入院医療や外来医療に次ぐ第3の医療として認知度が高まっている「在宅医療」。しかし、その内容については意外と知られていないことが多い。高齢化がますます加速し、医療や介護、生活支援や予防が一体的に提供可能な地域包括ケアシステムの構築が社会的に求められているなか、在宅医療はその中心となる欠かせない存在だ。大阪府八尾市で、地域に密着した在宅医療に注力している「久保医院」の久保知一郎先生に詳しいお話を伺った。
Doctor’s Profile
久保 知一郎
医療法人 久保医院 院長
平成13年愛知医科大学卒業。府中病院にて内科、大阪市立大学第1内科にて研修。多根総合病院、ベルランド総合病院(循環器内科医長)、大阪掖済会病院循環器内科、小児科勤務を経て平成23年、医療法人久保医院副院長就任。令和2年 医療法人久保医院院長に就任。医学博士。緩和ケア研修修了。日本循環器学会専門医、日本内科学会認定医など所属学会多数。
多職種連携で24時間365日患者さんや家族を支援するのが在宅医療
在宅医療はどのような方が対象になるのでしょうか?
在宅医療とは、年齢に関係なく一人で病院に定期的に通うのが難しい方が自宅で受ける医療のことです。たとえば脳梗塞などが原因で歩行が難しくなり通院できない方や、パーキンソン病や筋委縮性側索硬化症などの神経難病の方、寝たきりの方などが対象となります。また、認知症で薬をきちんと飲めない方も対象です。
往診や訪問診療と在宅医療との違いを教えてください。
在宅医療はとても大きな枠組みなので、そのうちの一つが訪問診療です。訪問診療は医師や看護師、地域のケアマネージャーなど専門家が治療計画を立て、患者さんや家族から同意を得た上で、定期的に自宅を訪問し診療することです。往診は「調子が悪くなったので来てください」というように、患者さんから依頼を受けて診察に行くことです。
通院が困難な方の場合、入院という選択肢もあると思います。入院に対する在宅医療のメリットを教えてください。
やはり、住み慣れた環境で治療できることが在宅医療のメリットです。患者さんのQOL(生活の質)を維持し、できるだけ穏やかに暮らせるように症状の変化に合わせたきめ細やかな対応ができるのが在宅医療の特徴です。
もちろん在宅医療を受けている患者さんでも、より集中的な治療が必要な場合のときは速やかに入院できるよう地域の病院と連携しています。あくまでも患者さんのご希望に沿って、在宅か入院かを選んでいただけるよう配慮しています。
在宅医療を受けるためのガイドラインのようなものはありますか?
医師や看護師、介護の専門家も含めた多職種連携によるオーダーメードの診療が在宅医療ですので、それぞれの専門家が患者さんの状況を見て「在宅医療が必要な状態にある」と判断した場合に行うものです。そのため、患者さんと家族、専門家との綿密なコミュニケーションが何よりも大切です。
説明や相談に多くの時間を割くことを心がけていますし、疑問があればすぐにお応えできるよう、いつでもお電話でご相談できる体制を整えています。
在宅医療は主にどのような病気や症状に対応するのでしょうか?
慢性疾患や難病だけでなく、がん患者さんに対する緩和ケアも在宅医療の役割の一つですが、必ずしも末期の方だけが対象ではなく、病院に通院されている方の痛み緩和も対象となります。患者さんがどのように自宅で過ごしたいかに沿って、現在お困りの症状に対応していくことが大切で、早め早めに先手を打つことができるのが在宅医療の特徴です。
薬の調整を行うことで症状をコントロールすることができますし、必要に応じて点滴や注射、酸素や人工呼吸器など医療機器の調節、床ずれの処置、チューブやバルーンの交換など、在宅医療で行うことは多岐にわたります。
病院と異なり在宅では医療行為も限られるように思います。先生のところではどんな処置・検査が可能なのでしょうか?
具体的には胃ろう、在宅中心静脈栄養法、在宅酸素療法、膀胱留置カテーテル、気管切開の管理、点滴・注射、エコー検査、心電図検査、血液検査、人工呼吸器による人工呼吸、輸血などが可能です。
通院と変わらないぐらいの医療が受けられるのですね。
いろんな医療機器が携帯できるようになり、なおかつ高性能ですので幅広い処置や検査が可能です。刻々と変化する患者さんの状態に合わせて、できるだけ「その方らしい生活」を送っていただけるよう治療を行うのが、私たち在宅医療に関わるものの役割です。
もちろん、より専門的な処置や検査が必要な場合には、提携先の地域の病院と連携してスムーズに行えるようにしています。
それでは先生のところで在宅医療を実施していただくまでの流れを教えてください。
ケースバイケースですが、多いのは地域の病院・ケアマネージャー、訪問看護ステーションを通じての相談です。指定難病やがんの末期など特に取り扱いに注意すべき情報もありますので、情報セキュリティーは十分配慮するよう心がけています。
在宅医療は患者さんだけでなく家族の方も含め精神的なケアが欠かせません。医師だけでなく専任の看護師も配置して、相手の心情に寄り添った在宅医療の提供に努めています。
訪問エリアですが、どの辺りまで可能ですか?
当院の主な往診エリアは、八尾市、藤井寺市、柏原市、松原市、羽曳野市の一部、大阪市平野区、大阪市東住吉区です。状況にもよりますが、エリア外にお住まいの方でも対応できる場合がありますので、お気軽にご相談いただければと思います。
訪問日時の急な変更や指定などはできるのでしょうか?
24時間365日体制が在宅医療の特徴ですので、訪問日時の急な変更や指定にも対応可能です。医師と専任看護師が密に連携して、さまざまな悩み事や疑問に納得いただけるまでその都度丁寧に説明いたしますので、いつでもご連絡いただければと思います。
気軽に在宅医療を利用することで自分らしい生活を送っていただきたい
在宅医療を受ける際に何か準備しておくものはありますか?
掃除ぐらいしなければとお考えの方もいますが、日常生活の中に私たちがお邪魔させていただきますので、自然に過ごしやすい状態でお待ちいただければ特に何も準備する必要はありません。
また、仕事などの都合で家族の方がいない場合でも、別の形でこまめに連絡を取りバックアップに努めています。
一人暮らしの方でも在宅医療を受けることは可能ですか?
もちろん大丈夫です。最近は一人暮らしの高齢の方も増えていますし、家族がいても離れて暮らしているケースもあります。一人暮らしだと薬を取りに行くことも難しいですし、急に具合が悪くなったときでも医師や専任看護師に連絡がつく体制を整えていますから、安心して自分の人生を預けていただきたいですね。
先生にわざわざ訪問していただくとなると費用面が心配なのですが。
さまざまなケースがありますので一概には言えませんが、在宅医療は医療保険が適用になりますし、限度額上限など大きな負担にならずに利用できる制度です。
病院などへの通院となると、タクシー代や診察の待ち時間、家族の方の付き添いなど、その都度少なくない負担が生じる場合があります。あくまでも患者さんと家族の方のご意向が最優先ですので、選択肢の一つとして在宅医療を視野に入れていただければと思います。
在宅医療に際して、特に先生が留意している点についてお聞かせいただけますか?
一番大切なことは、患者さんと家族の方が望む過ごし方を実現できるかどうか、その想いにいかに寄り添った在宅医療を提供できるかということです。特に初めて自宅に伺う際には、必要な情報を丁寧に何度も説明して、十分な理解を得られるように心がけています。
また、病院への入院と在宅医療とで迷っている方も少なからずいらっしゃいますので、その場合はそれぞれのメリット・デメリットを患者さんと家族の生活状況を踏まえてお伝えしています。
コミュニケーションに終わりはありませんから、その時々の想いに応える対応が欠かせません。
穏やかに人生を全うして頂けるように尽力することが私たちの役目だと思います。
これから在宅医療を受けようと考えている方、Medical DOCのサイトを訪れている読者へのメッセージをお願いします。
在宅医療という言葉は知っていても、まだまだその内容については認知度が低く、在宅医療対象者であるにも関わらず通院されている方が多いのが現状です。介護疲れから悲しい事件が起きているケースもあります。
在宅医療は通院が困難な病気を抱えている患者さんとその家族の方が、できるだけ快適に生活を送るための制度です。その一助となれるよう、さらに研鑽を積んでよりよい在宅医療の提供に努めていきます。お困りのことがありましたら、お気軽にご相談ください。
高齢社会が加速するなか、地域包括ケアシステムの中心となる在宅医療の需要はますます広がっていくに違いありません。在宅医療は24時間365日対応のところがほとんどで、「医は仁術」という言葉が息づく町のかかりつけ医の方たちが日夜精力的に奮闘を続けています。
一定の医療を受けることができ、成人だけでなく新生児や障害を持つ子どもにも対応してくれるのが、在宅医療の大きなメリットです。生活状況に合わせて、訪問診療に対応している医院を利用するのもこれからの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
医院情報
久保医院
所在地 |
〒581-0037
大阪府八尾市太田5丁目182-3
|
アクセス |
地下鉄谷町線 八尾南駅 車で6分
近鉄バス「太田」下車 徒歩約6分 |
診療内容 |
在宅医療 内科 小児科 循環器内科 |