一型糖尿病の症状は?二型との違いや治療方法も解説
一般に糖尿病とは、生活習慣が多く関与し、高齢者が発症する病気のイメージがありますが、それは二型糖尿病といわれるものです。
糖尿病の中には、若い方を中心に幅広い年代に多く、インスリンを出す細胞が壊れることによって引き起こされる一型糖尿病があります。一型糖尿病は、膵臓の細胞が破壊されて発症する病気であり、二型糖尿病とは全く異なるものですが、世間的に認知されていません。
今回は、そんな一型糖尿病について症状・種類・治療法をまとめました。糖尿病の知識をつけたい方は参考にしてください。
監修医師:
中路 幸之助(医療法人愛晋会中江病院内視鏡治療センター)
目次 -INDEX-
一型糖尿病の症状
一型糖尿病は膵臓のβ細胞の破壊により発症します。つまり、インスリンがほとんどあるいは全く出なくなり、慢性的に高血糖状態に陥る糖尿病です。そのため、インスリン注射の治療が絶対的に必要となります。
小児を中心に発症し、10歳前後の思春期がピークとなりますが、大人でも発症することがあります。
一型糖尿病の90%は、本来自分を守るために働く免疫機能が間違ってβ細胞を破壊してしまうことによる自己免疫疾患であり、残りの10%は原因不明の特発性です。
このように一般的に周知されている二型糖尿病と全く異なる一型糖尿病ですが、その症状にはどのようなものがあるのか詳しく解説していきます。
のどの渇き
糖尿病に罹患すると、血液内に大量のブドウ糖が流れます。血液中のブドウ糖はインスリンの作用によって、細胞に取りこまれてエネルギー源になります。
しかし糖尿病の場合、インスリンが不足しているため血液中に残ったままです。そのため、高血糖状態に陥ります。高血糖の血液は浸透圧が高くなるため、周りから水分を集めようとして、脱水状態に陥ります。
その他、ブドウ糖が細胞に取り込まれないために起こる問題は、エネルギー不足です。ブドウ糖の代わりとして、脂肪がエネルギー源に選ばれます。脂肪が分解されると、血液は酸性に傾くため、やはり脱水状態になります。
のどの渇きを感じるのは、高血糖により身体が脱水状態にあるためです。
水の多飲
高血糖状態にあると、のどの渇きをおぼえます。そのため、水の多飲に繋がります。のどの渇きと多飲はお互いに深く関連しています。
多尿・頻尿
高血糖状態のため、のどが渇き、水を大量に飲むと、当然ながら多尿・頻尿をひき起こします。
また、血管内にブドウ糖が大量にあるため、身体は何とかして余分なブドウ糖を外に排出しようとします。尿量が増え、尿糖が検出されるのはそのためです。
尿量が増えると、更に脱水が増えてのどが渇きます。高血糖は、のどの渇き→水の多飲→多尿→のどの渇きといった無限のループを生み出すのです。
体重減少
インスリン不足によって、ブドウ糖がエネルギーとして使えないため、次に選ばれるのは脂肪・筋肉です。
いつもと同じ食事量・運動量であっても、今まで蓄えられていた脂肪・筋肉がエネルギーとして利用されるため不自然に体重が減ります。
全身のだるさ
糖尿病はエネルギー不足を生み出すため、当然ながら疲れ・だるさが出現します。ブドウ糖の代わりに栄養源になっている筋力が低下すれば疲れ・だるさは更に増すことでしょう。
また、多尿により、夜間も頻回にトイレへ行く必要があるため、寝不足になれば単純に疲れます。
このように、糖尿病の症状は悪循環を生み出すといえます。
一型糖尿病の種類
一型糖尿病は、進行性であり、進行すればするほどインスリンが出なくなります。インスリンが全く出なくなれば、生きていくためにインスリン注射が絶対的に必要不可欠です。
外からのインスリン注射が必要不可欠になる状態を「インスリン依存状態」と呼びます。一型用尿病は、インスリン依存状態に陥るまでの進行スピードによって、3つに分類されます。
劇症
インスリン依存状態に陥るまで1週間と、非常に期間が短いです。早い段階で診断を行い、すぐにインスリンを補わなければ、ケトアシドーシスと呼ばれる危険な状態になります。
典型的な経過として、多くは風邪症状・消化器症状から始まりますが、数日で口喝・多飲・多尿などの高血糖症状が出現します。
自己抗体が多くの場合は陰性・ピークは30~40代であることが特徴です。ほかの一型糖尿病と特徴が全く異なる非常に珍しいタイプです。
今までに経験したことのないのどの渇きを感じたり、1時間に1回排尿をするようになったりした場合はすぐに受診するのをおすすめします。
急性発症
典型的なタイプです。小児に多く、思春期にピークを迎えます。血液検査では、9割が自己抗体陽性となり、3ヶ月以内にインスリン依存状態に陥ります。残りの1割は特発性です。
インスリンが枯渇するわけではないので、インスリン療法をどのタイミングで取り入れるかが非常に重要ですが、いずれはインスリン依存状態になります。
しかし、インスリン療法を取り入れてから、症状が軽快したため、インスリン療法を中断することがあります。残っていた自己のインスリン分泌能力が、一時的に回復するためです。
この時期はハネムーン期とよばれ、急性発症全体の30%に出現するといわれます。
一型糖尿病は進行性であるため、ハネムーン期はあくまで一時的です。やがて自己のインスリン分泌能力が枯渇すると、再びインスリン注射が必要となり、最終的にはインスリン依存状態になります。
緩徐進行
インスリン依存状態になるまで、半年~数年とゆっくり進行します。高血糖症状が出現して、危険な状態に陥ることが少ないため、二型糖尿病と判別しにくいです。
二型糖尿病として治療を行っている際に、血液検査によって自己抗体が陽性のため一型であったと判明することもあります。中高齢での発症が多いのも二型と思われる一因です。二型と勘違いされたまま治療が行われている事例も現在進行形であるため正確な患者数はわかっていません。
残存しているインスリン分泌能力を考慮して治療が行われますが、進行をとめる治療法は確率されていないため、いずれはインスリン依存状態となります。
一型糖尿病と二型糖尿病の違いはある?
一型糖尿病と二型糖尿病は発症の原因が全く異なります。原因が違うため、治療法も異なります。
一型糖尿病は膵臓のインスリンを生産する細胞が、自己免疫によって壊されるため自己免疫疾患、または自己抗体が関与しない特発性に分類されます。
一型糖尿病の代表的な症状は以下です。
- 多尿・多飲・のどの渇き
- 体重減少
- 疲れ・だるさ
対して、二型糖尿病は食習慣の悪化・運動不足などの生活習慣が深く関与しており、高齢者に多いです。日本人の糖尿病患者の約95%は二型糖尿病にあたり、生活習慣病に分類されます。
二型糖尿病は初期では自覚症状がないのが特徴です。そのため、発症していることに気づかないまま進行し、悪化してしまう可能性があります。悪化すると、多飲・のどの渇き・体重減少・疲れといった症状が現れます。
一型糖尿病を発症しやすい人の特徴
一型糖尿病は膵臓のβ細胞が破壊される病気であり、糖尿病患者の5~10%を占めます。小児に多いですが、中高齢にも発症はあります。
リスク因子は、年齢・性別・人種・遺伝といわれていますが、正確な原因は分かっていません。そもそも、一型か二型かのどちらに分類されるかわからない場合もあるのです。
現在、わかっていることは以下になります。
- 発症のピークは10~14歳の思春期である
- 男女では女性の方が多い
- 世界的には欧米諸国の発症率が高い
- 遺伝の影響は否定できない
まだまだ研究段階にある疾患であり、症状が出やすい人ははっきりしていません。
一型糖尿病の症状を抑える治療方法
医療の進歩により、一型糖尿病に対しての治療法も大きく改善されています。複数の治療法から自分に合った方法を選択できるようになりました。
しかしながら、インスリンの絶対的不足から発症する病気であるため、インスリン注射は必要です。その点に関しては変わりがないため、未だ根本的な解決には至っていないのが現状です。
インスリンを使用する治療法と、対処療法について解説していきます。
インスリン療法
1型糖尿病は、インスリンが欠乏する病気であるため、インスリンを外から補うことが生命を維持するために必要不可欠です。
インスリンを外から補う方法として、経口・経皮・吸入が研究されていますが、日本ではまだ認められておらず、注射薬のみです。血糖値を下げる内服薬・血糖測定を併用して、インスリン注射を行います。
糖尿病でない場合、インスリンは1日を通して分泌される「基礎分泌」と食べ物を摂取して血糖値が上がったときに分泌される「追加分泌」に分かれています。糖尿病の方の場合、この基礎分泌・追加分泌の両方をインスリン注射で補う、「強化インスリン療法」が基本です。
インスリン注射製剤には、持続型溶解・配合溶解型・中間型・速効型・超速効型に分かれています。個人の症状に合わせて、1日1回注射する持続型と食前に注射する速攻型を組み合わせて使用するのが大切です。
カーボカウント
カーボカウントとは、食事中に含まれる炭水化物を計算することです。炭水化物は糖質と食物繊維にわかれます。食後血糖の9割は、糖質の摂取量と種類が影響しているため、正確には糖質を計算します。糖質をどのくらい摂取すると、どのくらい血糖値が上がるのかを知ることは、治療において大変有効です。
まずは、食事中の糖質の量を一定にして、必要なインスリンの量を固定することで、血糖値の安定を図ります。どの食品にどのくらいの糖質が含まれているかを把握するのも、目的の1つです。これを基礎カーボカウントといいます。
基礎カーボカウントに慣れて、糖質を多く含む食品についての知識が深まれば、応用カーボカウントに移行できます。糖質の量に合わせてインスリンの量をコントロールする方法です。
応用カーボカウントを習得すると、給食のおかわりをしたい・上司にご馳走になるから残せない・風邪をひいて食欲がないといった決まった糖質量を摂取できない場面でも安心です。
しかし、食生活の乱れ・体重増加・インスリン欠乏によるケトアシドーシスなどのデメリットもあるため、専門家からの指導を受けましょう。
インスリンポンプ
インスリンポンプは、インスリンを持続的に注入する小型のポンプです。針を数日に1回交換すれば、簡単なボタン操作でインスリンの量・タイミングを調整できます。携帯電話くらいの大きさなので、人目を気にすることなく状態に合わせて必要な量を注入できるのもメリットです。
1日に必要なインスリン量のうち、30%にあたる基礎インスリンは24時間かけて少量ずつ注入され、残りの70%にあたる追加インスリンは、食事前に自分でポンプのボタンを押して注入します。
外出時・急な外食など、自分のライフスタイルに応じて注入できるのが魅力ですが、万が一機械が故障しているまま、数時間気づかないと危険です。基礎インスリンが故障に気がつくまでの間、注入できていないからです。
インスリンポンプを導入する際は、専門家のサポートを受けて十分に理解することが重要といえます。
食事療法
基本的に食べてはいけない物はありません。食事の量・内容・タイミングに合わせてインスリンの量・種類を決める必要があるため、医師・栄養士にライフスタイル・食習慣を相談しましょう。ただし、肥満の方は適正体重に近づく努力が必要です。
また、一型糖尿病は小児・思春期に多い病気です。小児・思春期では、園・学校生活を送るため、ライフスタイルは一定ですが運動量・食事量が変化します。思春期はホルモンの関係で、血糖変動が多くあります。低血糖に注意して、ポケットにブドウ糖を常備しておくなどの工夫が必要です。
食べられない物はありませんが、バランスの良い食事を行い、大きな血糖変動は避けましょう。
運動療法
運動は血糖値を下げる作用があるため、一型糖尿病の治療の1つとして有効です。運動によって体重を適切に保てれば、インスリンの量をコントロールしやすくインスリンの効果も高まるため、血糖値が安定します。筋肉トレーニングによって、筋肉量を増やすことも、インスリンの効果を高めます。
ただし、空腹時血糖値が250mg/dL以上であったり、尿のケトン体が陽性であったりすると、逆に血糖値が高まり危険です。運動前には、血糖測定や可能であれば尿のケトン体を確認しましょう。
また、運動によって血糖値が下がりすぎる低血糖のリスクもあります。運動をすると、血流が良くなり、エネルギーが多く消費されるからです。運動時間が長くなる際は、捕食をして低血糖を予防しましょう。
食後1~2時間後に、ややきついと感じる運動を30分程度行うのが理想的です。
一型糖尿病の予後
一型・二型に限らず、糖尿病は合併症を引き起こしやすい病気です。糖尿病によって、生命を脅かす合併症を発症すると、その後の生命予後が左右されます。
治療の目的は、血糖値コントロールを行って、合併症を防ぐことも1つです。一型糖尿病は、まだ原因も治療法も研究段階にありますが、血糖コントロールを良好に行えば、今後も長く日常生活を送ることができるでしょう。
編集部まとめ
一型糖尿病は何らかの原因で、膵臓のβ細胞が破壊されてインスリンが欠乏していく進行性の病気です。進行性であるため、いずれはインスリンがなくなり、インスリン依存状態となります。
現在も研究は進んでおり、今後新たな治療法が確立されていくことでしょう。正しい知識をつけて、良好な血糖コントロールを行ってください。
参考文献