髄膜腫の症状や原因、治療法とは?
髄膜腫とはどんな病気なのでしょうか?その原因や、主にみられる症状、一般的な治療方法などについて、医療機関や学会が発信している情報と、専門家であるドクターのコメントをまじえつつ、Medical DOC編集部よりお届けします。
この記事の監修ドクター:
村上 友太 医師(東京予防クリニック)
髄膜腫とは
髄膜腫とは脳腫瘍の一つです。脳腫瘍のなかでは比較的多くみられるもので、脳腫瘍の25%程度を占めます。
以前は、何らかの症状があって見つかることがほとんどでしたが、最近は、脳ドックの普及により無症状でも偶然にみつかる患者さんも多くなりました。
女性に多く認められ、90%以上は良性腫瘍です。
多くは、脳実質外に存在しており、腫瘍サイズが大きくなると脳や神経を外側から圧迫します。
なかには、脳表面を覆う軟膜を破壊し、脳浮腫や脳内伸展を認めたり、頭蓋骨に浸潤したり、多発したりする場合があります。
どんな症状が現れるの?
腫瘍のサイズが小さい場合には、ほぼ無症状です。
腫瘍が大きくなると、脳を圧迫することなどによって、腫瘍のできる場所によって異なる症状や、どのタイプでも起こる症状が出現します。
①腫瘍の場所によって異なる症状とは
脳には場所によって、それぞれ特有の機能があります。そのため、腫瘍ができる場所によって、付近にある特定の脳機能が障害されます。例えば、運動野という脳の場所が圧迫されると、手足の運動麻痺が生じます。また、脳への圧迫が刺激となって、てんかんを起こすこともあります。
②どの場所にできても起こる症状とは
脳は、頭蓋骨という硬い骨に囲まれて、限られた空間(頭蓋内)の中で守られています。そこに、余分なもの(腫瘍)ができるために、腫瘍が大きくなると正常な脳は圧迫されて、頭蓋内圧(脳圧)が高くなります。これを頭蓋内圧(脳圧)亢進といい、吐き気、嘔吐、頭痛などが生じて、1日のうちで朝起きたときに症状が強く出るという特徴があります。
ただし、髄膜腫が大きくなることで、正常脳を圧迫して頭蓋内圧(脳圧)が高まると、頭蓋内圧亢進症状として頭痛を感じることはあります。
髄膜腫の原因は?
明らかな原因は判明していません。小児に発生することは珍しく、中年以降の女性に多いといわれています。
髄膜腫を発症した女性のうち、発症前から女性ホルモンの投与を受けていた人に多かったという報告もあることから、女性ホルモンが発生に関わる可能性が考えられています。
また、遺伝や頭部への放射線治療歴の影響なども要因として考えられています。
現在はまだ研究段階ですが、このような遺伝子異常の発見によって、摘出が難しい腫瘍や再発を繰り返す腫瘍に対して、将来的に薬物療法(抗がん剤治療)の治療ターゲットになることが期待されています。
髄膜腫の検査法は?
頭部MRI検査や頭部CT検査といった頭部画像検査を行った際に見つかります。
また、頭蓋内全体や腫瘍付近の血流動態を詳しく知るために、カテーテルをつかった脳血管撮影検査を行うこともあります。
詳細な画像検討によって、良性か悪性かの予想を含めて腫瘍の性状を知ることが可能です。
しかし、あくまで画像診断なので、手術後に髄膜腫ではなく異なる腫瘍であることが判明することもあり得ます。
確定診断は、外科的手術で腫瘍を摘出して病理検査を行なった上で行われるからです。
髄膜腫の治療方法
髄膜腫は脳神経外科で治療を行います。
髄膜腫は、薬のみでは治療できません。選択肢としては、経過観察か、外科手術か、放射線治療です。
髄膜腫が見つかったら必ず手術を行うというものではなく、無症状なもの、小さいものは治療の必要が無い場合も多いのが実際です。
基本的に、以下の場合に手術を勧められることが多いと思われます。
・何らかの症状を出している場合
・無症状であっても、年齢が若く、将来的に大きくなることが予想できる場合
そのほか、腫瘍の場所、サイズ、年齢、全身状態などが治療方針を決める要素になります。
ほとんどが良性腫瘍である髄膜腫は、外科手術によって腫瘍と腫瘍の発生母地(髄膜)を全摘出することで、再発や症状発現のリスクを低く抑えることが期待できます。そのため、症状が出ている場合は、外科手術が第一選択になります。
放射線治療は、最大径3cm以下の腫瘍である際に考慮されます。脳深部の腫瘍であれば、手術の難易度が高いため、放射線治療が有用になりますが、脳表面であれば、手術で摘出した方が良い場合もあります。
髄膜腫の摘出手術
通常、全身麻酔をかけて開頭手術(頭の骨を開けて行う手術)を行います。
手術の難易度は、腫瘍の場所や大きさ、周囲の重要構造物(血管や神経)との関係などによって大きく異なります。
手術時間は4−10時間程度が目安となりますが、特に頭蓋底部や脳深部にできる髄膜腫は非常に難易度が高くなり、1日がかりになることもあります。
開頭手術は、顕微鏡を用いて行います。脳の手術を行うために開けた頭の骨は、腫瘍摘出の操作が終わったら、専用の金属を用いて元の位置に固定します。骨はしっかり固定するので強度はありますが、強い頭部打撲には注意しましょう。
予定手術の場合には、髪の毛を全部剃ることはなく、部分剃毛といって頭の骨を開けるために必要な部分のみ毛を剃ります。時間が経って周りの髪の毛も生えてくると、傷はほとんど目立たなくなります。
手術翌日から食事をとって、少しずつ体を動かすようにしていきます。手術後3日目頃から傷周辺は腫れますが、1週間経過すると腫れはひいてきます。
皮膚を縫合した部分は、約1週間後に抜糸・抜鉤します。経過が問題なければ1−2週間後に退院となります。退院後は、外来に通院して、症状経過と頭部画像検査を評価していきます。
仕事への復帰などは、主治医と相談して決めていくことになります。
腫瘍の性状によっては、血流豊富であるために、手術で腫瘍を摘出する際に、出血量が多くなって輸血が必要となり、手術時間も長くなることで、患者さんの負担が増えてしまいます。
カテーテル手術は、足の付け根から針を刺してカテーテルという細い管を挿入し、頭の血管まで進めます。そして、腫瘍の栄養源となっている血管を塞栓物質でつまらせて、腫瘍の血流を減らすという治療です。
これは、全例には行わず、サイズが大きく血流豊富な腫瘍であるときに考慮します。
髄膜腫の予防方法
現時点では、明確な予防方法はありませんが、髄膜腫の場合には、早期発見・早期治療が良い結果をもたらすケースがあります。
一般的に、髄膜腫はサイズが小さく、症状がなければ経過観察になることが多いのですが、蝶形骨縁髄膜腫内側型は、見つかった段階で早めの手術をお勧めします。
なぜなら、視神経や内頚動脈などといった重要構造物が近くにあるため、手術を行う際に、これらの構造物にダメージを加えると視機能異常などの合併症が起こるからです。
そのため、腫瘍のサイズが大きくなって手術の難易度も上がる前に、無症状であっても早期に手術をお勧めすることになります。
原発性脳腫瘍の発生頻度は、1年間に人口1万人あたり1人といわれており、多くありませんので、脳ドックを毎年受ける必要はありません
脳ドックは、脳腫瘍だけではなく、脳血管障害の存在も評価できます。これまで頭の検査を行ったことがない、あるいは、親戚で頭の病気を指摘された人がいる、という40−50歳以降の方であれば、一度受けることを検討しても良いでしょう。
髄膜腫の後遺症
後遺症が残ることを恐れて、手術に前向きになれない患者さんはいます。しかし、腫瘍であるという特性上、増殖スピードは個々人で異なるものの、時間経過とともに少なからず大きくなります。
手術によって麻痺症状などがどの程度回復するかは、腫瘍のサイズやどの程度脳を圧迫していたか、腫瘍と脳が癒着していたか、などによって条件が異なるため、一概に言えません。
髄膜腫によって圧迫されて症状が出ている場合は、その症状が後遺症として残る可能性があります。それに加えて、手術前には無症状だったのに、手術後に症状が出現して後遺症として残ってしまうということもあります。
どのくらいリスクがあるのか、執刀医から十分に説明を受けてください。
詳細な画像検査を行って、腫瘍を摘出する上で、腫瘍の性状および、周囲の血管や神経と言った解剖学的な問題点を把握します。解剖学的に腫瘍の位置が脳機能にとって重要な場所に近ければ、手術後にどんな後遺症が残る可能性があるか、予想できるのです。
臨床検査所見以外に、患者さんの年齢や病状、希望などいろいろな情報を総合的に検討します。どうすれば安全に腫瘍を摘出できるかを優先的に考えますが、「後遺症は出現しても仕方ないけれど腫瘍の摘出を優先しよう」という戦略を立てざるを得ないこともあります。
後遺症を和らげる方法
手足の運動麻痺が生じる、言葉をうまく話せないなどの症状がある場合には、入院中からリハビリ治療を開始し、必要な期間にわたって継続します。後遺症の重症度は、脳のダメージを受けた場所や程度によってさまざまです。
また、退院後にてんかん発作を起こす場合もあります。けいれんを繰り返す、ボーッとしていつもと様子が異なる、などの症状がみられます。てんかんが起こった際には、抗てんかん薬を服用することになります。薬を服用すると発作の頻度は減りますが、発作が完全になくなるとは言い切れないため、一定期間は車の運転ができません。
てんかん発作は、薬の飲み忘れが続いたときや、疲れがたまったときなどに起こりやすくなります。そのため、しっかり薬を飲むことと疲れを溜めず体調を崩さないように生活することが大切です。
まとめ
一口に髄膜腫といっても、個々の患者さんのケースによって、腫瘍の場所やサイズなどによって手術の難易度や手術に伴うリスクも大きく異なり、手術の方針にも影響します。
治療方針については、担当医・執刀医とよく相談の上、決めていくのが良いでしょう。