新型コロナとインフルエンザの同時流行はなぜ危険なのか 感染症専門医が解説
肌寒くなってきた今日このごろ。毎年冬になると、流行を始めるインフルエンザですが、今年は新型コロナウイルスも猛威をふるっています。まだまだ終息の気配は見せていませんが、この2つが同時流行することはあるのでしょうか。あるとすれば、どのような危険があるのか。感染症専門医の堀野先生にお伺いしました。
※この記事は、2020年10月6日時点の取材データをもとに作成しております。
監修医師:
堀野 哲也(東京慈恵会医科大学附属病院感染症科 診療医長、日本感染症学会感染症専門医)
編集部
新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行の危険性が訴えられていますが、具体的に何が危険なのでしょう?
堀野先生
昨シーズン、インフルエンザの累計患者数は725万人と少なかったものの、インフルエンザの流行時期には2000万から3000万件のインフルエンザ検査が実施され、毎年1000万人前後の方がインフルエンザと診断されています。例年と同じようにインフルエンザが流行すれば、多くのインフルエンザ患者の中に新型コロナウイルス感染症の患者がいるかもしれないという状況になることが予想されます。発熱や呼吸器症状のあるすべての方に新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの検査が必要となれば、現在の新型コロナウイルス感染症に対して整備された施設数だけでは対応できず、必要な診療を受けることができなくなることが危惧されます。
編集部
上記を解決するためには、どのような対策が必要でしょうか?
堀野先生
新型コロナウイルス感染症もインフルエンザも、適切な診療と感染対策が必要です。そのため、発熱や呼吸器症状のある方が受診、検査、入院できる施設を確保し、速やかに対応できるように動線を整備する必要があります。また、診療や検査時に着用する個人防護具や検査に必要な物品を準備することも必要になります。
編集部
それぞれの症状で共通点はどんなものがありますか?
堀野先生
どちらも呼吸器感染症ですので、発熱や咳嗽(がいそう)などの呼吸器症状が主な症状です。米国感染症学会(IDSA)が提示するそれぞれのガイドラインに記載されている症状を比較すると、発熱、悪寒、頭痛、咽頭痛(いんとうつう)、咳嗽、筋痛が共通する症状になります。その他にインフルエンザでは鼻汁、鼻閉、倦怠感、関節痛、腹痛、嘔吐、下痢、胸痛が挙げられていますが、これらの症状は新型コロナウイルス感染症でもみられる症状ですので、これらの症状があるからといって新型コロナウイルス感染症を否定することはできません。
編集部
また、それぞれ特有の症状についても教えてください。
堀野先生
新型コロナウイルス感染症と診断された方とインフルエンザと診断された方を比較した報告では、インフルエンザと診断された方では喀痰(かくたん)、胸痛、嘔吐が多いことが報告されています。また、新型コロナウイルス感染症と診断された方と診断されなかった方を比較した報告では、味覚障害、もしくは嗅覚障害があると新型コロナウイルス感染症である可能性が高く、咽頭痛があると新型コロナウイルス感染症である可能性が低いことが報告されています。このような傾向は報告されていますが、いずれの症状もさまざまな呼吸器感染症でみられますので、症状から判別することは難しいと思います。
編集部
新型コロナウイルスとインフルエンザが併発することはあるのですか?
堀野先生
あります。武漢の病院で新型コロナウイルス感染症と診断され、退院した方を対象とした報告では、93人中46人(49.5%)の方がインフルエンザにも感染していたことが報告されています。感染率は報告によってばらつきがあり、それぞれの流行状況に影響されるのだと思います。また、インフルエンザだけでなく、小児や高齢者でのアウトブレイクの原因となるRSウイルスやヒトメタニューモウイルスとの重複感染も報告されています。
編集部
新型コロナウイルスかインフルエンザが疑われた場合、私たちはどうすればいいのですか?
堀野先生
まずは、流行状況を確認する必要があります。日本感染症学会が提示しているように、14日以内にその地域で新型コロナウイルス感染症の発生がなく、患者自身に陽性者の報告があった地域への移動がなければ、新型コロナウイルス感染症の検査は原則必要ないと考えられます。一方、新型コロナウイルス感染症とインフルエンザが流行している地域では、インフルエンザと診断された本人への治療開始、必要に応じてインフルエンザと診断された方の家族や接触者に予防投与を提案できることなどから、インフルエンザの検査は必要ですし、迅速な新型コロナウイルス感染症の検査は直接本人の治療には結びつかないものの、速やかな濃厚接触者への対応が感染拡大の防止につながるため、必要になると思います。
編集部
両方の流行がある地域では両方の検査が必要になると?
堀野先生
その通りです。ただし、例年と同じように流行すれば、インフルエンザの方が圧倒的に多いですし、抗インフルエンザ薬は発症から48時間以内に服用することが推奨されておりますので、新型コロナウイルス感染症の検査体制が対応しきれない状況では、まず、インフルエンザの検査をして陽性であればインフルエンザの治療を優先するという方法もあろうかと思います。最近では、インフルエンザと新型コロナウイルス感染症を同時に検査できるキットも開発されておりますので、このようなキットがどれくらい正確か、また、どれくらい流通するかによっても変わってくると思います。
編集部
新型コロナウイルスとインフルエンザの同時流行に備えて、国ではどのような対策を考えているのですか?
堀野先生
現在、発熱のある方は「帰国者・接触者相談センター」に相談し、指定の医療機関への受診を指示され、受診することが多いと思います。しかし、インフルエンザの流行が始まれば、相談件数の増加によって対応が困難となり、受診する必要のある方が速やかに受診できなくなってしまいます。そこで、国は、発熱患者などの診療または検査を行う「診療・検査医療機関(仮称)」を設置すること、また、医療設備の構造上、あるいは、がんセンターや透析施設、産科医療機関などのように、かかりつけ患者であっても発熱者を受け入れることができない医療機関は、「診療・検査医療機関(仮称)」を紹介するシステムを構築するよう推奨しています。
編集部
上記の対策をする利点を教えてください。
堀野先生
「診療・検査医療機関(仮称)」の設置により、発熱などのある方がどこに相談し、どこに受診すれば良いかわかりやすくなり、速やかに適切な診療や検査を受けることができるようになります。また、「帰国者・接触者相談センター」では、すべての発熱者の相談を受けるという業務が解消し、今後は急に症状が悪化した方や相談する先を迷っている方からの相談を受けることができます。さらに、保健所や新型コロナウイルス感染症の検査、診療、あるいは入院を受け入れる施設と受け入れることができない施設との役割が明確となり、それぞれの役割に専念することができるようになります。しかし、「診療・検査医療機関(仮称)」にどのくらいの負担がかかるのかわかりませんので、さまざまな調整が必要だと思います。
編集部
最後に、読者へのメッセージがあれば。
堀野先生
インフルエンザだけでなく、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスなどの呼吸器感染症の原因となるウイルスとの重複感染が報告されていますが、これらの感染症はいずれも新型コロナウイルス感染症と同じ飛沫感染と接触感染が主な感染経路です。現在取り組んでいるマスクの着用や手指衛生を続けることで、新型コロナウイルス感染症だけでなく、インフルエンザを含む他のウイルス感染症を予防することが期待されます。また、新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの接種にはもう少し時間がかかりそうですが、インフルエンザワクチンは今年も準備されていますので、接種することをお勧めします。