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高血圧と糖尿病の関係|合併する理由や治療方法を解説

 公開日:2024/02/01
高血圧と糖尿病の関係|合併する理由や治療方法を解説

高血圧と糖尿病は密接に関係しています。

「糖尿病があると高血圧も有するのはなぜだろう?」、「高血圧と糖尿病を改善するためにはどのような方法があるのだろう?」このように思う人も多いのではないでしょうか。

この記事では高血圧と糖尿病が起こるメカニズムを始めとし、さまざまな発症要因だけでなく、食事療法や運動療法についても解説しています。

糖尿病や高血圧を持つ人、またそのご家族など、詳しく知りたい人はぜひ参考にしてください。

甲斐沼 孟

監修医師
甲斐沼 孟(上場企業産業医)

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大阪市立大学(現・大阪公立大学)医学部医学科卒業。大阪急性期・総合医療センター外科後期臨床研修医、大阪労災病院心臓血管外科後期臨床研修医、国立病院機構大阪医療センター心臓血管外科医員、大阪大学医学部附属病院心臓血管外科非常勤医師、大手前病院救急科医長。上場企業産業医。日本外科学会専門医、日本病院総合診療医学会認定医など。著書は「都市部二次救急1病院における高齢者救急医療の現状と今後の展望」「高齢化社会における大阪市中心部の二次救急1病院での救急医療の現状」「播種性血管内凝固症候群を合併した急性壊死性胆嚢炎に対してrTM投与および腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行し良好な経過を得た一例」など。

高血圧と糖尿病の関係

血圧測定018
高血圧と糖尿病には深い関係性があり、糖尿病を有する患者さんは高頻度に高血圧を合併します。
糖尿病と高血圧はいずれも代表的な生活習慣病である・疾病に由来する自覚症状が乏しい・心血管疾患の危険因子であるなど、共通点が多いのが特徴です。

高血圧と糖尿病を合併しやすい理由

血糖測定器にチップを入れる手元
高血圧と糖尿病を合併しやすい理由には具体的に以下の4つが挙げられます。
    

  • 肥満の人が多いため
  • 高血糖により循環血液量が増えるため
  • インスリン抵抗性があるため
  • 糖尿病性腎症により高血圧になることもあるため

それぞれについて下記で詳しく解説します。

肥満の人が多いため

お腹周りをメジャーで測る男性
肥満度が高いほど、糖尿病の有病率が高いことや、肥満者は正常体重者と比べて約2~3倍多く高血圧症にかかることが明らかとなっています。
さらに肥満の場合は過食によって塩分を摂りすぎることから、体内にナトリウムが過剰に溜まるだけでなく、肥満によってインスリンが過剰に分泌されます。
肥満により高血圧が起こるメカニズムは以下の通りです。
肥満を原因に分泌過多となる「インスリン」によって、腎尿細管でのナトリウム再吸収が起こり血液中のナトリウムが増加します。
血液中のナトリウムの増加は血管内の水分量も増やし、全体の血液量が増えることで血圧が上昇します。
また肥満者は、過食や過剰に分泌されたインスリンにより交感神経が刺激され、血液中に末梢血管を収縮させる働きを持つ「カテコールアミン」が放出されやすいのも特徴です。
加えて肥大した脂肪細胞から分泌される「アンギオテンシノーゲン」は、生理活性物質のひとつであり血管を収縮させます。
このカテコールアミンやアンギオテンシノーゲンの働きも、血圧上昇を引き起こす原因です。
さらに内臓に脂肪が溜まる「内臓脂肪型肥満」の場合、内臓脂肪が血液量を増加させ、全身の末梢血管が圧迫されることで血圧が上昇します。
高インスリン血症を引き起こす肥満は、心拍出量を増加させて血圧上昇となるだけでなく、体脂肪によって圧迫された細い血管を血液が通る際に心臓に大きな負荷がかかることで高血圧を引き起こします。
このように肥満は高血圧や糖尿病と深く関係しており、肥満によって起こる高血圧のメカニズムも様々です。

高血糖により循環血液量が増えるため

高インスリン血症や高血糖の場合、腎臓からのナトリウム再吸収を促進させることで循環血液量も増加するため、糖尿病患者では循環血液量が増大します。
循環血液量の増加に伴い血圧も上昇します。

インスリン抵抗性があるため

糖尿病患者が高血圧を発症するメカニズムとして、インスリンの効き具合を示す「インスリン抵抗性」が深く関係しています。
高血圧患者の半数でインスリン抵抗性が認められており、このインスリン抵抗性は糖尿病患者にも必ず存在し、インスリン抵抗性は高インスリン血症を引き起こします。
高インスリン血症は、血管平滑筋細胞内のナトリウムやカルシウムの濃度を上昇させることで交感神経活性を亢進させるのが特徴です。
さらに血管平滑筋を刺激することで血圧調節機構のレニン・アンジオテンシン系も亢進します。
これらのメカニズムから、末梢血管抵抗が増大して高血圧となるのが明らかであり、インスリン抵抗性が、糖尿病と高血圧に深く関係しています。

糖尿病性腎症により高血圧になることも

糖尿病性腎症は糖尿病三大合併症のひとつであり、「微量アルブミン尿」の出現で診断され、尿アルブミン値と腎機能を示すGFR値が評価項目です。
この糖尿病性腎症は、糖尿病による腎障害のひとつであり、腎機能の低下により高血圧を引き起こします。
通常、腎臓は体内の余分な塩分や水分を調節することによって、適切な血圧を維持しています。しかし糖尿病性腎症の場合、腎臓が正常に機能しなくなることで余分な塩分や水分が体内に溜まり、高血圧の原因となるのです。
さらに糖尿病性腎症の影響により、体内の「アンジオテンシン」と呼ばれる血圧調節機構に関わる物質の分泌量が増加し、血管が収縮して高血圧を引き起こします。
このように糖尿病性腎症により高血圧を引き起こす可能性があります。

高血圧と糖尿病が合併する危険性

胸が苦しい女性
高血圧と糖尿病が合併すると、心筋梗塞や脳梗塞を発症しやすくなるだけでなく、それによる死亡率も高くなるなど危険性が高くなります。
以下ではその根拠や原因について解説します。

心筋梗塞や脳卒中を発症しやすくなる

心電図と聴診器
糖尿病患者が高血圧を合併すると、重要臓器が障害を受ける危険性が高まり心筋梗塞や脳卒中を発症しやすくなります。
また、糖尿病患者での虚血性心疾患の発症率は、虚血性心疾患の既往のある患者さんと同様であることがわかっています。

心筋梗塞や脳卒中などによる死亡率が高くなる

糖尿病の保有者は、心筋梗塞や脳卒中による死亡率も高いのが特徴です。
糖尿病による神経障害が進行している場合、無痛性の心筋梗塞も増え、早期発見につながりにくく致死に至りやすくなります。
また心筋梗塞や脳卒中は一度発症すると重症化しやすく、致死的となる可能性が高いだけでなく、糖尿病性腎症の合併により死亡リスクがより一層高まることが明らかとなっています。

高血圧と糖尿病の食事による治療方法

野菜
高血圧と糖尿病の治療には生活習慣の是正が重要であり、食事療法が用いられます。
糖尿病患者への食事療法では、多様化する食に対する価値観・食品・食習慣・食環境に柔軟に対応しながら患者さんの病態に合わせて、医師や管理栄養士とともに実施されます。
また具体的には、バランスの良い食事をとること・分量を1日6g未満に抑えること・食べ過ぎや飲み過ぎに注意すること・飽和脂肪酸を控えめにすること・ゆっくりとよく噛んで食べることが重要だとされています。
それぞれのポイントについて以下で詳しくみていきましょう。

バランスの良い食事を摂る

日本人の食習慣は1日の総エネルギー摂取量は減少傾向を示している一方で、動物性脂肪摂取の増加傾向がみられており、エネルギーの配分では糖質の比率の減少と脂質の比率の増加がみられています。
このような近年の食生活が糖尿病発症に影響しているため、食事摂取量や質ともにバランスのとれた食事を心がけることが大切です。
また「炭水化物のみを極端に制限して減量を図る」などのバランスに欠いた食事は、食事療法による効果を十分に得られません。
さらに、長期的な食事療法としての遵守性や安全性面に対するエビデンスが不足しているため、現時点では薦められていません。
食事摂取時は炭水化物・たんぱく質・脂質の三大栄養素だけでなく、食物繊維の摂取も考慮し、バランスの良い食事を摂りましょう。

塩分量を1日6g未満に抑える

塩
糖尿病患者の高血圧では塩分の影響を受けやすい「食塩感受性」が亢進していることが多いため、降圧のためには減塩が重要となります。
そのため、高血圧合併例での糖尿病患者は食塩制限が設けられており、1日6g未満と定められています。

食べ過ぎ・飲み過ぎに注意する

食事や飲み物の過剰摂取により、血糖値が急激に上昇するおそれがあるため、糖尿病患者は食べ過ぎや飲みすぎに注意が必要です。
糖尿病における三大栄養素の推奨摂取比率は一般的に炭水化物を50~60%エネルギー(150g/日以上)、たんぱく質を20%エネルギー以下を目安とし、残りを脂質と定められています。
特に糖分や炭水化物の多い食事には注意が必要であり、食事の量や種類を調整した血糖値のコントロールが重要です。
また、アルコールの摂取にも注意が必要です。アルコールには血糖値を下げる効果があるため一見糖尿病患者にとっては良いように思えますが、飲みすぎによって血糖値が異常に下がる場合があり、低血糖症状を引き起こす可能性があります。
そのため医師の指示に従い、アルコールの摂取量を適切に制限する必要があります。
糖尿病患者は食べ過ぎや飲みすぎに注意しながら食事の量や質をコントロールすることが重要です。

飽和脂肪酸は控えめにする

脂質摂取量の上昇とともに糖尿病は増加しており、糖尿病が心血管疾患の大きな危険因子となっています。
そのため脂質摂取比率の上限は25%エネルギーとされていますが、脂肪酸構成にも十分な配慮が必要です。
脂肪酸のうち炭素同士の二重結合を持たない脂肪酸である「飽和脂肪酸」の摂取は控え、不飽和脂肪酸の摂取割合を増やすことが大切です。
 

ゆっくりとよく噛んで食べる

食事療法として、ゆっくりとよく噛んで食べることも大切であり、食行動の中の「咀嚼」に関して咀嚼能力が高い人の血糖コントロールは良好だとされています。
一方で、糖尿病患者は健常者よりも咀嚼能力が低いことや、食事摂取時の所要時間が短い人ほど糖尿病コントロール状況を示すHbA1cの数値が高いことが明らかとなっています。
それに対して「ゆっくりとよく噛んで食べる」などの咀嚼指導により満腹感は上昇するとわかっており、食事摂取速度を落として食事摂取時間を長くすることが、血糖コントロールに有効です。
咀嚼・食事摂取時間・食事摂取速度は血糖コントロールと深い関係があるため、食事摂取時は「早食い」をせず、時間をかけてゆっくり噛んで食べるように意識することが重要です。

高血圧と糖尿病の運動による治療方法

ジョギングをする男女
高血圧と糖尿病の改善には運動が有効です。
運動をすることによりブドウ糖や脂肪酸の利用が促進され、インスリンに頼らず糖分が細胞や筋肉の中に吸収されるようになり、血糖値の低下が期待できます。
また長期的にはインスリン抵抗性を改善し、血中のブドウ糖の量を良好にコントロールできるようになるため、運動は高血圧や糖尿病の改善に効果的です。
運動による治療方法に関するポイントについて、以下で詳しくみていきましょう。

有酸素運動を毎日30分行う

糖尿病改善のためには有酸素運動を毎日30分行うのが有効だとされています。
有酸素運動には具体的にウォーキング・ジョギング・水泳・水中ウォーキングなどがあり、運動の目安には以下の項目が挙げられます。

  • 50歳未満の場合は1分あたりの運動時心拍数が100~120拍、50歳以降の場合は1分あたりの運動時心拍数が100拍が目安
  • 「ややきつい」または「楽である」と感じる強度が目安
  • 1回20分以上が目安
  • 運動しない日が2日間以上続かないようにし、週に3回以上が目安
  • 週に150分以上を目標とする

これらが有酸素運動を行う上での目安です。
また運動実施時は以下のような注意点があります。

  • 治療中の場合は主治医と相談したうえで運動を実施する
  • 血糖コントロールが不安定な場合は、運動強度と運動時間を控えめにする
  • 運動は食後1時間頃が望ましいですが、特に制限が無い場合は自分自身の生活の中での実施可能な時間帯で行う
  • 歩数や運動時間の目標を立てたうえで運動を実施する
  • 冷や汗・動悸・手足の震え・頭痛などの低血糖症状に注意しながら、無理のない範囲で運動を実施する

有酸素運動を行う際にはこのような注意点に気を付けながら実施しましょう。

毎日が難しい場合は週に180分以上は運動する

毎日の運動が難しい場合には週に180分以上の運動が良いとされており、運動しない日が2日以上続かないようにすることがポイントです。
また運動療法の目標として運動の頻度は「できれば毎日」が望ましいですが、難しい場合には少なくとも週に3~5回、「ややきつい」と感じる中等度の全身を使った有酸素運動を行うことが理想です。

血圧コントロールには自宅での血圧測定が重要

血圧測定
時々刻々と変化する血圧。血圧をコントロールするためには自宅での血圧測定が重要となります。
特に起床後や就寝前などに安静とした座位の状態で2回測定することで、病院だけでの測定では分からない血圧の状態が明らかとなり、治療の決定や変更に役立ちます。
家庭での血圧測定時には以下のようなポイントに注意しましょう。

  • 家庭血圧測定器の使い方説明書をよく読み、正しい測定方法を覚える
  • 腕を枕や台に乗せて心臓と同じ高さにした上で、リラックスした状態で測定する
  • 血圧測定時は袖まくりをしない
  • 測定中は体を動かさない
  • 信頼性のある測定器を使用する

このような点に注意し自宅での血圧測定を行い、血圧コントロールに役立てることが大切です。

編集部まとめ

笑顔で対応する看護師
高血圧と糖尿病には深い関係性があることがわかりました。

また糖尿病は一度発症すると治癒することはなく、放置すると網膜症・腎症・神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明や透析治療が必要となることもあります。

高血圧と糖尿病は悪化する前に改善していくことが重要であり、そのためには食事療法や運動療法が効果的です。

高血圧や糖尿病を持つ人やそのご家族は、ぜひ記事を参考にしてください。

この記事の監修医師