ホルモン剤の副作用は?ホルモン補充療法の効果・始めるタイミング・やめるタイミングも解説
更年期障害が起こる50代前後は女性にとって、体の変化だけでなく、ライフステージの変化にともない心の変化にも直面する時期です。
一方で、更年期障害の治療のためのホルモン補充療法を行うことで、身体が軽くなる感覚を覚えた、気持ちが明るくなり人生も明るくなったとの声も少なくありません。
ホルモン補充療法に対して、副作用の心配や、なんとなく抵抗があると感じている方もいるのではないでしょうか。
今回は、女性ホルモンのホルモン補充療法の副作用と効果を紹介します。ホルモン補充療法に対する不安感や疑問が少しでも解消されれば幸いです。
監修医師:
山下 真理子(医師)
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ホルモン補充療法に使用するホルモン剤には副作用はある?
ホルモン補充療法は、更年期になると減少してくる女性ホルモンであるエストロゲンを必要な分だけ補うことで、更年期障害を改善・予防するものです。
更年期障害にともなう身体的・精神的な症状を改善する一方で、副作用に不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
ホルモン補充療法は現れている症状や生活スタイルによって異なり、同じように副作用も種類・量・使用期間によって違います。
ほとんどの副作用は数ヵ月で治まっていくものですので心配はありませんが、ホルモン補充療法を検討している方のために、ホルモン剤による主な副作用を紹介します。
不正出血
ホルモン補充療法を開始すると、予定外の出血(不正出血)があることがあります。
ホルモン剤によりホルモンを調整するために起きる症状で、ストレスなどの環境の変化でホルモンバランスが崩れ不正出血が起きる現象と似ています。
身体が慣れ始めてくると、1ヵ月から3ヵ月で自然に治まりますが、不正出血が続く場合は、医師に相談しましょう。薬の量や投与方法を変えて調整します。
乳房の張り
乳房の張りが初期症状として起こることがあります。
しかし、一般的にはホルモン補充療法の開始から数ヵ月経過すると身体が慣れて治まっていくため、徐々に気にならなくなるでしょう。
下腹部の張り
ホルモン補充療法を行うと、乳房の張りだけでなく下腹部の張りや膨張感が続くことがあります。
しかし、こちらも数ヵ月経過すると身体が慣れて治まるため、心配する必要はほとんどないでしょう。
吐き気
ホルモン補充療法に低量用ピル(経口避妊薬)が使われる場合があります。
低量用ピルを飲み始めると、下腹部が張ることによって胃のむかつきや、吐き気が起こることがあります。
初期のみの症状であり、徐々に治まることがほとんどですが、長く続く場合は早めに病院に行きましょう。
低量用ピルの種類を変えたり、使用を停止したりしながら治療していきます。
頭痛
ホルモン補充療法によって、頭痛が現れる方もいます。
頭痛だけに関わらず、ホルモン剤の副作用には個人差があり同じ薬を使用していても症状の重さには幅があります。
治療を開始したら体調の変化に留意し、症状が重かったり長く続いたりする場合は、医師に相談しましょう。
それでも、副作用が心配な方は、副作用が少ないホルモン剤を使用しているクリニックを選ぶのがおすすめです。
ホルモン補充療法の効果は?
前項では、ホルモン補充療法の副作用を紹介しました。副作用がある一方で、ホルモン補充療法の効果は、デメリットを上回る程の効果が期待できるでしょう。
更年期障害の改善だけでなく、病気を防いで健康な骨や若々しい肌を維持することも効果があるとされています。
ホルモン補充療法は、更年期以降の女性が質の高い人生を過ごすためのサポートをしてくれるのです。
ホットフラッシュなど更年期症状の改善
更年期症状は以下の様なさまざまな症状が起こります。
- 自律神経失調症状(ホットフラッシュ・発汗 など)
- 精神神経症状(不安・不眠・イライラ など)
- 生殖器萎縮症状(性器萎縮・性交痛 など)
- 骨粗しょう症
- 心血管系症状
これらの症状が起こる原因は、エストロゲンの急激な減少によるものです。女性ホルモンのホルモン補充療法では、失われたエストロゲンを補充し、このような症状の改善が期待できます。
自律神経失調症状のうち、ホットフラッシュとは更年期障害の代表的な症状の一つです。急に顔面が赤くなる・異常な発汗などの症状が起こります。
こういった症状は、エストロゲンの急激な低下が自律神経を刺激し、血流の増加や皮膚温度の上昇をさせるために起こるものです。
また、この様な自律神経の症状が出てくると、精神神経の症状である倦怠感・不安・鬱が出てきます。
一方で、エストロゲンの欠乏で起こる生殖器の変化では、泌尿生殖器症状(萎縮性膣炎・尿疾患・性交痛)が挙げられます。
また、エストロゲンの減少は、生殖器だけでなく、高コレステロール血症(動脈硬化・高血圧)や心血管系症状(冠不全・脳卒中)・骨量の減少も起こしてゆくのです。
この様な症状は、ホルモン補充療法でエストロゲンの補充を行うことにより改善が期待できます。
それだけでなく、ホルモン補充療法はホットフラッシュに特に効果があるともいわれています。
不眠・膣乾燥感・記憶力低下・頻尿・精神神経症状・性器萎縮・性交痛にも有効な改善効果が認められていることも注目すべき点です。
人によって身体の状態や症状はさまざまであるため、その人に合ったホルモン補充療法が重要です。
骨粗しょう症の予防
ホルモン補充療法は骨粗しょう症の予防にも効果が期待できます。
骨は、古い骨が壊れ(骨吸収)て、新しい骨が作られること(骨形成)で、新陳代謝をして健康な骨を維持しています。
エストロゲンは骨吸収のスピードを緩やかにする役割を担っており、骨からカルシウムが失われるのを防いでいるホルモンです。
そのエストロゲンが急激に減ってしまうことで、骨吸収骨からカルシウムが溶け出す速度が加速してしまいます。
その結果、骨が脆くなるため、骨粗しょう症を引き起こしてしまうのです。
ホルモン補充療法は製剤の違いや投与量に関係なく、骨吸収を抑制して骨密度を上げる効果が期待できます。
骨粗しょう症の予防のための健康な骨の維持に効果的でしょう。
肌の若々しさを保つ
ホルモン補充療法は、更年期障害の改善だけでなく、肌のコラーゲンの量や厚みを増やす効があります。そのため、肌の若々しさを保つ効果が期待できるでしょう。
エストロゲンは、若々しい肌を維持するために必要な皮膚の厚み・コラーゲンの保持・保水効果にも関与しています。
閉経前後にエストロゲンが低下すると、皮膚でのエストロゲン受容体が減少し、コラーゲンが少なくなります。
それによって、皮膚の弾力性や保湿力の低下が起こり、しわ・たるみ・乾燥肌・創傷治療が遅くなるなどの状態が起こるのです。
ホルモン補充療法を行うことで、コラーゲン量・皮膚の厚みの増加が期待できるため、皮膚の厚みや保湿能力の改善することが多い傾向にあります。
近年の研究では、皮膚のきめ細やかさと弾力性の改善もあることがわかっています。
ホルモン補充療法が皮膚のエイジングケアが期待できますが、もちろん個人差があるので、顕著な効果が起こらない可能性もあることを念頭に置く必要があるでしょう。
ホルモン補充療法による皮膚組織のエイジングケアは、まだ多くが研究過程にあります。
効果を最大限に引き出すためには、医師と相談しながら、自分に合ったホルモン補充療法を行うことが大切です。
ホルモン補充療法(HRT)を始めるタイミングは?
ホルモン補充療法の開始時期は、骨粗しょう症や動脈硬化の症状が現れていない更年期前か閉経直後から60歳未満がよいでしょう。
この時期であれば、自らの体力で出していたホルモンが減少した分をホルモン補充療法で補う形で、自然に現状を維持して更年期障害の予防が可能です。
より開始が遅くなると、動脈硬化や高血圧などの疾患が発症するリスクが高まるため、別の疾患を引き起こすリスクがあります。
また、60歳以上の女性に対してホルモン補充療法を開始した場合、冠動脈疾患・静脈血栓塞栓症のリスクが高まるともいわれています。
このように、ホルモン補充療法は開始する時期によっては、病気を患うリスクを高める危険もあることは注意すべき点です。
一方で、治療開始には年齢制限はありません。閉経後から時間が経過していても、リスクとベネフィットを考えて、ベネフィットが上回る場合に治療を開始する選択肢もあります。
これらの状況を踏まえ、治療を開始する時期はできるだけ早めに開始し、不安がある場合は医師に相談しましょう。
ホルモン補充療法(HRT)をやめるタイミングは?
ホルモン補充療法の年齢制限はありませんが、治療時間が長ければ長い程、乳がんのリスクが高まると言われています。
ある研究データによると、ホルモン補充療法が5年未満であれば乳がんのリスクは認められなかったとあります。
ホルモン補充療法の効果が見込め、5年以降も治療を継続したい場合は、継続可能です。安全性の高い治療ができるよう、リスクが上がらない範囲内で薬の量を調整します。
1年に1度は治療目的とリスクについて、医師と相談をしましょう。自分の気持ちやリスク・ベネフィットを照らし合わせて、やめるか継続をするかどうかを判断しましょう。
代表的なホルモン剤の特徴
ホルモン補充療法で使われるホルモンは、エストロゲンだけではありません。続いて、代表的なホルモン剤の特徴を紹介します。
エストロゲン
エストロゲン(卵胞ホルモン)とは、卵巣から分泌されるホルモンです。乳房や丸みを帯びた体つきをつくり、肌の潤いを保つなど女性らしい身体をつくります。
また、生殖器の発達・子宮内膜の肥厚・月経・妊娠など、妊娠や出産の機能のための身体をつくるための役割もあります。
その他にも、乳房や生殖器などの女性特有な器官だけにとどまらず、血管・脳・皮膚・骨など、頭から足先までの体中に働きかけて健康を維持しているのです。
プロゲストロン
プロゲストロン(黄体ホルモン)もエストロゲンと同様に卵巣から分泌されるホルモンです。妊娠した状態を維持し、子どもを産み育てる環境を整える役割があるホルモンです。
エストロゲンによって増殖した子宮内膜をやわらかく維持し、受精卵が着床しやすいようにします。妊娠が成立したら、子宮に栄養をたくわえて妊娠を維持します。
このほか、体温を高める・腸の働きを抑える・食欲を増やす役割があり、身体のさまざまな部分で働くホルモンです。月経もエストロゲンと同様に、プロゲストロンの作用によって起こります。
サイロイド
サイロイド(甲状腺ホルモン)は、甲状腺から分泌され、新陳代謝を活発にする役割があるホルモンです。
全身の細胞代謝と成長に関わり、代謝を高めて体温調節をしています。また、脂肪分解を促し、コレステロール値を下げることによって心臓病や脳疾患も防ぎます。
ホルモン補充療法でサイロイドを補充して期待できる効果は、疲労感・免疫力の低下などの加齢にともなう症状の改善です。
その他、女性ホルモンと関係がある役割は、卵胞を成長させることです。卵胞はサイロイドによって成長させられ、この成長をきっかけにして子宮内膜が厚みを増して排卵が起こります。
サイロイドはエストロゲン・プロゲストロンと一緒に、卵巣・妊娠機能に関与しているのです。
編集部まとめ
ホルモン補充治療法の効果と副作用、始めるタイミング・やめるタイミングも紹介してきました。
更年期障害の改善やエイジングケアの効果が期待できる一方で、不正出血などの副作用もあります。
更年期障害の症状は、その方の取り巻く環境や心理状況によって千差万別であり、適切なホルモン補充療法も人それぞれです。
治療が始まった後も定期的に通院し、様子をみながら無理のない治療を続けることが大切です。
医師と相談しながら、自分に合ったホルモン補充療法を選択しましょう。