「歩き方」は身体のどこまで影響を及ぼすの?
歩き方と身体に起きる諸症状には、密接な関係があるのでしょうか。あるとしたら、どの程度の影響が考えられるのでしょうか。「足と歩行の診療所」の吉原先生によると、全員に共通した絶対的な正しい歩き方は「ない」と言います。では、どうすればいいのでしょうか。詳しい話を伺いました。
監修医師:
吉原正宣(足と歩行の診療所 院長)
関西医科大学卒業。洛和会音羽病院形成外科に勤務中、米国の足病医より指導を受ける。その後、下北沢病院足病総合センターなどの勤務を経た2018年、蒲田駅南口に「足と歩行の診療所」開院。足の病気と歩行の障害の解消に向けて診療を続けている。日本形成外科学会形成外科専門医、日本抗加齢医学会専門医。日本下肢救済・足病学会、日本フットケア学会、日本静脈経腸栄養学会ほか参加学会多数。
歩き方に、その人の不具合が反映される
編集部
歩き方は人体に影響を与えるのでしょうか?
吉原先生
さまざまな影響が考えられるでしょう。歩き方を改善したら顎(がく)関節症が治ったという患者さんもいらっしゃいます。そもそも全身は、骨や筋肉、筋膜、血管などによってつながっているのです。一言で「どこまで」とは言い切れないですね。
編集部
前提として、「悪い歩き方」と「良い歩き方」があるのですよね?
吉原先生
むしろ、身体のどこかが“悪い”から、歩き方に反映されるのだと考えています。例えば、かむ力が右と左で違っていると、上半身のバランスを崩してしまうでしょう。その偏りを補おうとして、歩き方が乱れるわけです。
編集部
「歩き方の乱れ」と「身体に起きている不具合」は、どちらが先なのですか?
吉原先生
相互に影響しているものの、私個人としては、「身体に起きている不具合」が先で、「歩き方の乱れ」が後だと考えています。足を使うダンサーやアスリートなどは別として、一般の方を前提とした話です。
編集部
どんな歩き方をしていれば問題ないのでしょうか?
吉原先生
骨格構造が人によって異なりますからね。「唯一の正しい歩き方」なんて存在しないでしょう。ただし、“理想的な歩き方”へ近づけることはできます。何をもって“理想的か”というと、足が地面に着いた時、きちんと衝撃を吸収し、前に進みたいときにしっかりと蹴り出すことができることです。わかりやすく言えば「疲れにくい歩き方」ですよね。
健康普及活動が推進される現代に求められること
編集部
お話を伺うと、「体に起きている不具合」を見つけることのほうが先決という気もします。
吉原先生
そうでしょうね。猫背になっているから前傾姿勢で歩いてしまったり、上半身のバランスが偏っているから左右の歩幅も異なるといった具合です。
編集部
もし、そうした不具合を自覚した場合、どこへ相談すればいいのでしょう?
吉原先生
フットケアの専門医や理学療法士さんなどですね。理想的な歩き方へ近づけるためには、それまで使っていなかった筋肉のトレーニングが必要です。関節の可動域を広げる療法なども求められるでしょう。場合によっては、整骨院の先生やトレーナーさんの力をお借りしないといけません。
編集部
オリンピックのアスリートみたいな話になってきました。
吉原先生
そうなんですよ。アスリートの方ほどではないにしろ、しっかりとした環境を一般の方でも享受できることが理想ですね。国の健康普及活動により、日々の生活の中へウォーキングやランニングを取り入れる方が増えてきました。それはそれでいいことなのですが、リスクもはらんでいます。
編集部
ウォーキングやランニングのリスクとは?
吉原先生
例えば、適していない用具選び、膝に負担をかけすぎる走り方、ストレッチ運動の有無などです。また、「歩き方の乱れ」を起こしている方は、その乱れた状態のまま歩き続けてしまうわけですので悪化する一方ですよね。
その人に合わせた「歩き方健診」という発想
編集部
一般人が受けられる総合的な環境は、整っているのですか?
吉原先生
私たちフットケアの専門医が中心となって、「日常を快適に過ごすための環境」をご提供できるよう努めています。また、歯に定期健診があるように、歩き方の定期健診を受けてもいいのではないでしょうか。靴底のすり減り具合など、始めてみてからわかることだってあるでしょう。
編集部
お年寄りのなかには、そこまで積極的に取り組めない方もいらっしゃると思うのですが?
吉原先生
一部のデイサービスでは、運動機能の改善を積極的に行っているところがあります。むしろ、お年寄りの方のほうが、正しい運動に取り組みやすいんです。若い方ほど自己流になりやすく、ケガを起こしがちです。
編集部
やはり、早めに歩き方をなおしたほうがいいですよね?
吉原先生
はい。交互に木片を抜いていく「積み木崩しのゲーム」のようなものです。体に不具合が起きていても、ある程度までは耐えられるし、自分で気付かない。ところが、一つの木片がきっかけとなって急に崩れる。痛みなどが突然、出てくるわけです。でもそれって、いままで抜いてきた多くの木片が関わっているんですよね。いまに始まったことじゃない。
編集部
抜かれた木片、つまり看過されてきた予兆は先生ならわかりますか?
吉原先生
わかります。靴を見せていただければ一発です。また、立っているときの姿勢や問診からも判断していきます。歩き方に関する意識や環境は急速に高まりつつありますので、後は、皆さんが利用するかどうかですね。私としては、「歩き方健診」みたいな発想があってもいいと思います。
編集部まとめ
先生の「積み木崩しのゲーム」の例えがイメージしやすかったですね。間違った歩き方のダメージは知らず知らずのうちに蓄積されていきます。体に影響が出てからでは、遅いのかもしれません。ご自身の状況を把握するためにも、まずは一度、フットケアの先生に相談してみてはいかがでしょうか。
医院情報
所在地 | 〒144-0051 東京都大田区西蒲田8丁目1-7 グランタウンビル9F |
アクセス | JR・東急池上線・東急多摩川線 蒲田駅 南口より徒歩1分 |
診療科目 | 形成外科・外科 |