見逃されやすい「腹部大動脈瘤のサイン」とは?『お腹以外の部位』に症状が出ることも【医師解説】

腹部大動脈瘤は、初期段階ではほぼ無症状ですが、大きくなるにつれて他の病気と似た症状が現れることがあります。胃や腸を後方から圧迫することで生じる食欲不振や早期膨満感は、胃腸の病気と混同されやすく、原因が見つからないまま経過することも少なくありません。また、瘤の内部で生じた血栓が足の血管へ流れ込むことで、足先のしびれや冷感といった症状が現れる場合もあります。こうした見逃されやすいサインを知り、早期受診につなげることが大切です。

監修医師:
本多 洋介(Myクリニック本多内科医院)
見逃されやすいサインと注意すべき症状
腹部大動脈瘤が発するサインには、他の一般的な疾患の症状と酷似しているものが多く、そのため原因が見過ごされやすいという側面があります。腹部大動脈瘤を早期に疑うためには、これらの非典型的な症状や、見逃されやすいパターンについて知識を深めておくことが、診断の遅れを防ぐ上で役立ちます。
食欲不振・消化器症状との混同
腹部大動脈瘤が大きく成長すると、その前方に位置する胃や十二指腸、小腸といった消化管を後方から圧迫することがあります。その結果として、原因不明の食欲不振や、食事をするとすぐにお腹が張る早期膨満感、吐き気、消化不良といった症状が現れることがあります。これらの症状は、一見すると胃炎や胃潰瘍、機能性ディスペプシアなどの胃腸疾患と区別がつきにくいため、消化器内科で胃カメラ検査などを受けても異常が見つからず、「原因不明」とされるケースも少なくありません。もし、このような消化器症状が長引いているにもかかわらず、検査で明確な原因が特定できない場合には、腹部大動脈瘤による圧迫が背景に隠れている可能性も考慮し、腹部の超音波検査やCT検査といった、血管を評価できる検査を追加で検討することが一つの有効な選択肢となります。
下肢の症状に現れるサイン
腹部大動脈瘤の内部では、血液の流れが正常な血管と比べて乱れやすく、よどみが生じるため、壁に沿って血栓(けっせん:血液の塊)が形成されやすい環境にあります。この壁在血栓(血管の壁にこびりついた古い血の塊)の一部が剥がれ落ち、血流に乗って下流の足の血管へ流れて詰まってしまうことがあります(塞栓症)。その結果、足先が急に冷たくなったり、しびれたり、激しい痛みに襲われたり、皮膚の色が蒼白や暗紫色に変化したりといった、急性動脈閉塞症の症状が現れることがあります。また、微小塞栓による足趾の青紫色変色は「ブルー・トゥ・シンドローム」とも呼ばれます。こうした下肢への血流障害は、閉塞性動脈硬化症といった末梢動脈疾患の症状とも重なるため、原因の特定には専門的な評価が不可欠です。原因不明の足の症状と、腹部の違和感や拍動感が同時に存在している場合は、両者の関連を疑い、循環器内科や血管外科への相談が特に有益です。
腹部大動脈瘤の診断に用いられる検査
腹部大動脈瘤が疑われた場合、あるいはスクリーニング検査で発見された場合、正確な診断と詳細な評価のために、いくつかの画像検査が行われます。どのような検査によって診断が確定し、治療方針が立てられるのかを知っておくことは、受診への不安を和らげ、医師の説明をより深く理解する上で役立ちます。
超音波検査(エコー)の役割
腹部超音波(エコー)検査は、腹部大動脈瘤の診断における第一選択の検査です。痛みや放射線被曝の心配がなく、身体への負担が極めて少ないのが大きな利点です。外来の診察室などで比較的簡便に行うことができ、体表にプローブと呼ばれる超音波を発する器具を当て、その反射波を画像化することで、腹部大動脈の形状や直径をリアルタイムで観察・計測します。スクリーニング検査として非常に優れており、多くの場合はこの検査で瘤の有無を確認できます。ただし、腸管内にガスが多く溜まっている場合や、皮下脂肪が厚い肥満体型の方では、超音波が深部まで届きにくく、鮮明な画像が得られないことがあります。
CT検査による精密な評価
CT(コンピュータ断層撮影)検査は、腹部大動脈瘤の診断を確定し、その詳細な解剖学的情報を得るために不可欠な精密検査です。特に、腕の静脈から造影剤を注入しながら撮影する「造影CT検査」は、血管の内部を鮮明に描き出すことができ、瘤の正確な最大径、長さ、形状(瘤が袋のように一部だけ飛び出している『嚢状(のうじょう)』か、血管全体がラグビーボールのように膨らんでいる『紡錘状(ぼうすいじょう)』か))、壁在血栓の有無、そして腎動脈などの重要な分枝血管との位置関係を立体的に評価することが可能です。これらの情報は、手術(人工血管置換術やステントグラフト内挿術)の適応を判断し、具体的な治療計画を立てる上で絶対に必要な情報源となります。近年では、撮影したデータをコンピュータで処理し、3次元(3D)の立体画像として再構成することで、外科医が手術のシミュレーションを行う上でも活用されています。MRI検査も有用な情報を得られますが、空間分解能や検査時間の観点から、腹部大動脈瘤の評価においてはCT検査がより広く標準的に用いられています。
まとめ
腹部大動脈瘤は、その多くが自覚症状に乏しいまま進行するという点で、まさに「見えにくい病気」であり、だからこそ怖いのです。しかし、本記事で解説したように、お腹の拍動感や原因不明の腹痛・腰痛、下肢の血流障害など、身体は時に重要なサインを発してくれます。これらのサインに早期に気づき、病気の可能性を疑うことができれば、破裂という最悪の事態を回避し、適切な診断と治療につながる可能性が大きく広がります。特に、喫煙歴のある高齢男性など、リスク因子を持つ方は、症状がなくても定期的に腹部エコー検査などのスクリーニングを受けることを強くお勧めします。もし気になる症状がある場合は、決して放置せず、かかりつけ医、あるいは循環器内科や血管外科といった専門の診療科に相談してください。あなたの大切な命を守るために、まずは正しい知識を持ち、勇気を出して専門家への相談という一歩を踏み出してみてください。
