硝子体注射にはどのような効果がある?使用する薬剤の種類や、治療後の副作用リスクも解説します
公開日:2025/08/20

眼の疾患に対する治療法の一つに、硝子体注射と呼ばれる治療法があります。硝子体注射はさまざまな疾患のケアに用いられ、使用する薬剤などに応じた効果を得ることができます。
この記事においては、硝子体注射の具体的な方法や効果、治療後の注意点などを解説していきます。

監修医師:
栗原 大智(医師)
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2017年、横浜市立大学医学部卒業。済生会横浜市南部病院にて初期研修修了。2019年、横浜市立大学眼科学教室に入局。日々の診察の傍らライターとしても活動しており、m3や日経メディカルなどでも連載中。「視界の質=Quality of vision(QOV)」を下げないため、診察はもちろん、SNSなどを通じて眼科関連の情報発信の重要性を感じ、日々情報発信にも努めている。日本眼科学会専門医。
目次 -INDEX-
硝子体注射の基礎知識
硝子体注射は、眼のさまざまな疾患を対象として行われる治療です。硝子体とは眼球内の大部分を占める透明なゼリー状の組織で、眼球の形を維持したり、眼球内に入ってくる光を屈折させたりする役割を担っています。硝子体注射は、この硝子体部分に対して細い注射針を差し込み、薬剤を直接注入する治療で、薬剤の効果によって眼の症状をケアすることができます。
硝子体注射の方法
硝子体注射は、点眼による麻酔で痛みを抑えたうえで、とても細い注射針で薬剤を注入していきます。注射針を刺す位置は黒目から離れた位置で、注射の際には視線を下に向けた状態で行うため、針が視界に入ることはありません。針を刺す際にはチクッとした痛みを感じる可能性がありますが、しっかりと麻酔をかけたうえで、細い針を利用して注射をするため、何も感じないで治療が終わるというケースもあります。
硝子体注射の目的
硝子体注射は、眼球内の網膜と呼ばれる部分にむくみが生じる黄斑浮腫などの治療を目的として行われます。網膜は眼の中に入ってきた光を映像として取り込み脳に伝える役割の組織で、黄斑は網膜の中心部にある、特に視力に関係が深い部分です。
網膜のむくみは視力低下につながるほか、網膜がはがれるなどの状態になると目が見えなくなるなどの可能性もあります。
硝子体注射は、薬剤の働きによって網膜のむくみを抑え、症状の進行や視力低下を防ぐ効果が期待できます。
ただし、硝子体注射は根本的な病気の治療にはならず、対症療法として症状を抑えるという側面が強いため、良好な状態を維持するためには定期的に治療を継続する必要がある場合が多いといえます。
硝子体注射の対象となる疾患
硝子体注射は、下記のような眼科疾患の治療として用いられます。加齢黄斑変性
加齢黄斑変性は、網膜の中心部にある黄斑部分に、加齢などによる変化で出血やむくみが生じる病気です。国内外を問わず失明原因の上位であり、高齢になるほど発症リスクが高くなります。加齢黄斑変性は加齢による細胞の働きの低下が主な原因であり、むくみなどを引き起こす滲出型と、時間経過とともに黄斑部が薄くなっていく萎縮型があります。
滲出型は老廃物の蓄積などによって黄斑部に脈絡膜新生血管と呼ばれる異常な血管が生じることで発症するため、硝子体注射で脈絡膜新生血管が作られるのを抑制することで、病気の進行を抑えることができます。
ただし、根本的な原因は細胞の老化であるため、病気の治癒が難しく、定期的な硝子体注射で症状の進行を抑えることが、失明を防ぐために重要です。
糖尿病網膜症
糖尿病網膜症は、生活習慣病の一つである糖尿病の合併症として生じる眼の疾患です。糖尿病はインスリンの分泌低下などによって血液中の糖が増加しますが、血糖値が高いと網膜の細い血管が少しずつダメージを受け、変形や詰まりが生じやすくなります。
血管が詰まると網膜に栄養がいきわたらなくなってしまうため、新生血管が作られるのですが、この新しい血管はもろく、出血したり、かさぶたを作ったりして、これが網膜剥離などにつながる場合があります。
硝子体注射によって新生血管が作られるのを防ぐことで、網膜剥離などを予防し、失明のリスクなどを抑えることが可能です。
糖尿病網膜症の根本的な改善のためには、血糖のコントロールなど糖尿病そのものに対する適切なケアが重要です。
強度近視による近視性脈絡膜新生血管
近視は、眼球の眼軸長(前後の長さ)が伸びることで、遠い距離にピントが合わなくなって生じるものです。強度近視は眼球が強く拡大している状態であるため、網膜やその下にある脈絡膜が薄く引き伸ばされてしまい、これにより亀裂が生じて脈絡膜新生血管が作られる場合があります。
現在のところ眼軸長を改善する治療法はないため、近視そのものを改善することはできませんが、脈絡膜新生血管の発生は硝子体注射で抑えることができるため、定期的な治療で失明などの予防をすることが可能です。
網膜静脈閉塞症
網膜静脈閉塞症は、網膜に酸素や栄養を届けるための静脈が、何らかの原因で塞がってしまう疾患です。上述の糖尿病のほか、血液中の脂質によって血栓などができることなどで引き起こされるため、高血圧の方に生じやすい疾患です。網膜に酸素や栄養が行き渡りにくくなるため、新生血管が生じてむくみや出血などのリスクが高まります。
根本的な改善のためには、生活習慣病の改善などが重要です。
血管新生緑内障
血管新生緑内障は、上述の糖尿病網膜症や網膜静脈閉塞症などによって新生血管が作られることで眼圧が高まり、これによって緑内障が生じるものです。緑内障は眼圧の上昇によって視神経が圧迫されることによって引き起こされる病気で、症状を改善するためには眼圧を下げる必要があります。
硝子体注射の効果で新生血管の発生を防止することで、眼圧の上昇を防ぎ、緑内障のリスクを抑えることができます。
なお、緑内障はこのほかにも角膜や水晶体の周囲にある房水の流れが悪化することなどで引き起こされる場合があり、この場合は硝子体注射ではなく、手術などによる治療が必要となります。
硝子体注射の治療の流れ
硝子体注射は、点眼によって麻酔を行い、患者さんが下を見ている間に注射を行うだけなので、治療自体は数分程度で完了します。治療後における日常生活への制限なども少なく、洗顔や洗髪なども翌日から可能です。
なお、細菌感染などを予防するため、注射の後数日間は処方された点眼薬などを使用する必要があります。
多くの場合、注射の翌日や1週間後などに診察を行い、合併症の確認や治療効果の判定をしたうえで、継続的な治療などが検討されます。
硝子体注射で使用される薬剤の種類
硝子体注射で使用される薬剤には、主に以下のような種類があります。
ルセンティス
ルセンティスは脈絡膜新生血管を促進させるVEGFの働きを阻害する効果をもつ薬剤です。網膜静脈閉塞症や糖尿病網膜症、強度近視による近視性脈絡膜新生血管などの治療に用いられます。
アイリーア
ルセンティスと同様に、VEGFの働きを阻害する薬剤で、現在利用されることが特に多い薬剤です。ルセンティスよりも後に開発され、糖尿病網膜症や加齢黄斑変性に対しては投与間隔を長くすることが可能な高濃度の薬品も承認がおりています。ラニビズマブBS
ラニビズマブBSはルセンティスの後発品で、効果などは同等ですが、薬価が抑えられているため経済的な負担を抑えて治療を受けることが可能です。ベオビュ
ベオビュもほかの薬剤と同様、VEGFの働きを阻害する薬剤の一つです。ほかの薬剤よりも効果が強い一方、眼内炎症のリスクなどがあります。ただし、眼内炎症の発生率は低く、ほかの薬剤では効果が発揮されにくい重度の糖尿病黄斑浮腫などでも効果を得やすいため、症状の程度によって利用されます。
バビースモ
VEGFの働きを阻害する薬剤のなかで、特に新しく発売されたものがバビースモです。効果の持続する期間が長く、治療頻度を下げることが期待されています。ステロイド薬
ステロイド薬は、元々副腎という臓器で作られているホルモンを薬剤として使用するもので、身体の免疫反応や炎症を抑える効果があります。ステロイド薬を硝子体注射で注射することで、血管から液体成分が染み出すのを防ぎ、黄斑浮腫を軽減する効果が期待できます。
眼内炎症などを抑える働きもあり、ほかの注射で炎症が生じた場合のケアなどにも用いられます。
硝子体注射の効果
硝子体注射は、下記のような効果が期待できる治療法です。
硝子体注射によって期待できる効果
硝子体注射は、黄斑部のむくみや網膜剥離の原因になる新しい血管の抑制や、血管から液体成分が染み出してくることを防ぐ効果が期待できる治療です。黄斑浮腫などの根本的な原因を解消することはできませんが、むくみや出血などを抑制することで、視力低下や失明のリスクを減らすことが可能です。
硝子体注射の効果が持続する期間
硝子体注射の効果は、使用する薬剤の種類や症状によっても持続期間が異なります。一般的に1~3ヶ月程度効果が持続するとされ、効果が切れるタイミングに合わせて定期的な治療の継続が必要となります。また、治療を開始したばかりの頃は短期間で治療を繰り返す必要があり、症状が落ち着いてきたら少しずつ治療期間を延ばしていく場合もあります。
硝子体注射で完治は可能?
上述のとおり、硝子体注射はあくまでも視力の低下や失明のリスクを下げるための治療であり、原因となる疾患の根本的な治療ではないため、硝子体注射のみで症状を完治させることは困難です。糖尿病網膜症であれば血糖コントロールを適切に行うなど、原因となる疾患に応じた治療を受けることが大切です。
硝子体注射のリスクやデメリット
硝子体注射はリスクやデメリットが少ない治療ですが、下記の点には注意が必要です。
治療時の痛み
硝子体注射は麻酔をかけたうえで、とても細い注射針を使用するため、強い痛みは基本的にありません。しかし、まったく痛みがないとは言い切れず、痛みの感受性は人によっても異なりますので、注射が痛いと感じたり、恐怖心が強い方もいるでしょう。緊張感が強いと刺激に対して過敏になりやすいため、あまり不安にならずリラックスして治療を受けることも大切です。
合併症のリスク
硝子体注射は合併症のリスクが低い治療ですが、薬剤によっては眼内炎症などが生じる可能性もあります。また、小さいとはいえ注射による傷口ができるため、そこから細菌が侵入してしまうと、感染症につながる場合もあります。合併症のリスクを避けるためには、処方される点眼薬をしっかりと利用するなど、医師の指示にしたがってケアを行うことが大切です。 そのほかにも、注射針が水晶体に当たることで白内障を進行させたり、網膜に当たって網膜の損傷につながったりする場合があります。薬剤が血管に入り込んでほかの部位に回ってしまうと脳梗塞や心筋梗塞などのリスクにつながる可能性もあるため、施術を行う医師や、治療に使用する薬剤などは慎重に選ぶようにしましょう。
治療後によくあるトラブル
硝子体注射の後は、結膜の出血で目が赤くなったり、異物感などが生じる可能性があります。また、薬剤が眼球内に注入されるため、一時的に視界がぼやけたり、飛蚊症が引き起こされることがあります。
これらの症状は一定期間で収まりますが、症状が続いてしまう場合は担当の医師に早めに相談しましょう。
硝子体注射で効果が得られない場合の治療法
硝子体注射とともに行われる治療には下記のような治療があります。
レーザー光凝固
レーザー光凝固は、レーザーの光によって生じる熱で、網膜のむくみや出血、新生血管の発生などを防止する治療法です。硝子体注射が対象としているような疾患のほか、網膜に小さい穴や裂け目が生じてしまう網膜裂孔の治療などにも行われます。
硝子体手術
硝子体手術は、眼球内に手術器具を挿入し、さまざまな眼科疾患の治療を行うものです。網膜剥離など失明のリスクが高い疾患の治療をはじめ、出血によって硝子体が濁ってしまった状態の改善など、幅広い症状に対して実施されます。
眼科治療のなかでも難易度が高く、安全性に配慮した治療が行われていますが、合併症などのリスクもあります。
まとめ
硝子体注射は、新生血管を作り出すVEGFの働きを阻害する薬剤などを注射することで、網膜の出血やむくみを防ぎ、視力低下や失明を防止するための治療法です。
加齢黄斑変性や糖尿病網膜症などに対して行われ、定期的な治療によって、眼の健康状態を維持することが可能となります。
眼球に注射をするというと痛みなどが心配な方も多いと思いますが、しっかりと麻酔をかけて細い注射針を用いるため、強く心配する必要はないといえるでしょう。
使用する薬剤によっても期待できる効果が異なりますので、気になる方は複数の薬剤を取り扱うなど、患者さんの状態などに応じた治療を行っている眼科医院などで相談してみてはいかがでしょうか。
参考文献

