歯のなくなった箇所を補う方法として、もっとも一般的なのが、「
入れ歯」という選択肢だろう。たしかに
治療リスクが少なく費用もかからない「手軽な」方法だが、かみにくさやお手入れの煩わしさといったストレスを抱えてしまうのも事実だ。加えて、「横浜エス歯科クリニック」の白井先生によると、「
入れ歯ならではのリスク」があるのだという。詳しいお話を伺った。
Doctor’s Profile
白井 崇浩
医療法人社団白浩会 理事長
国立新潟大学歯学部卒業、東京医科歯科大学歯内療法学卒業後研修修了。首都圏の各医療法人やインプラントセンターにて、統括院長、センター長、分院長などを歴任。現在、「横浜エス歯科クリニック」ほか神奈川県内に合計4院の歯科医院を構えている。日本顕微鏡歯科学会、日本口腔インプラント学会など参加学会多数。
「合っていない入れ歯を使い続けるリスク」はこんなにあった
入れ歯の使い心地に関するお悩み相談はよくあるのでしょうか?
多いですね。
きちんとかめない、
グラグラ動く、
歯茎と入れ歯の間に物が挟まる、
お手入れが面倒くさい、
臭いが気になる、
見た目が悪いなどがよくあるお悩みでしょうか。
そのような相談に対し、どう対処しているのでしょう?
基本的には、
入れ歯の調整や作り直しをご提案しています。ただし、
できることとできないことがあります。例えば、お手入れの面倒くささなどは、
入れ歯を使っている限り避けられないですよね。フィット感にしても、一時的なものです。いずれ合わなくなってくるでしょう。
なぜ、入れ歯が合わなくなるのですか?
入れ歯だと“かむ力”を十分に発揮できず、顎が次第に痩せていってしまうからです。本来、顎も含めた人の骨は、外からの力が加わることで丈夫になります。しかし、
入れ歯でかむことのできる力は、天然歯に比べておおむね3割といわれています。このため、
入れ歯の形と顎の形が、合致しなくなってくるのです。
正しいかみ合わせとも関係してきそうですね?
はい。
左右どちらかのかみやすいほうだけで食事をしていると、顎や体のバランスを崩しかねません。ちょうど、「靴ずれ」が起きて、痛くないほうの足に体重をかけて歩いているのと同じような状態です。また、合っていない
入れ歯を使っていると、歯茎に傷をつけてしまいます。
こうした傷は、まれにがん化することが知られています。
「かむ力」や「正しいかみ合わせ」を損なわない治療選択肢としては、何が考えられるのでしょう?
やはり
インプラント治療ですね。
インプラントでの「かむ力」は、天然歯の場合とほぼ変わりません。また、見た目や洗浄液でのお手入れといった“ほかのお悩み”にも対処することが可能でしょう。
インプラントに限らず、ブリッジでも補えそうに思いますが?
両隣の歯根が十分に機能していれば、ブリッジも選択肢となります。ただ、一番奥の歯や、連続して何本も抜けている部分には、使えないのです。また、もともと「3本の歯」にかかる力を「2本の歯」で受け止めるわけですから、患部の歯や顎に余計なダメージを与えかねません。
インプラントの説明で、よく「QOL」という言葉を見かけます
「QOL」とは、クオリティ・オブ・ライフの頭文字を取った言葉で、日本語で言うと「
人生の質」です。具体的には、食事のおいしさ、見た目、発音、外出機会の向上による健康増進などです。また、災害などの緊急時を想定してみてください。
インプラントなら、紛失したり装着し忘れたりといった事態が防げます。
なるほど! インプラントへの考え方が、少し変わってきました
着眼点は、まだまだあります。例えば、
入れ歯の患者さんは強くかめないので、軟らかい炭水化物を主体とした食事内容になりがちです。そうなると
栄養が偏ってしまうでしょう。
インプラントなら、ご自身の歯とほぼ同程度の咬合力を回復することができます。
インプラントの治療費には、そのようなメリットも含まれると?
そう考えていただきたいですね。ちなみに保険の
入れ歯は3割負担で1万円前後、自費の
入れ歯だと40万から50万円します。この価格は欠損部分の本数に限らず、「1つの
入れ歯に対して」です。一方の
インプラントは、「1本あたり」で約40万円が相場でしょう。
そう聞くと、すんなり納得できる費用ではないのも事実です
では、「100万円お支払いしますので、あなたの丈夫な歯を1本抜かせていただけますか」と聞かれた場合を想定してみてください。断る方が多いのではないでしょうか。
歯にはもともと、それくらいの価値があるのです。インプラントの治療費は、「失われた歯の価値をほぼ遜色なく回復できる費用」だと考えています。
しかし、1本10万円を切るような価格の歯科医院もありますよね?
確かにそのような格安価格で提供している医院もあるようです。その場合、使われる
インプラントは実績の少ない後発メーカーのものになるでしょう。
インプラントは入れて終わりではなく、数十年先まで使うものです。使い続けた場合にどうなるかのデータがないのは不安材料ですよね。また、もしそのメーカーが倒産してサービスの提供を受けられなくなったら、部品の交換などができなくなります。ほかのメーカーの部品で、最初から施術し直すケースも考えられるでしょう。
臨床データの充実度や企業存続性を考えると、「安すぎる価格」そのものがリスクになります。そう考えると、ある程度の費用が伴うのはいたしかたないと思います。
どの程度の欠損があったら、インプラントを検討すべきでしょうか?
「ほかの歯に迷惑をかけない」という観点からすると、「1本の欠損」でも、
インプラントを検討すべきでしょう。
入れ歯は前述のとおり顎を痩せさせますし、ブリッジは隣接した歯に負荷をかけてしまいます。ところが
インプラントなら、埋入した箇所だけの自立が可能です。このような、
「他の歯を守る」という予防的価値にも着目していただきたいですね。
インプラント治療を受けた患者さんの反応についても教えてください
声として多いのは、「施術時の痛みが思ったより少ない」「かみ心地が自分の歯と変わらない」などです。
メリットの大きいインプラント治療ですが、一般的に広まっていないのはどうしてでしょう?
やはり、一部の医師による治療トラブルと、それを大々的に報じる報道や口コミの影響でしょうか。しかし、
インプラント治療のトラブルは、熟練した医師が手掛ければ、ほとんど起こりません。また、そのための設備や環境も整っています。
先生が取り入れている環境面の工夫について、具体的に教えてください
例えば、
インプラントを埋入する角度や深さ、位置などが固定できる「
サージカルガイド」です。
サージカルガイドは、歯科用CTで得られたデータを元にシミュレーションされます。また、衛生面に配慮した、
オペ専用の治療室もご用意してあります。加えて、施術時には、
歯科麻酔の専門医を同席させています。
一般の人がインプラント治療の安全性を見わけるとしたら、どこに着目すればいいのでしょう?
初診時に、
①歯周病の検査、
②かみ合わせのチェック、
③X線もしくはCTによる診断がおこなわれているかどうか。最低でも、この3点は欠かせないでしょう。また、歯の欠損部分が複数箇所ある場合、「とりあえず、1箇所だけ
インプラントを埋入してみましょう」という判断はありえません。歯列が、歯のない方向へ崩れていくからです。
インプラントと
入れ歯やブリッジを併用してもいいので、
「お口全体を診ているか」という部分に着目してください。
ほか、トラブルにつながりかねない要因としては何がありますか?
いろいろと考えられますね。まずは、
「治療後のメンテナンス」という観点まで見据えて、治療計画を立てているかどうか。インプラント自体が前後左右に曲がっていたり、
インプラントと天然歯の隙間が等間隔になっていなかったりすると、ブラッシングしにくい部分を生じさせてしまいます。メンテナンスがきちんとできないと、
インプラントの歯周病といえる「
インプラント周囲炎」になり
インプラントが抜けてしまうこともあるでしょう。
続けて、受診先を選ぶ際の重要なポイントを教えてください
「もともとの歯を失った理由まで、きちんと考慮していること」も大切です。例えば歯周病が進行していたら、
インプラント治療の前に、その治療を優先すべきです。
根本原因を解決できていないままインプラントを「ただ打つ」だけでは、一時的にかめるようになったとしても、同じトラブルが繰り返されてしまうことになるでしょう。当院では、歯と密接な関係がある糖尿病などの全身疾患もチェックしています。
単にインプラントを「扱っている」だけでは不十分だと
そのとおりです。上述のように、多角的かつ将来的な部分も見込んだご提案が、「治療計画」だと考えています。
インプラントはあくまで手段ですから、「用いない」という選択肢もありえるはずです。
先生の医院では、インプラント治療の相談だけでも可能ですか?
もちろん歓迎いたします。ご自身のお口に起きていること、考えられる将来的な不具合、それに対する治療計画などをご説明させてください。インターネットなどで得られる一般論とは異なり、個人ごとの正しい事情が得られるでしょう。
重要なのはデメリットやリスクも含めた「インプラントという選択肢」を知っていただくことで、実際に治療を受けるかどうかは、その後で検討していただければ結構です。
最後に、読者へのメッセージがあればお願いします
インプラント治療には、歯科医師や歯科医院による格差がかなりあります。情報の正確さは元より、他院で「できない」と言われた症例でも適応できるケースがあるのです。当グループは、横浜駅のほか、新横浜駅や上大岡駅にも展開していますので、ぜひ、気軽にお声がけください。
ンプラント治療の危険性は、技術面に限らず、過去の原因や将来の予見可能性などによっても左右されるのでした。こうしたさまざまな要素を判断できる歯科医師なら、安全性が確保できそうです。また、「失った歯を補う」という機能に加え、「他歯を守る」予防効果、「人生の質を向上させる」付加価値を兼ね備えるのがインプラントの特長。費用対効果は、こうした点も含めて検討してみましょう。その先に待っているのは、ストレスのない食事や健康的な生活が送れる人生です。
医院情報
医療法人社団白浩会 横浜エス歯科クリニック
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〒220-0011
神奈川県横浜市西区高島2丁目18−1
そごう横浜9F
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アクセス |
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診療内容 |
歯科一般 小児歯科 矯正歯科 インプラント 根管治療 |