によっても上下します。一般に、「PSA検査」で異常値が見られた方のうち約2割の方に、前立腺がんは発症しています。
編集部
前立腺がんの今後の見通しは?
船橋先生
前立腺がんの患者さんの数は、2020年で10万人を越え、男性がんの第1位になると予測されています。前立腺がんによる死亡数も上昇傾向にあり、2020年には約1万5000人となる見込みです。
編集部
なぜ増加傾向がこんなに顕著なのですか?
船橋先生
理由として考えられるのは、やはり「PSA検査」が普及してきたことで、今まで潜在化していた患者さんが表にでてきたことではないでしょうか。加えて、食生活の欧米化や、平均寿命が延びてきたことも関係しているでしょう。前立腺がんの罹患率は50代を過ぎたころから上がってくるため、比較的「高齢者の病気」というイメージも持たれます。他のがんと比べて、周知が後回しにされてきたのではないでしょうか。
前立腺がんのリスクについて
編集部
ますます前立腺がんの早期発見が問われそうですね?
船橋先生
実は、そこが難しい問題といえます。早期に発見できるということは、重篤な症状に至るまでの期間が「長い」ということです。ご高齢になればなるほど、前立腺がん以外の病気の治療を優先するケースが多くなるでしょう。例えば、心不全や脳梗塞などです。
編集部
前立腺がんのリスクより、ほかの病気のリスクが高いケースもあると?
船橋先生
そういうことです。したがって、「PSA検査」の数値評価は、50代の方と80代の方で異なってきます。50代の方なら、もちろん治療を最優先します。しかし80代の方となると、ほかの疾患も考慮したうえで、優先度の見極めをしないといけないでしょう。また、進行のスピードにもよりますよね。「しばらくは悪さをしなさそう」であれば、要観察という選択肢もありえます。
編集部
仮に「PSA検査」で異常値が出たとしても、前立腺がんの可能性は2割ということでしたよね?
船橋先生
はい、先ほどお話ししたとおりです。神経質になりすぎないようにしてください。実際、同じ特定健診の中でも、「PSA検診」を無料で組み込んでいる自治体と、そうでない自治体があります。それだけ、重要性の認識に差があるということです。
編集部
先生は「PSA検査」をどう評価されていますか?
船橋先生
「50代になったら、一度は受けるべき検査」だと考えています。その後も、3年に一度は検査を続けてください。何かしらの自覚を伴わなかったとしても、家族歴などがあれば、保険適用になります。仮に全額自己負担だとしても、2000円程度の費用で受けられるでしょう。
編集部
「PSA検査」を受けるとしたら何科なのでしょう?
船橋先生
検査そのものは多くのクリニックが扱っていますので、最寄りの医療機関を受診してください。ただし、大切なのは、その検査結果をどう判定するかです。検査結果に異常値が見られたら、泌尿器科を紹介してもらって専門の医師にみてもらいましょう。この場合の診察や治療には、保険が適用されます。
どのような治療をするのか?
編集部
そもそも「前立腺」とはどのような器官なのでしょう?
船橋先生
前立腺は男性だけにあり、ぼうこうの下に位置し、尿道を取り囲んでいます。大きさはちょうど栗の実1個分くらいで、前立腺液を分泌しています。前立腺液は精液の一部となるほか、精子を保護したり、精子に栄養を与えたりしています。
編集部
前立腺がんの自覚はあるのですか?
船橋先生
初期の自覚症状はほとんどありません。それだけに、進行を許してしまいがちです。残尿感や痛みなどを伴うのは、ある程度、症状が進んだ段階になります。
編集部
どのような人がかかりやすいのでしょう?
船橋先生
年齢が上がるごとに増加する傾向はありますね。また、前立腺がんにかかった家族歴がある男性は、そうでない男性に比べ、約2倍かかりやすいとされています。
編集部
もし前立腺がんが発見された場合、治療方法にはどのようなものがあるのですか?
船橋先生
まずは、先ほどお話しした経過観察という方法です。ほか、がんの悪性度や進行度によって、放射線療法・手術療法・投薬療法などを検討していきます。どのケースでどのような方法を用いるのかは、一概に言えません。ケース・バイ・ケースですね。
編集部
手術の場合、前立腺の全てを摘出するのでしょうか?
船橋先生
原則としてそうなります。ただし、最近になり、「高密度焦点式超音波療法(HIFU)」という部分的な治療の研究が進んできています。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
船橋先生
50代になったら一度は検査を受けることをおすすめします。また、繰り返しになりますが異常な数値がでたとしても必ずしもがんになるとは限らないので神経質になりすぎず、医師と話し合ってみてください。
編集部まとめ
前立腺がんは、かつては早期発見が難しかったものの「PSA検査」という手法が確立されてきてから容易になりました。ただし、そちらの検査で異常とされたとしても前立腺がんではない場合も多く、なおかつ、人により治療の優先度を問われるケースもあるようです。検査そのものは多くのクリニックが扱っているとのことですので、一度近くのクリニックで受けてみてもらってはいかがでしょうか?
医院情報
所在地 | 〒335-0002 埼玉県蕨市塚越2-6-7 パラドールⅡ 1・B |
アクセス | JR京浜東北線「蕨駅」東口より徒歩4分 |
診療科目 | 泌尿器科・内科・男性皮膚科 |