腸閉塞の症状や原因、治療法とは?
腸閉塞(ちょうへいそく)とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
監修医師:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医。日本認知症学会、抗加齢医学会、日本内科学会などの各会員。
目次 -INDEX-
腸閉塞(イレウス)とは
村上先生の解説
従来は、日本では腸閉塞=イレウス(ileus)として扱い、腸閉塞を英訳するとileus(イレウス)と併記されている日本語の教科書も多かったのですが、実際は異なります。
近年は、腸閉塞とイレウスは異なる疾患概念であることが周知されはじめ、言葉を使い分けることが推奨されています。
「イレウス(ileus)」とは、腸管麻痺によって腸管蠕動が低下している状態で、機械的な閉塞がない状態(without any mechanical obstruction)を指します。
一方、「腸閉塞」とは、腸管内腔が機械的に閉塞する状態のことでbowel Obstructionと英訳されます。
腸閉塞には、緊急手術が必要な腸閉塞と、保存加療で補液・減圧治療する腸閉塞とがあります。この違いは、腸管への血流が保たれているかどうかの差ですが、血流は時間経過で容易に変化します。そのため、腸閉塞の患者さんを診療するときには、血流がしっかり保たれているかどうかの評価は頻回に行う必要があり、もし虚血に陥った場合はすぐに緊急手術を行う必要があります。
一方、腸管麻痺が原因のイレウスでは血流は保たれていることが前提であり、輸液・減圧治療がメインとなるため治療方針が異なります。そのため、実臨床では、イレウスという言葉は腸管麻痺に限定して使用するよう使い分けることとなっています。
腸閉塞はどんな症状が現れるの?
腸閉塞は何かしらの原因で腸管内腔が閉塞(機械的閉塞)することで発症します。
腸閉塞の症状は腹痛、腹満、嘔吐、排ガス停止などです。腸管虚血に陥った場合はさらに強い腹痛、冷汗、頻呼吸などが見られます。
一般的には、嘔吐がよく見られる症状で、食後に頻回に嘔吐してしまう、嘔吐しても嘔気がとまらない、といった症状で来院されます。
村上先生の解説
血流が保たれる単純性腸閉塞では腹痛がない方もいますが、お腹が張って腸管蠕動の波とともに痛みが強くなったり弱くなったりする腹痛(間欠的腹痛)を訴える患者さんが多く見られます。
虚血に陥る絞扼性腸閉塞では、持続的な強い腹痛を訴え、少しお腹を押しただけでも激しい痛みが生じます。
腸閉塞の原因は?
単純性腸閉塞の原因でもっとも多いものが、術後の癒着による小腸閉塞です。腸管が屈曲したまま癒着してしまうことで発症します。その他にも異物によるもの、食べ物によるものなどもあります。大腸の単純性腸閉塞で多いものは、悪性腫瘍による閉塞、便秘による閉塞などです。
絞扼性腸閉塞では、ヘルニア嵌頓狭窄、大腸軸捻転、腸重積などが原因になります。
癒着性腸閉塞では開腹手術歴のある患者さんに発症する可能性が高く、注意が必要です。
腸閉塞の初期症状や前兆
腸閉塞は、腸管の内腔が何かしらの原因で閉塞することで腸管内容物が移動できなくなることでおこります。閉塞部位から口側(上流)の腸管内に、多量の消化物・ガスが充満します。そのため単純性腸閉塞の初期症状としては、嘔気・嘔吐が多く、腸管拡張による腹満が現れます。
絞扼性腸閉塞も同様ですが、単純性腸閉塞と違い腸管虚血に陥ることもあります。そのため嘔気などがあらわれる前に急激な腹痛が起こる場合もあります。
村上先生の解説
嘔気嘔吐が続く、急に腹痛が出現したなどの場合には、消化器内科への受診をお勧めします。
腸閉塞になりかけの段階で現れる症状
腸閉塞になりかけた場合とは、不全閉塞という状態です。スムーズに腸管内腔を消化物が通過できないため、腸管内圧が高まり腹痛や腹満感が出現します。また排ガスの頻度が少なくなること、嘔吐まではいかないものの食思不振や嘔気が出現することなどが考えられます。
村上先生の解説
普段よりガスが出にくい、腸管蠕動に伴った腹痛があるなどの場合は、注意が必要です。
おならが止まらない症状と腸閉塞の関係
おならが止まらないことと腸閉塞に関係はありません。
腸閉塞の症状の一つに、おならが出なくなることがあります。これは腸管閉塞により通過障害をきたすため、ガスも通らなくなるからです。
村上先生の解説
止まらないくらい程度でおならがよく出ている場合は、腸管蠕動が良好で通過障害もない状態であるため、腸閉塞の心配はありません。
腸閉塞の検査方法・診断方法は?
村上先生の解説
腸閉塞を疑う場合には、腹部レントゲン検査、腹部CT検査、腹部超音波検査を行います。
腹部単純レントゲン検査が最もよく行われる検査で、腸閉塞に特徴的なレントゲン所見(鏡面像)の有無を検索します。ただし、ガスが少なく液体貯留ばかりの状態では、鏡面像が形成されないこともあります。
超音波検査もレントゲン検査と同様に、簡便にできる検査です。腸管拡張や血流評価などが可能ですが、ガスが多いと超音波検査では評価困難です。
最も信頼性が高い検査が腹部CT検査です。造影剤を用いる造影CTを行うことで、血流評価、閉塞部位の特定、原因検索まで含めて可能です。
各々に必要な検査時間は、5分~30分程度で結果は速やかに判明します。
腸閉塞の治療方法・手術の必要性
腸閉塞の治療方法は、原因によってさまざまです。
癒着によって単純性腸閉塞がおこっている場合は、絶食・補液で腸管安静をたもち、経鼻胃管やイレウスチューブを挿入して腸管減圧を行います。1日で改善するものから、1週間程度必要とするものまで様々です。
単純性腸閉塞だが、原因に腹腔内の索状物が関与している場合などは、保存治療では治癒せず、待機的手術を行います。
絞扼性腸閉塞として虚血を疑う状況にあった場合は、原因によらず虚血の原因を解除するための緊急手術を行います。
悪性腫瘍が原因で腸閉塞を来している場合には、大腸内視鏡を行いステントと呼ばれる管腔を広げる道具を留置させる治療も検討されます。
村上先生の解説
原因によって完治が望めるものから、一時的な解除しかできないものまであり、治療方針の決定には担当医とよくコミュニケーションをとる必要があります。
腸閉塞による死亡の可能性は?
腸閉塞でも、腸管壊死を伴う絞扼性腸閉塞は死亡率が高い疾患です。
絞扼性腸閉塞を含む急性汎発性腹膜炎の全体の死亡率は、術後30日死亡率は8.8%、入院死亡率は14.1%とされます。
村上先生の解説
特に、高齢者や心肺などに既往症のある患者さんでは、死亡率が高くなる傾向があります。
腸閉塞症状が悪化する前に、早めに診断・治療を受けることが何より大切になります。
腸閉塞の予防方法
腸閉塞を完璧に予防する方法はありません。原因によっては、自分では避けようのない腸閉塞もあります。その中でもできるだけ起こしにくくする方法をご紹介します。
基本的に、開腹術後に食事の制限はなく普段通りの生活を送っていただけるようになりますが、癒着性腸閉塞を繰り返している場合には食事に注意を払っていただきたいです。
その他、大腸がんによる腸閉塞などをさけるためには定期的な検診が必要です。
腸閉塞予防の食事編
消化が悪いもの、脂っこいものはできるだけ控え食べ過ぎないようにしましょう。
消化が悪い食べ物の代表は、きのこ、貝類、ナッツ、柿などがあり、それらを食べる時はよく噛むことが大切です。
脂っこい食べ物は、天ぷら、から揚げなどの揚げ物です。
村上先生の解説
栄養素に注目すると、不溶性食物繊維を多く含む食品は控えたほうがいいです。食物繊維は、大きく分けて水溶性と不溶性にわかれ、不溶性食物繊維は繊維自体が水にとけずつまりの原因になります。不溶性食物繊維を多く含む食品は、豆類、ごぼう、きのこ類などがあります。
腸閉塞予防の生活習慣編
自分で予防ができる腸閉塞には、大腸がんによる腸閉塞や、糞便による腸閉塞があります。
村上先生の解説
検診を受けることで大腸がんが進行する前に発見する、日々の排便状況に気を使い過度な便秘をさけることで発症をさけることが可能です。
まとめ
今回は腸閉塞を中心にまとめました。腸閉塞という言葉は有名ですので聞いたことある方も多くいると思いますが、実はとても奥深い病気です。普段は縁遠い病気ですが、誰しも腸閉塞になる可能性があります。嘔気嘔吐が止まらない、おなかが痛いなどの症状で悩んだときは、医療機関を受診しましょう。