【漫画付き】薬が効かない胃炎、「機能性ディスペプシア」を医師が解説
検査などで調べても炎症などの異常が認められない。それなのに、胸焼けや胃のもたれ、痛み、吐き気などが続く・・・。いま、若い世代を中心に、原因の特定できない胃腸の変調が増えているらしい。かつては「ストレス性の胃炎」などと診断されることもあったこの病気、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)について、厚木胃腸科医院の院長、寒河江三太郎医師からお話を伺った。
監修医師:
寒河江 三太郎(厚木胃腸科医院 院長)
「症状」はあるのに「原因」が見つからない
編集部
「機能性ディスペプシア」というのは聞き慣れない病名ですが、いったいどんな病気なんでしょうか?
寒河江先生
胃の痛みや胸焼けなどの自覚症状はあるのに、それを説明できる原因となる炎症などが見受けられない。そんな状態を、機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)と言います。胃の「機能」失調が現実問題として起こっているため、「機能性」という文字を付けています。「ディスペプシア」とは、消化不良を意味するギリシャ語が語源となっています。
編集部
胃炎じゃないのに胃の調子が悪いということですね?
寒河江先生
簡単に言うと、そうなります。ただ、「胃炎や胃がんなどの器質的疾患が原因じゃない」と診断を付けるには、胃カメラなどの精密検査が欠かせません。胃の中を直接見ないと単なる「胃炎」と思われ、胃薬を処方される場合もあるでしょう。
編集部
機能性ディスペプシアが疑われる患者さんは多いのでしょうか?
寒河江先生
最近、若い方を中心に増えてきています。日本消化器病学会ガイドラインでも、何かしらの胃の不調を訴えて来院した患者さんのうち、検査で原因が特定できなかった方の割合は、「45%から53%」となっています。
編集部
そんなに多い病気なのに、なぜ一般的に知られていないのでしょう?
寒河江先生
機能性ディスペプシアは、最近になって新しく定義された病名だからです。これまでそのような状態は、「慢性胃炎」や「ストレス性胃炎」などと診断されてきました。しかし近年、内視鏡検査の機材や技術の発達により、異常の認められない機能失調が報告されてきたのです。これに呼応する形で、機能性ディスペプシアと診断するようになりました。
編集部
どうして原因が見当たらないのに、胃の不快感や痛みなどの症状が出るのでしょう?
寒河江先生
おそらく、ストレスや不規則な生活などがきっかけで胃腸の働きが低下し、諸症状の原因となっているのでしょう。具体的には、良く消化できなかったり、胃から腸へ押し流す力が弱まったりします。また、腸の内側の感覚が過敏になることもあります。
また、機能性ディスペプシアの原因のうち約4割は、ピロリ菌が関係しているといわれています。ピロリ菌とは、胃腸の中でいろいろな悪さをする細菌のことです。
機能性ディスペプシアは胃炎薬以外の対応が必要
編集部
機能性ディスペプシアの症状について、もう少し詳しく教えてください
寒河江先生
具体的には、胃痛、胸焼け、吐き気などのほか、飲み込みづらさ、食後のもたれ、少しの食事で感じる満腹なども含まれ、実に多彩です。下記の表が、機能性ディスペプシアの代表的な機能低下とそれによる諸症状になります。
機能低下 | 症状の例 |
---|---|
消化不良 | 胃がもたれる、吐き気を感じる |
腸へ押し出す力の低下 | 少しの食事でもおなかがいっぱいに感じる |
感覚過敏 | 胃や下腹部が痛い |
編集部
年齢や性別などの偏りはありますか?
寒河江先生
40代以前の若年者に多く見受けられますが、年齢や性別などの属性よりも、ストレスや過食、不規則な食生活、喫煙、過度なアルコール摂取などが引き金になっているのではないでしょうか。その他の傾向としては、ピロリ菌感染者に顕著なようです。
編集部
有効な治療方法はあるのでしょうか、また、何をゴールにするのでしょう?
寒河江先生
有効な治療方法としては、内服薬の処方ですね。先ほどお話した「消化不良」「腸へ押し出す力の低下」「感覚過敏」によって、使い分けていきます。また、ストレスが考えられる場合、抗うつ剤などを検討することもあります。こうした処方によって症状を緩和していくことが治療のゴールですね。
編集部
炎症のような原因が特定できないことに対して、患者さんの理解は得られているのでしょうか?
寒河江先生
吐き気やもたれなどの症状が抑えられれば、ある程度の満足を得られるようです。苦しみやつらい思いもストレスの一種ですし、まず、そこから開放して差し上げることが大切でしょう。
編集部
治療以外のアドバイスがあったらお願いします
寒河江先生
生活習慣指導や食事療法も行っています。これらはともに、日本消化器病学会ガイドラインで有効と位置づけられています。
胃の不調を持病や体質と思い込まない、積極的な受診・治療のススメ
編集部
炎症などがないのに症状があるということは、気持ちの問題なのでしょうか?
寒河江先生
経験則からすると、3割くらいの患者さんは、胃腸薬を処方しても症状が改善しません。このような場合、胃腸という臓器に対してではなく、精神科的なアプローチが求められます。つまり、抗うつ薬などの処方です。
編集部
機能性ディスペプシアに漢方は有効なのでしょうか?
寒河江先生
当院の場合、補助として、漢方を用いる場合もあります。ただし、効果をすぐに期待したいのであれば、西洋医学のお薬がメインとなるでしょう。
編集部
最後に、注意点やメッセージなどがあれば
寒河江先生
機能性ディスペプシアだと思い込んでいても、背後に別の病気が隠れているかもしれません。例えば、すい臓や胆のうといった周辺器官の異常です。これらは、胃の検査だけでは見えてきません。症状の起きている場所と、原因が潜んでいる場所は、必ずしも“一致しない”のです。ぜひ、専門医院で、精密かつ適切な検査を受けてみてください。
編集部まとめ
「胃の具合が悪いからといって、必ずしも、胃に炎症などの病気があるわけではない」。この発見は、驚きでしたね。
内科で胃炎の薬を処方されたけれど、なかなか症状が改善しないという方は一度、胃の内視鏡検査を受けられてみてはいかがでしょうか。今は機材や技術の進歩もあり、ほとんど苦痛なく受けられる施設も多くなっているそうですよ。
同時にピロリ菌の有無も調べてもらえば、胃がんなどの将来リスクも減らせますので、一石二鳥ですね。
医院情報
所在地 | 神奈川県厚木市妻田南1-16-36 |
アクセス | 本厚木駅 北口1番乗り場から約7分「木売場(きうりば)」下車すぐ |
診療科目 | 内科・消化器科・内視鏡検査 |