インプラントを長持ちさせるには、歯周病の治療が必須【三重県松阪市 林歯科医院】
しっかり噛んで食事ができることは、充実した人生を送る上での大切な要素のひとつ。そのため近年は、欠損した歯を元の自分の歯のように補えるインプラントが注目されている。ただし、インプラントを安全に使い続けるには、常に歯周病のリスクに目を光らせる必要がある。そこで今回は、歯周病、インプラントともに高い知見を持つ林歯科医院の林尚史院長に、両者の関連性と健康な歯を保つためポイントをうかがった。
林 尚史
医療法人尚志会 林歯科医院院長
1988年、福岡県立九州歯科大学卒業。1992年、林歯科医院開設。歯学博士。
日本歯周病学会 歯周病専門医・指導医
日本臨床歯周病学会 指導医・認定医
日本臨床歯周病学会 歯周インプラント指導医・認定医
日本口腔インプラント学会 インプラント専門医
アメリカインプラント学会(AAID)
国際口腔インプラント学会
日本顎咬合学会 認定医
歯科医院での定期的メンテナンスで歯周病予防を
歯周病の症状が進行する原因には何があるのでしょうか?
まず、歯磨きなどお口のメンテナンスが自己流で、十分に磨けていないことが挙げられるでしょう。歯周病は少しずつ進行するので、なかなか本人は気付きません。歯周病が重症化すると、歯茎の溝(歯周ポケット)が深くなり歯ブラシが余計届きにくくなります。ですから歯周病は、重症化する前にいかに早期治療するかが重要です。
それと同時に大切なのが、治療後の定期的なメンテナンスです。どんなに丁寧に歯を磨いても、細菌の溜まり場ともいえる「バイオフィルム」が90日~100日で再び形成されるといわれています。その前にクリニックでメンテナンスをすることが大切となります。
歯周病のメンテナンスはずっと続ける必要があるということですね。
歯周病の治療は、終了したときが現状での最も良い状態です。その後、再び歯周病は進行し始めますが、その降下していくカーブをできるだけ緩やかにするのがメンテナンスです。
「歯が痛くなったときだけ治療を受ける人」と「定期的に歯のメンテナンスをする人」では、10年で10本の歯を失うリスクの差があると統計で明らかになっています。当院は開院して30年以上経ちますが、もう20年以上メンテナンスで通院されている方もいるなど、口腔内のメンテナンスには力を入れています。
自己流のメンテナンスの効果を上げるにはどうしたらよいでしょうか?
「磨いている」と「磨けている」のは、似て非なるものです。そのため、一度はしっかりと歯科医院で歯の磨き方を学ぶことが重要です。それでも除去できない汚れをクリーニングするのが、メンテナンスです。目安としては、3~6カ月に1回は歯科医院で行うべきです。
歯ブラシだけで、フロスや歯間ブラシを使わない人が多いですが、歯と歯の間などは、フロスや歯間ブラシを使わないと汚れは取り除けません。英語では「フロス・オア・ダイ」という言葉があるくらいです
歯周病は、体全体の健康にも影響すると聞きました。
歯周病は、全身の疾患にも大きく影響します。特に顕著なのは、糖尿病などの生活習慣病です。歯の多さやしっかりした咀嚼が健康を左右します。健やかな生活を送るために、当院では歯周病の治療とメンテナンスを強く推奨しています。
余談ですが、インフルエンザも口腔ケアをしている人としていない人では、10倍も罹患率が違うという統計もあるんです。
歯周病が重症化すると歯は抜かざるをえませんか? また、歯周病の歯茎を再生させることは可能ですか?
歯周病で歯を失うのはよほど重症化した場合で、そう滅多にはあるわけではありません。また当院では、むし歯にしろ、歯周病にしろ、なるべく歯を残すことを心掛けています。歯は二度と生えてきませんからね。
歯周病は、歯の土台である歯槽骨が溶けていく疾患です。通常は、その前段階で治療をして進行を止めればいいわけです。症状が進行した場合、歯周ポケットの内部を清掃して欠損部に薬剤などを注入し、歯周組織の再生を促すことが可能です。また、重症化してグラグラした歯を周囲の歯で連結して支える「歯周補綴」という技法もあります。
貴院での歯周病治療の特徴を教えてください。
歯周病の治療には、ドクターに歯科衛生士がついて行います。歯科衛生士などのスタッフは、院内での勉強会はもちろん、外部講師を招へいしたセミナー、学会などさまざまな学びの場に参加している歯周病のスペシャリストです。ですから、より高度な治療ができるという自負があります。
インフォームド・コンセントを重視していると聞きました。
医療者である私たちが「これがベストだ」と思う治療と、患者さんが希望される治療が違っている場合は、それなりにあります。その意見の違いを埋めていくために、十分な説明と話し合いが必要になります。
当院には、歯科医師と患者との間に立ち、処置の説明やカウンセリングを行う「トリートメント・コーディネーター」が在籍しています。患者さんとコーディネーターが話し合い、ご要望も伺った上で、患者さんが納得して治療を受けられる治療メニューを作成していきます。
インプラントは歯周病をしっかり治療した上で!
インプラントは、治療できるケースとできないケースがあると聞きました。どのような場合、治療できないのでしょうか?
インプラントは骨と結合する必要があるので、骨が少ない人は手術が困難な場合があります。また、インプラントは外科手術を必要とするので、体に負担がかかります。ですから全身の疾患リスクのある方は、まずそのリスクを軽減していただく必要があります。なおヘビースモーカーの人は、予後不良のリスクが高くなることも知られています。
そして歯周病での場合です。歯周病の患者さんは、まず歯周病を治療して、口腔内のコンディションをよくしてからインプラントを行うべきです。
どうしてインプラントのために歯周病の治療をする必要があるのですか?
インプラントと歯周病は、セットで考えないといけないということですね。
長くインプラントの機能を享受し続けるために
インプラント治療に関して先生は3種類のインプラントを用意されていると聞きました。
当院ではヨーロッパ系の「ストローマンインプラント」、アメリカ系の「Zimmerインプラント」、そしてアジア系の「オステムインプラント」の3種類を用意しています。
インプラントのメーカーは日本国内だけでなく、世界にも数多く存在しています。それぞれにコンセプトや得意不得意があり、また人種による骨格の違いもあります。3種類用意することで患者さんに対するインプラントの選択肢が広がり、より一人ひとりに適した治療をできるようになります。
貴院ではインプラント周囲炎のフォローやメンテナンスはどのように行っていますか?
周囲の歯肉の検査を行い、歯肉の状態に合わせた治療やメンテナンスを行います。
また、噛み合わせのチェックも重要です。というのは、自然歯は柔軟性があり動きますが、インプラントは動きません。そのため、噛み合わせが変化するとインプラントに力がかかり過ぎるようになってしまう場合があるためです。それを調整することで、インプラントも自然歯も長持ちします。
そして、クリーニングと磨き方の指導を徹底します。磨き方は、気が付くとどんどん自己流に変わっていってしまうので、根気よく行うことが大切です。
インプラントを検討している人はどんな医院を選んだらよいかアドバイスをいただけますか?
繰り返しになりますが、インプラントが悪くなるのは歯周病が原因です。ですから歯周病とインプラント、この両面で専門性の高い医院をおすすめします。
また、予防治療に力を入れ、予防システムが充実している医院がいいと思います。「悪くないものを守る予防」と「悪いものを治して維持する予防」はどちらも予防ですが、その内容はまったく違います。しかし、患者さんにとってはどちらも大事なことです。
当院では、両方の予防ができる体制を整え、スタッフの育成に当たっています。歯周病・インプラントそれぞれの専門歯科衛生士、患者さんとのインフォームド・コンセントを担当するトリートメント・コーディネーター、滅菌の専属スタッフなど、どれも高度な医療に欠かせないスペシャリストのスタッフばかりです。
メンテナンスのための予防専用ケアルームをはじめ、3タイプの治療専用ルーム、無料託児サービスなど、患者さんが通いやすい環境を提供されているようですね。
歯科医の診療室に足を運んでいただければ、歯は悪くなりません。しかし正直なところ、皆さんには「歯医者は、できれば行きたくないところ」という認識があると思います。
ですから当院では、窓が多く明るい院内や、カウンセリングや診察は個室で行うなど、通院しやすく治療を受けやすい環境づくりを心掛けています。
エステや美容院の感覚で「ちょっと歯のメンテナンスに行ってくる」という気持ちになっていただけたらうれしいですね。赤ちゃんからシニアまで、多くの世代の方の歯の健康を守るお手伝いをさせていただきたいです。
最後に、Medical DOCのサイトを訪れた読者へのメッセージをお願いします。
歯周病は、自然歯だけでなくインプラントにも悪影響を与えます。歯周病の治療は、少しでも早く行いましょう。また治療が終了したら、その状態を維持するためにも定期的なメンテナンスを欠かさないようにすることが大切です。治療終了が、お口の健康を保つための新たなスタートなのです。