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HIV感染の兆候:症状や検査方法について解説

 公開日:2024/05/21
HIV感染の兆候:症状や検査方法について解説

HIVという病気をご存知ですか?HIVは「ヒト免疫不全ウイルス」(Human Immunodeficiency Virus) の略です。
このウイルスは、人の免疫システムを攻撃し、徐々に弱体化させることで、最終的にはエイズ(後天性免疫不全症候群)を引き起こす原因となります。
本記事ではHIVの症状や検査方法について以下の点を中心に詳しく解説します。

・HIVの感染経路
・HIVの症状
・HIVの検査

HIVについての知識を深め、予防に役立てていただければ幸いです。
ぜひ最後までお読みください。

村上 知彦

監修医師
村上 知彦(薬院ひ尿器科医院)

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長崎大学医学部医学科 卒業 / 九州大学 泌尿器科 臨床助教を経て現在は医療法人 薬院ひ尿器科医院 勤務 / 専門は泌尿器科

HIV・エイズとは

HIV・エイズとは
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)は、人間の免疫システムを直接攻撃するウイルスで、CD4陽性細胞と呼ばれるTリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞がターゲットとなります。
これらの細胞は体を病原体から守るために不可欠であり、HIVに感染するとその機能が徐々に失われていきます。

HIVによって免疫力が低下し、さまざまな合併症が進行した状態をエイズ(後天性免疫不全症候群)と呼びます。
エイズは、免疫システムが著しく弱体化した結果、通常は克服できるはずの病原体による病気になりやすくなります。
具体的には、定められた23の特定疾患の発症をもってエイズと診断されることが多いようです。

HIVの感染経路

HIVの感染経路
HIVはどのように感染するのでしょうか?
考えられる感染経路を以下に3つ解説します。

性行為による感染

HIV(ヒト免疫不全ウイルス)の感染経路の中で、性的接触による感染が特に多いとされています。
感染は、性的行為中に人体の粘膜や小さな傷からHIVを含む体液(精液や膣分泌液、血液など)が体内に侵入することで起こります。
男性と女性の両方がこの感染リスクに晒されています。

例えば、腸の粘膜は傷つきやすく、HIVが侵入しやすいため、男性同性間の性的接触においては、感染のリスクが高まりますが、感染リスクは異性間の性的接触でも同様に存在し、予防策を講じない限り、誰もが感染の危険にさらされているのが現状です。

血液を介した感染

HIV感染は、血液を介した接触により広がる可能性があります。
以下に、その主な経路と予防策について説明します。

輸血:
輸血は、HIV感染の一つの可能性を持つ経路です。
しかし、日本では、すべての献血血液に対して厳格なHIV検査が行われており、感染の危険性は低いとされています。
それでも、技術的な限界から、輸血による感染リスクを完全に排除することはできません。

注射器・注射針の共用:
麻薬や覚せい剤の使用者が注射器や注射針を共用すると、HIVだけでなく、C型肝炎などほかの感染症のリスクも高まります。

医療現場での事故:
医療従事者は、針刺し事故などによりHIV感染のリスクにさらされることがあります。
厳重な注射針の取り扱いと適切な廃棄が重要です。
また、万が一、HIV感染者の血液に暴露した場合には、2時間以内に抗HIV薬の予防内服を行うことで、感染の危険性を低下させることが可能とされています。

母子感染

HIV感染は、母親から子どもへの感染可能性があり、その主な経路は妊娠中や出産時、そして授乳とされています。
このリスクを軽減するためには妊娠期間中の適切な医療管理が重要となります。

HIVの症状

HIVの症状
HIVに感染するとどのような症状が出るのでしょうか?
早期発見のために段階ごとに解説します。

急性期

HIV感染の急性期では、特定の症状が現れることがあります。
症状は、感染後約2~4週間で通常発生し、インフルエンザに似た体調不良を引き起こすことが多いとされています。
具体的には、発熱、咽頭痛、筋肉痛などが挙げられます。
しかし、これらの症状は一時的で、多くの場合、自然に消えてしまいます。

また、感染初期にはHIVが体内で急速に増殖し、免疫システムの一部であるCD4陽性リンパ球が破壊されます。
この時期には、風邪やインフルエンザに似た症状や、筋肉痛、皮疹などが現れることもあります。

しかし、すべての感染者がこれらの症状を経験するわけではありません。
無症状の場合もあります。

無症候性キャリア期

HIV感染後の無症候性期間は、個人差があり、感染直後の急性期を経て、症状が現れない静かな時期が続きます。
この期間は数年から10年、場合によっては15年以上続くことがありますが、最近では2年程度でエイズに進行する例も報告されているということです。
この段階では、外見上の症状は見られず、HIV検査を受けない限り感染に気づくことは難しいとされています。

しかし、体内ではHIVが静かに増殖を続け、CD4陽性リンパ球数の減少によって徐々に免疫力が低下します。
免疫力が一定の閾値を下回ると、寝汗や持続する下痢、無理由の体重減少などの症状が現れ始め、帯状疱疹や口腔カンジダ症などの感染症にかかりやすくなります。

エイズ期

HIV感染が進行し、適切な治療を受けずにいると、体の免疫力は低下し、エイズ(後天性免疫不全症候群)の段階に至ります。
この状態では、通常は健康な人には影響を与えないような弱い病原体でも重篤な感染症を引き起こす可能性が高まります。

これらの感染症は「日和見感染症(ひよりみかんせんしょう)」と呼ばれ、例えばニューモシスチス肺炎や食道カンジダ症などが挙げられます。
さらに、免疫システムの低下は、悪性腫瘍や神経障害など、さまざまな健康問題のリスクを高めます。

HIV検査と相談

HIV検査と相談
HIVはどのような検査で発見できるのでしょうか?
さまざまな検査方法を紹介します。

電話相談

HIVに関する悩みや疑問は、保健所や各都道府県が運営するHIV/エイズ専門の電話相談サービスを利用することで、解決の手がかりを得られる可能性があります。
感染の可能性についての心配や予防方法に関する正確な情報が欲しい場合、相談窓口では、個人のプライバシーを厳守しながら、専門知識を持った相談員が対応します。
電話での相談は匿名で行えるため、不安や疑問を抱える方は気軽に利用できます。

保健所での相談

HIVに関する相談は、全国の保健所で受け付けています。
保健所では、HIV感染症に関する情報提供、予防方法、感染してしまった場合の対応についての相談、そしてHIVの匿名検査を実施しています。
相談は無料であり、個人のプライバシーが守られることが保証されているということです。

医療機関での検査

HIV感染の有無は検査を通じてのみ確認可能であり、特有の症状がないことが多いため自己判断は難しいです。
検査は血液サンプルによってHIV抗体の存在を調べる方法で行われ、抗体が見つかれば感染が疑われます。
検査には、約1週間~2週間で結果が出る通常検査と、基本的に当日中に結果が出る即日検査があります。

検査キットでも調べられる

HIV自己検査キットは、個人が自宅で簡易にHIV検査を行うためのツールです。
このキットにはランセットと呼ばれる採血器具が含まれており、利用者は指先から血液を採取して、特殊な採血用紙に滴下します。
その後、提供された返送用封筒を使用して検査機関に送付します。

使用される検査キットは、医療機器として正式に承認された高精度なもので、一回使い切りタイプであるため衛生的です。
検査結果は、匿名性が保たれた状態でインターネットを通じて確認可能です。
これにより、プライバシーに配慮しながら自分の状態を把握できます。

検査はECLIA法(電気化学発光免疫測定法)を用いた第4世代のスクリーニング検査によって行われます。
この方法では、HIV感染の早期発見が可能とされており、より正確な結果を期待できます。
自宅で手軽に、かつ信頼性の高い方法でHIV検査を行いたい方には、この検査キットが適しているでしょう。

HIVの治療

HIVの治療
現在のところ、HIVを完全に体外に排除する治療法は存在しませんが、進歩した抗HIV薬の利用により、ウイルスの増殖を抑制し、エイズの発症を避けることが可能とされています。
これによって、HIV感染者も健康な日常生活を送れ、平均寿命をほぼ通常と同等に延ばすことが期待できます。
HIV診断後は、速やかに抗HIV治療を開始することが推奨されています。

抗HIV治療には、核酸系逆転写酵素阻害剤、非核酸系逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤、インテグラーゼ阻害剤、侵入阻害剤など、複数の薬剤が使用されます。
治療では、これらの薬剤を組み合わせて用い、多くの場合、1日1回の投与で管理します。
一部の薬剤では、1錠内に3~4種類程の有効成分が含まれており、ウイルス量を検出限界以下に抑え、HIVの感染リスクを低減させます。

しかし、抗HIV薬を適切に服用し続けないと、ウイルスが薬剤に対して耐性を持つようになり、治療効果が低下する可能性があります。
一度治療を始めた場合、特別な事情がない限り、治療は中断せずに継続する必要があります。

HIVの予後と早期発見の重要性

HIVの予後と早期発見の重要性
HIV感染において、すべての人が同じように感染するわけではなく、また感染後の発症までの期間にも個人差があります。
感染しても長期間発症しない人がいる一方で、多くの感染者は治療を受けない場合、最終的にはエイズを発症します。
エイズへの進行速度は人によって異なり、感染初期は年間約1~2%の割合でエイズを発症しますが、時間が経過するにつれてその割合は増加し、感染から10年以内に約50%、それ以上の期間が経過するとほぼ全員がエイズを発症するリスクがあります。

特に、HIV感染者の約3割はエイズを発症してからHIV感染が判明すると報告されており、エイズ発症後の治療は効果が限定的です。
無症候期にHIV感染を早期に発見し、適切な時期に治療を開始することが、生活の質を維持し、長期的な健康を確保するためには重要です。
早期発見と治療の開始は、HIV感染者の予後を大きく改善させる鍵となるでしょう。

まとめ

まとめ
ここまでHIVの症状や感染経路について解説してきました。
内容をまとめると以下のとおりです。

・HIVは性行為、血液接触、母子感染で広がる可能性があり、正しい知識と予防法を実践することが感染防止の鍵である
・HIV感染は初期にインフルエンザの様な症状を示す急性期、無症候性期間を経て、未治療でエイズに進行し重篤な感染症や腫瘍が発生する。早期発見と治療が重要
・HIV治療では複数の抗HIV薬を組み合わせ、ウイルス増殖を抑制しエイズ発症を防ぐ。治療の継続が重要

これらの情報を参考に、HIVに関する正しい知識を得ていただけますと幸いです。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修医師