「多血症」になる原因をご存じですか? 放置するとどうなる?【医師解説】
「血液が濃い」と診断された場合、多血症の可能性があります。この状態を放置すると、血栓ができて心筋梗塞や脳梗塞など命に関わる疾患につながることがあります。多血症の原因には脱水症状や慢性疾患、遺伝子変異などが含まれます。この記事では、多血症の診断基準や原因、放置するリスクについて医師の渡邉先生が詳しく解説します。適切な対処法を知り、健康管理に役立てましょう。
監修医師:
渡邉 健(ハレノテラスすこやか内科クリニック)
編集部
血液検査で「血液が濃い」と指摘されました。これはどういうことでしょうか?
渡邉先生
・赤血球数:血液1マイクロリットルあたりの赤血球の数
・ヘモグロビン:全血液中のヘモグロビンの量を測ったもの。低くなると貧血と診断される
・ヘマトクリット:全血液中の赤血球の容積率。つまり、血液中に赤血球が占める割合(%)のこと
編集部
これらの数値がどれくらいだと、「血液が濃い」となるのですか?
渡邉先生
男性:ヘモグロビン>16.5g/dl、またはヘマトクリット>49%
女性:ヘモグロビン>16.0g/dl、またはヘマトクリット>48%
なお、生まれつき赤血球に異常がある人(サラセミアなど)もいるため、赤血球数は多血症の定義には入っていません。
編集部
なぜ、多血症になるのですか?
渡邉先生
多血症の原因を考える前に、まずは「相対的な多血症」を除外する必要があります。
編集部
相対的な多血症とはなんですか?
渡邉先生
オレンジジュースで考えると、わかりやすいと思います。オレンジジュースに含まれる果汁が多ければ多いほど濃い味になり、水が多ければ薄い味になります。これと同じで、脱水症状で採血をしたとき血漿(けっしょう)成分が少なければ血液が濃縮しているということになり、多血症と判断されます。
編集部
なぜ、脱水症状になるのですか?
渡邉先生
例えば、嘔吐や下痢をした後に採血すると、体内の水分量が減少しているため多血症になることがあります。健康診断のときには前夜から水分の摂取量が制限されることが多く、相対的な多血症になることがあります。
編集部
相対的な多血症を除外すると、どのような原因が考えられるのでしょうか?
渡邉先生
相対的な多血症を除くと「真の多血症」となり、本当にヘマトクリットが増えた状態となります。この場合には、2つの原因が考えられます。1つ目は「造血機能以外に原因がある場合」です。主に2タイプあり、まず「低酸素が原因になっている場合」が考えられます。例えば、睡眠時無呼吸症候群などが原因となって体内が低酸素の状態になっていると、体は酸素を運ぶヘモグロビンを増やして低酸素の状態を解消しようとします。タバコを吸う人も体内が低酸素になりやすくなっているため、ヘモグロビンが増えがちです。
編集部
「造血機能以外に原因がある場合」の、もう1つのタイプはなんですか?
渡邉先生
「エリスロポエチンを過剰に作ってしまう場合」です。赤血球の産生を促すエリスロポエチンは、腎臓で作られるのですが、この腎臓が低酸素の状態になるとエリスロポエチンが過剰に作られ、多血症になります。また、エリスロポエチンは肝細胞がん、腎がん、血管芽腫、褐色細胞腫、子宮筋腫などの腫瘍によっても作られ、このような疾患の場合にも多血症になりやすくなります。
編集部
多血症のもう1つの原因はなんですか?
渡邉先生
「造血機能そのものがおかしくなっている場合」です。2005年、赤血球のもとになる造血幹細胞において、主に「JAK2」という遺伝子に変異が起きると異常に赤血球が増えてしまうことが明らかになりました。JAK2に変異が起きると、造血の指令を伝える物質がなくてもずっとその指令が出し続けられている状態になり、赤血球などの血液細胞が過剰に増殖してしまうのです。年間で10万人に2人程度と非常に稀ではありますが、真性赤血球増加症など骨髄増殖性腫瘍における重要な要因となっています。
編集部
ほかにも、疑われる病気はありますか?
渡邉先生
睡眠時無呼吸症候群のほか、慢性閉塞性肺疾患(COPD)も慢性的な酸素不足を招くため、多血症を起こしやすくなります。慢性閉塞性肺疾患の患者数は世界的に死亡率、罹患率が増加しており、2021年の日本人男性の死因では第9位でした。このような疾患を抱えている人も多血症には注意が必要です。
編集部
そのほかに多血症を招く要因はありますか?
渡邉先生
相対的な多血症の原因として、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病も関与していると言われています。いわゆるストレス多血症と言われる病態もこれにあたります。また、高血圧や糖尿病の治療で利尿薬やSGLT2阻害薬が使われることがありますが、これらの薬は脱水を招きやすいことから、多血症と関連性があると考えられているのだと思います。
編集部
多血症を放置するとどうなるのですか?
渡邉先生
多血症が進行すると赤血球濃度が上昇することで血液がドロドロになり、血管内で血栓を作ることがあります。とくに気をつけたいのは真性多血症で、血栓症が命に関わる病態になり得ます。
※この記事はMedical DOCにて【健康診断で「多血症」と診断された場合の原因・対処法を医師が徹底解説】と題して公開した記事を再編集して配信しており、内容はその取材時のものです。