「恐怖と緊張が安心にかわりました」 胃と大腸の内視鏡検査に密着してみた
胃や大腸を調べるときに行う内視鏡検査。痛い、辛い、苦しい、怖いなど、マイナスイメージを持っている人も多いのではないでしょうか? 実際に検査をした人の間でも、“平気な人”と“もうやりたくない人”で意見がわかれがち……。果たして本当のところはどうなのか。今回は、「病院も検査も大嫌い! トラウマだらけ!」と豪語する、当メディア関係者の吉見氏(仮名・50歳)が、『胃と大腸の同時内視鏡検査』に初挑戦。密着してリアルな感想や検査の流れなどを追った。内視鏡検査をするか悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
監修医師:
東海林 俊之(医師)
新潟大学医学部卒業後、新潟大学医学部第三内科に入局。その後、関連病院や横浜旭中央総合病院などに勤務。内科、消化器、肝臓内科、内視鏡を中心に、専門医療だけでなく地域医療に携わる。日本消化器内視鏡学会専門医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会肝臓専門医、日本内科学会総合内科専門医。
被験者:吉見氏(仮名)
1968年(昭和43年)生まれ、50歳(検査時年齢)
当メディア関係者で、内視鏡検査は未経験。若い頃、怪我をしたときに受けた麻酔処置が痛くトラウマに。それ以来、検査をはじめ病院に行くのが苦手。
今回取材に協力していただいたのは、静岡県の三島駅すぐにあるクリニック。消化器内視鏡専門医の資格を持つ、経験豊富な東海林先生が検査を担当する。
事前インタビュー
人生で初めて内視鏡検査を受ける吉見氏。緊張の面持ちだ。
編集部
今回、内視鏡検査を受けることになった経緯は?
吉見氏
医療現場に携わることが多い仕事柄もあり、「40歳を超えたら一度は胃腸の内視鏡検査を受けたほうがいいよ」とずっと言われてはいたんですが、昔から病院嫌いなので、目をつぶってきました。検査が大事なのはわかっているんですけどね……。この企画がなかったら今後もずっと受けなかったんじゃないかと思います(笑)。
編集部
いつから食事をとっていませんか?
吉見氏
先週受けた事前検査で指示された通り、昨日の20時からは食べていません。昨日の昼食と夕食の2食分は指示された検査食を食べました。また検査3日前からお酒、乳製品、食物繊維の多い野菜は、摂取するのを控えました。
編集部
大腸検査のための下剤はいつから飲み始めましたか?
吉見氏
3日前にテストで1回飲みました。今日は朝の6時から1.8リットルの下剤を、2時間かけて飲みました。
編集部
6時から飲み始めて、トイレに行きはじめたのはどれくらいからでしたか?
吉見氏
7時くらいからで、10時までに8~9回ほどトイレに行きました。そこからは病院までの移動中も、特に行きたくはなりませんでした。
編集部
下剤は辛かったですか?
吉見氏
トイレから出られないのも辛いですが、なによりも下剤で胃がパンパンになったのが苦しかったです。1.8リットルも飲むので、胃から腸に早く流れてほしいと思っていました。
編集部
検査前の今の心境はいかがですか?
吉見氏
元々、病院や検査にトラウマがあり、麻酔を受けるだけでも不安です。親族に胃がんの人がいたのも心配ですね。検査だけでなく、結果がどうなのだろうと緊張しています。
検査の流れ
13:00 クリニック到着
予約した13時に到着し、受付をする吉見氏。1週間前に説明のために外来受診をしており、そのときに事前準備や検査の説明、検査室の見学をさせてもらった。検査の同意書にさっさと署名しようとする吉見氏に対して、先生がとても丁寧に説明をしてくれたそうだ。
13:10 術前準備
受付が終わると、検査室へ移動。検査着に着替え、検査直前にトイレに行くか確認をされる。
今回は胃の内視鏡検査があるため、検査直前に胃の中の粘液や泡を消して見やすくする消泡剤を飲み、喉にスプレーの麻酔をかける。麻酔をかけるとカメラが喉を通るときに、反射や痛みを抑えることができる。大腸検査だけの場合は、この過程が省かれる。
横になったら腕に針をさして、点滴をスタート。点滴で水分補給することで、検査中の脱水症状を防ぎ、血圧を安定させることができる。この時点で緊張はピークに。
横を向いてマウスピースをかんだら、点滴から鎮静剤を投与。1分もたたないうちに鎮静剤が効き、吉見氏は眠ってしまった。
13:30 胃の内視鏡検査開始
今回は胃の内視鏡検査からスタート。先生により、口から内視鏡が入れられる。カメラが喉を通過する際に少し咳きこんだが、鎮静剤が効いており起きることはなかった。内視鏡は食道を通過し、すぐに胃の中に到達。
カメラの角度を変えながら、胃だけでなく十二指腸も診察していく。カメラからは空気や水を出したり、吸引することができる。見えにくいところを水で洗浄したり、胃の水分を吸引したりしていた。先生によると、ピロリ菌のいる胃の所見ではないという。
5分ほど胃の中を診察して、内視鏡カメラを口から抜く。食道を通るときに画像強調観察に切り替え。これを使うと色調を変えて見ることができ、食道がんを診断しやすくなるという。胃の内視鏡検査は10分ほどで終了した。
13:40 大腸の内視鏡検査開始
続いて大腸の内視鏡検査がスタート。先生によると50歳を過ぎると、良性でもふたりにひとりは大腸にポリープがあるそう。がん化する前に発見して、取ることが大切だと言う。鎮静剤が効いているため、引き続き眠ったままの状態で検査は行われる。ライトのついた内視鏡カメラをお尻から入れたらまず大腸の一番奥まで進み、5分ほどで大腸の一番奥である、虫垂の入口に到達した。そこから内視鏡カメラを抜きながら大腸内を診察していく。
内視鏡カメラを抜きながら診察していると、S状結腸にポリープを発見。大きさは5~6mmだった。
画像強調観察と拡大観察で、ポリープを確認。拡大観察では細かい表面構造が明瞭に写っている。先生いわく「腺腫ですね。悪性ではないのですが、放置するとがん化する可能性があるポリープですので切除します」とのこと。
切除直後は血がでたが、数分で止まった。先生によるとコールドポリペクトミーでの切除で出血するのは普通で、必ず血が止まったことを確認してから進めていくという。なお、この方法で切除した場合は、検査終了後に再出血することはほとんどなく、安全性が高いとのこと。画面で見ると大きなポリープだったが、実際取り出してみると5~6mmのためかなり小さい。切除したポリープは、最終診断のための病理検査にだすとのこと。
血が止まったのを確認したら検査を再び開始。今回はポリープがひとつだったので、そのまま内視鏡カメラを抜いて終了。ポリープ切除があったため終了は14:10で、検査時間は30分かかった。
14:10 終了
検査終了後、鎮静剤の効果を覚ます拮抗剤を投与。すぐに目を覚ましたものの、まだふらふらしているため1時間ほどベッドで横になることに。
検査結果
15:30 検査結果
目を覚まし、意識がはっきりしてきたところで、先生より検査結果が伝えられる。先ほど内視鏡カメラで撮影した画像を見ながら説明をしてくれた。
吉見氏
僕の胃腸、どうでしたか?
東海林先生
まずは胃の結果からお伝えしますね。胃はポリープなど異常はなく、ピロリ菌もいない胃粘膜の所見でした。ただ胃と食道の境目に軽度の逆流性食道炎の変化(下記画像)が見られました。胸やけなど自覚症状はありますか?
吉見氏
そういえば暴飲暴食をしたときに、軽く胸やけを感じることがあります。
東海林先生
結果を見てもこれくらいであれば、薬の服用はなくても大丈夫だと思います。胸やけがひどいときは、医師に相談してみてください。暴飲暴食も控えましょうね。
吉見氏
はい。気をつけます。
東海林先生
続いて大腸ですが、5~6mmほどのポリープがひとつあったため切除しました。写真に写っているこれがポリープです。
吉見氏
えっ、がんではないですよね?
東海林先生
良性の「腺腫」だと思いますが、病理検査で最終確認をします。2週間後に結果を聞きにきてください。
吉見氏
それ以外、なにか異常はありましたか?
東海林先生
ポリープを除けば特に異常はなく、50歳にしてはとてもキレイな大腸でした。ただポリープを切除したので、数日間は生活に注意が必要です。後ほど看護師から説明を受けてください。
吉見氏
わかりました。次はいつ検査をすればいいですか?
東海林先生
ポリープがあったので、1年後に内視鏡検査を受けるといいと思います。他にもごく小さなポリープが隠れていたり、新しいポリープができてくることもありますので、定期的な検査をおすすめします。
吉見氏
胃も年に一度行ったほうがいいですか?
東海林先生
そのほうが安心ですね。特に異常がなかった人は、2~3年に一度の検査でよいと思います。
15:40 今後についての説明
今回の検査ではポリープ切除を行ったため、今後の食事や行動制限の注意があった。大腸内に傷があるため、2週間はアルコール、タバコ、激しい運動などは禁止や制限。また検査当日の夕飯と、次の日の昼までは、食事はポリエクトミールという流動食やお粥が入ったセットを渡された。検査で特に異常がなかった場合は、このような制限はなく帰宅できる。
16:00 会計
説明後は受付で会計をして終了。検査のみの場合、約6000円。今回はポリープ切除が日帰り手術となったため、合計で約22000円となった。(保険診療)
検査後インタビュー
吉見氏に検査の感想を伺った。
編集部
お疲れさまでした。検査前は緊張していましたが、受けてみてどうでしたか?
吉見氏
鎮静剤を投与されてすぐ眠ってしまい、起きたら終わっていました。
編集部
検査中のことはまったく覚えていないですか?
吉見氏
はい。全然覚えていないですね。
編集部
ポリープを切除しましたが、痛みなどありますか?
吉見氏
まったくありません。検査を受けたことによる違和感もゼロですね。
編集部
検査結果を聞いていかがですか?
吉見氏
検査結果を聞き、とてもホッとしました。今までは病院や検査が怖かったのですが、先生が患者目線で丁寧に説明をしてくれたおかげで安心できました。
編集部
今回の検査で辛かったことはありましたか?
吉見氏
検査の日の朝に、下剤を1.8リットル飲んだのは辛かったです。ただ辛いのはそこだけで、検査が始まってから辛いことはなかったです。
編集部
また検査を受けたいですか?
吉見氏
受けたいです。流れ作業の人間ドックに対して、本当に検査結果が正しいのか今まで不安でした。でも今回の検査はとても信頼できると思いました。検査前は本当に緊張と恐怖でいっぱいでしたが、それが安心に変わった。今後は僕がまわりの人に、検査の大切さを伝えていきたいです。
編集部まとめ
後日、切除した大腸ポリープの正式な病理結果が届き、内視鏡検査時の所見どおり良性の「腺腫」だったということです。大腸がんの約8割は腺腫が増大してがん化すると言われているので、大腸がんの予防につながったと考えてよいのではないでしょうか。
今回の検査では吉見氏が検査前と検査後で、人が変わったかのように安心した顔をしていたのが印象的でした。「不安と緊張はあったが受けてみると安心を得られて、自分へのいい投資だった」という言葉がすべてだと感じました。
内視鏡検査はやり方によって苦痛を軽減できる検査です。先生によると「どうすることで苦痛を少なく受けられるか、事前にきちんと相談することが大切です。検査がトラウマになると、もう受けたくないと思ってしまい病気の発見が遅れてしまいます。予防のためにも、また受けたいと思えるような方法でやることが重要です」とのこと。早期発見や予防のためにも、自分に合った検査方法を見つけるのがよいようです。