インプラントは今や一般的な歯科治療として普及している。しかし、
あごの骨が不足している、身体に既往症がある、あるいは特別な薬を飲んでいるなど、さまざまな事情でインプラント治療が受けられないケースもある。そういった悩みをもつ患者さんはどうしたらよいのだろうか。
スウェーデンで高度なインプラント治療を学び、長年
インプラント治療を専門にされてきた阿佐谷北歯科クリニックの松川眞敏院長に、
インプラント治療にまつわる最新事情を伺った。
Doctor’s Profile
松川 眞敏(まつかわ まさとし)
阿佐谷北歯科クリニック 院長
A.O. インプラントクリニック
1983年福岡県立九州歯科大学卒業。1989年インプラント治療を開始。1993年医療法人社団朋優会を設立し、理事長に就任。阿佐谷北歯科クリニックを設立。2004年O.S.I. Osseo Skarp Institute講師に就任。臨床実績のあるインプラント専門医として歯科医の教育にも携わっている。
歯がない状態で放っておくと、ほかの歯に悪影響が出るそうですね。
時間が経てば経つほど、ほかの歯への影響があるといわれてます。たとえ1本でも歯が抜けたまま放っておくと、両隣の歯が傾いたり、抜けた反対側の歯が伸びて出てきたり、噛み合わせが狂ったりします。噛み合わせが変わった状態が長く続けば、ひどい場合、顔の印象も変わってきてしまいます。ですから、歯を失ったらとにかく早めの治療が必要です。
歯を失ったときの対処法として、インプラントは優れた治療法だと思います。しかし敬遠する患者さんもいらっしゃいます。その理由は何なのでしょうか?
インプラントはそれなりに費用がかかります。それは敬遠される要因のひとつだと思いますが、大きな理由としては
外科的な処置が怖いというところにあるのではないでしょうか。
インプラント治療のような外科治療は局所麻酔でもできますが、
麻酔医に来てもらって静脈内鎮静法を使えば、ほぼ眠っている状態でオペができます。実際のところ、患者さんは手術中に怖いと感じていないはずです。
要するに、「怖そう」という先入観なのですね。
ただし、患者さんが
インプラント治療を望まれても、
すぐにできないケースはいろいろあります。
糖尿病の数値が高くて感染のリスクが高い場合は、まず内科のほうで血糖値を下げてもらうことになります。また、
骨粗鬆症の薬(BP製剤)を飲まれている方が最近多く、その場合、抜歯や
インプラントなどの外科処置をすると
顎骨壊死(顎の骨が死ぬ)が起こる可能性があります。それで
インプラント治療をするかどうかを患者さん自身が悩まれるケースもありますね。
整形外科でその薬を処方してもらう際に、「こういうリスクがありますよ」という話をきちんと聞いている場合はいいのですが、患者さん自身がそれを聞いておらず、リスクを知らないケースも結構あるんですよ。
骨粗鬆症の薬にそんなリスクがあるとは驚きました。
骨粗鬆症に対しては非常にいい薬なんですよ。でも、整形外科の先生から副作用のリスクを知らされずに飲んでいたという患者さんもいるんです。その薬を飲んで
インプラント治療をしたからといって、
必ずしも顎骨壊死が起こるわけではありませんが、必ず、私たちはその点を患者さんに確認しなくてはならないと思います。
実際に、顎骨壊死するようなことはあるのでしょうか?
必ず壊死するわけではないし、そのリスクのパーセンテージは低いのですが、骨粗鬆症の薬を飲んでいる方の場合、
インプラント治療はもちろん、抜歯をすることのリスクも考えないといけません。
ただ、
インプラント発祥のスウェーデンでは、患者さんがその薬を飲んでいても
インプラントの手術をするケースが多いですね。きちんとインフォームドコンセントをして、リスクがゼロではないことを患者さん本人が納得した上で決めていただくというわけですね。
以前は、その薬を飲むのを止めて、半年経ったらリスクはないという話でしたが、今は薬を止めてもリスクは変わらないということになっています。骨粗鬆症の薬を飲まれている方に関しては、問診の段階で、
リスクを考慮した上でインプラント治療を「やる」「やらない」という判断をしていただくことになります。
歯の治療に整形外科の薬が関係するとは想定外でした。
骨粗鬆症の薬を飲む場合、副作用のリスクが少ないほかの薬を選択することも可能ですので、整形外科の先生には薬を処方する前に、抜歯や外科手術をする際にリスクがある薬だということを患者さんにきちんと説明しておいていただけたらと思います。薬について、副作用を知らないで飲んでいる方が圧倒的に多いですから。
先生はずいぶん早くからインプラント治療を始められましたね。
ちょうど
インプラントが世に広まりつつある頃で、
インプラント治療が
患者さんにとってメリットがあることは明らかでしたから、これからはインプラントの時代だと思いました。実際、
入れ歯の場合、実際にそれほど物を噛めるわけではないし、咬合力(噛む力)のリカバリーが高いわけでもないですしね。
発音の問題があったり、
入れ歯で生じる異物感を考えたりすると、
インプラント治療は患者さんにとって有益なものだと思いました。
インプラントによって治療の流れが変わってくるし、今までの歯科の歴史からちょっと違うステージに上がっていくような、まさにそんな印象でしたね。
なかにはインプラント治療の失敗を怖れる患者さんもいらっしゃるのではないでしょうか。
インプラント自体があまり知られていない初期の頃は、骨とくっつかないという失敗例があったと思います。でも今は、
インプラント治療は一般的な歯科治療になってきています。
インプラント治療の教育、トレーニングを受けた歯科医がオペをすれば問題はないはずです。私自身は、
事前に撮ったCTをしっかり確認して、適切なプランニングをした上で「基本に忠実に、確実にやる」をモットーにオペをしています。
ただ、歯科医が
インプラントメーカーの人に「やってみたら?」とすすめられて、安直にやってしまい、失敗するケースはあるかもしれませんね。やはり、
歯科医がインプラント治療のトレーニングをきちんと受けているかどうかが重要です。
たしかに、歯科医選びは大切ですよね。
インプラントの症例を数多くこなしているか、また外科のスキルが高いところで実際にトレーニングを受けているかどうかなどがポイントです。日本の場合はそれが明確ではないので、歯科医を選ぶ段階で患者さんは悩みますよね。歯科医は学位を持っていることよりも、臨床的に外科のスキルが高いかどうかが肝心です。
それと、クリニックに関していうと、
術後のメインテナンスをきちんとできる、スキルの高い衛生士さんがいることも大事です。
インプラント治療だけでなく、その後の
インプラント周囲炎のリスクを回避したケアまで含めてトータルで治療ができるところじゃないと
インプラントが長続きしません。
インプラント以外の問題を解決できないと、
インプラントそのものにも影響してきますので。
外科のスキルが高いトレーニングセンターとは、先生が講師をされているオッセオ・スカルプ・インスティテュート(O.S.I.)ですか?
私は10年くらいスウェーデンで講義を受け、オペを見て学びました。O.S.I.は歯科医の
インプラント研修センターのようなところで、
スウェーデンの先生に来日してもらって、オペを横で見てもらい指導してもらう。それを日本の歯科医が学ぶ場所なんです。
外科手術を学ぶということは、テキストのとおりにやってみることではなく、その分野で有名な先生に横についてもらってオペをすることなんですよ。その分野でスキルの高い先生にオペをしてもらうのが歯科医の技術向上への近道でもあると思います。
先生のインプラント実績は年間700本だそうですね。
骨が十分にある状態のところに
インプラントを埋めていくというベーシックな技術は、
インプラント治療の発展に伴い、今ではとても安全に治療を受けることが可能です。
ただ、
インプラント治療の本当のスキルというのは、
骨が薄かったり、高さが足りなかったり、上顎洞までの距離が近かったり、そのままではインプラントを入れられないときに、骨をどのように造っていくかということだと思っています。
たとえば、上顎洞(上顎の奥歯の歯槽骨上部にある空洞)を見てみると、骨の厚さが2mm、3mmという方も大勢いらっしゃいます。もちろんその状態では
インプラント治療ができません。そこで、
そこに骨を増やすことができるかどうか、そういう技術が求められるんです。骨造成をすれば、たいがいの患者さんに
インプラント治療が可能になります。
インプラントを埋入するために骨を厚く、増やす技術が求められるわけですね?
そうです。歯の状態にもよりますが、たとえば抜歯をした場合、埋まっている骨の幅が半年くらい経つと、2分の1から3分の2くらいに厚さが減ってしまうんですね。
円柱形の
インプラントは直径4mmが標準的な太さで、骨が4mmより薄いと
インプラントを埋められない。また4mmの
インプラントを埋めたとき、両脇にある程度の骨の幅の余裕がないといけないので、骨の厚さが4mmくらいだったら、4mmくらい厚さを増やした上で
インプラントを入れるわけです。
現状のままでは
インプラントを入れられないとき、どのようにして骨を増やしていけばいいのか?私はそれを学ぶためにスウェーデンに行ったのですが、その
骨造成のスキルこそがインプラントのスキルだと思っています。
骨の量や厚さは年齢で異なるのですか?
年齢というより、
歯の状態によりますね。
義歯の人が
インプラントに替えたいという場合、
義歯を長く使っていると、歯茎の中にある骨がやせてしまうんですよ。ですから、
総義歯(総入れ歯)を長く使えば使うほど、骨が少なくなっていくんです。
抜歯の直後に
インプラント治療をする場合と10年
義歯を使った後に
インプラント治療にする場合だと、
後者のほうが骨造成をしなければならないケースが圧倒的に多いですね。
なるほど。では、とりあえず義歯を使うよりすぐインプラントにすべきでしょうか?
とりあえず
義歯という選択はいいけれど、もしも患者さんが
インプラント治療を受ける意思があるならば、義歯を長期間使い続けないほうがいいと思いますね。骨造成が必要になると、手術が1回増える場合もありますので、
インプラントにするなら早い方がいいですね。
骨造成による可能性は大きいですね。
ただし、骨を増やすといっても限度がありますので、
必ず骨造成が可能とは言い切れません。自分の骨を取って移植するケースもありますが、患者さんに負担がかかりますので、やはり人工的な
骨造成の流れにはなりますね。
松川先生にお話を伺ってみて、インプラント治療を決意しても、飲み薬の副作用が原因で手術を迷うことになったり、インプラント治療のために骨を増やす治療が必要になったり、想定外のことに直面するかもしれないことがよくわかりました。そして、インプラント治療をする上で最も大事なことは、歯科医の技術。外科のスキルが高いところでインプラントのトレーニングを受けられた松川先生のような歯科医を選ぶことが大切だと実感しました。インプラントを検討されている方は、まず阿佐谷北歯科クリニックのカウンセリングを受けてみてはいかがでしょう。
医院情報
阿佐谷北歯科クリニック
所在地 |
〒166-0001
東京都杉並区阿佐谷北1-5-6
西友阿佐谷ビル6F
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アクセス |
JR中央本線 阿佐ヶ谷駅 北口 徒歩2分 |
診療内容 |
インプラント 虫歯治療 歯周病治療 矯正歯科 他 |