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噛み合わせが安定しない原因とは?健康へのリスクや正しい噛み合わせなどを解説

 公開日:2025/01/23

噛み合わせは、歯や顎、さらには全身の健康にも大きな影響を与えます。しかし、噛み合わせが安定しない場合、顎関節の負担や歯のすり減り、さらには姿勢や消化機能にまで悪影響を及ぼす可能性もあるのです。悪い状態を放置すると、慢性的な痛みや不調につながることも少なくありません。

本記事では噛み合わせが安定しないことについて以下の点を中心にご紹介します。

  • 噛み合わせが安定しないことによる健康リスク
  • 正しい噛み合わせとは
  • 不正咬合の種類

噛み合わせが安定しないことについて理解するためにもご参考いただけますと幸いです。ぜひ最後までお読みください。

噛み合わせが安定しない状態とは?

噛み合わせが安定しない状態とは?

噛み合わせが安定していない状態とは、どのような状態を指すのでしょうか。以下に詳しく解説します。

噛み合わせが安定しない状態

噛み合わせが安定していない状態とは、上下の歯が正しく接触せず、噛む力が効率的に分散されない状態を指します。この状態では、食べ物をしっかり咀嚼できないだけでなく、発音や飲み込み、顎関節、さらには身体全体のバランスにも影響を及ぼすことがあります。

噛み合わせの悪さにはさまざまなタイプがあります。例えば、奥歯でしっかりと噛めない場合や、噛み締めても歯と歯の間に隙間ができる状態が挙げられます。また、噛む位置が定まらないため、噛む際に使う筋肉が過度に緊張し、一部の筋肉に負担が集中してしまうこともあります。

これが原因で、顎関節に余計な負荷がかかり、顎関節症などの問題が生じるリスクも高まります。

噛み合わせが安定しないことによる健康リスク

噛み合わせが安定しないことによる健康リスク

噛み合わせが安定していない状態は、口腔内だけでなく、全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。

噛み合わせが安定しないことによる健康リスクを以下に詳しく解説します。

むし歯や歯周病

歯並びや噛み合わせが悪いと、むし歯や歯周病のリスクが高まる可能性があります。不正な歯列によって歯と歯の間に隙間ができると、食べカスやプラークが溜まりやすくなり、日々の歯磨きでは十分に清掃しきれない部分が増えるためです。歯が重なり合う叢生(そうせい)の場合、歯ブラシが届きにくく、汚れが蓄積しやすくなります。

また、噛み合わせが不適切だと、特定の歯や歯周組織に過度な負担がかかり、歯周病が進行するリスクが高まります。このような状態を放置すると、歯を支える骨や歯茎がダメージを受け、最悪の場合は歯を失う可能性もあります。

顎関節症

上下の歯の接触関係が適切でない不正咬合は、顎関節に余分な負担をかけ、顎関節症を引き起こすリスクを高める可能性があります。特に、奥歯の噛み合わせが不安定だと、片側に力が偏ることで、歯ぎしりや食いしばりが生じ、顎関節に炎症や変形をもたらす恐れがあります。

また、関節円板の位置がずれるなどの症状が現れることもあります。顎関節症の代表的な症状には、以下のようなものがあります。

  • 顎の痛みや不快感
  • 頭痛
  • 耳鳴りや耳周辺の違和感

これまで、噛み合わせの不良が顎関節症の主な原因と考えられてきましたが、近年では因果関係が必ずしも明確でないとする声も上がっています。

肩こりや頭痛

不正咬合による顎関節や咀嚼筋への過剰な負担は、肩こりや頭痛の一因になることがあります。上下の前歯に強い力をかけて噛み締める癖がある場合、側頭部や後頭部の筋肉が緊張しやすく、緊張型頭痛を引き起こすことが指摘されています。

また、咬合の不調和が姿勢を崩し、肩こりや首の痛みを悪化させる可能性もあります。

胃腸障害

正しい噛み合わせは、食べ物を細かく咀嚼することで消化を助け、胃腸に負担をかけないために重要です。しかし、不正咬合があると咀嚼機能が低下し、食べ物が十分に細かく砕かれないまま胃に送られてしまいます。

よって、胃腸が必要以上に働かざるを得なくなり、胃もたれや消化不良、さらには便秘などの消化器系トラブルを引き起こす可能性があります。

また、奥歯の噛み合わせが悪い場合は、咀嚼効率が著しく低下するため、唾液と食べ物が十分に混ざらず、消化がスムーズに進まなくなることがあります。胃腸に過度な負担がかかり、栄養吸収の効率も低下してしまいます。

不明瞭な発音

歯並びや噛み合わせの問題は、発音に大きく影響を与えることがあります。特に前歯の不正咬合がある場合、「s」や「th」、「f」といった子音の発音が不明瞭になることがよくあるようです。発音には、舌、唇、歯が正しい位置に配置されることが不可欠ですが、歯列の乱れによりこれが難しくなることがあります。

例えば、上顎前突(出っ歯)の場合、上唇が前歯を適切に覆えず、空気が漏れることで「s」音が歪んで聞こえることがあります。また、開咬の場合、舌が前方に突き出やすくなり、「th」音の発音が困難になるケースもあります。

さらに、「さ行」や「た行」の発音も歯並びの影響を受けやすいと言われています。例えば「さ行」の音は、歯と歯の間から空気が漏れないことが重要ですが、すきっ歯や出っ歯の状態では空気が抜けやすくなり、音が不明瞭になることがあります。

「た行」の発音では、舌の先が上前歯の裏側に適切に当たる必要がありますが、歯並びが乱れているとその位置がずれ、正確な発音が難しくなることがあります。

顔の歪み

不正咬合は、単に噛み合わせの問題にとどまらず、顔の形やバランスにまで影響を及ぼすことがあります。噛み合わせが左右で異なる場合、一方の咀嚼筋(そしゃくきん)が過剰に発達し、もう一方が十分に使われないことで顔の左右差が生じることがあります。偏った筋肉の使い方が続くと、顔全体のバランスが崩れ、歪みが顕著になることがあります。

さらに、上顎前突や下顎前突など、顎の位置が前後にずれている場合、横顔のラインが乱れ、顔全体の印象に影響を与えることも少なくありません。顔の歪みは、見た目の問題だけでなく、心理的な負担や自信の喪失につながることもあります。

また、不正咬合による顔の歪みは、特定の歯に過度な負担がかかることや、一部の歯ばかりで咀嚼を行う習慣が原因となることがあるようです。改善するためには、適切な矯正治療を受けることが有効とされています。

精神的不調

噛み合わせは、口腔内の健康だけでなく、精神面にも深く関わっています。適切な噛み合わせでしっかり咀嚼することは、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンの分泌を促すといわれており、情緒の安定や集中力の向上に寄与します。

一方で、噛み合わせが悪い状態が続くと、脳への血流が減少し、ストレスやイライラを感じやすくなるだけでなく、集中力の低下や疲労感が増すことがあります。これが、病院での診断が難しい不定愁訴(ふていしゅうそ)の原因となる場合もあります。

また、ストレスが噛み合わせに影響を与えることも少なくありません。精神的な緊張が続くと、歯ぎしりや食いしばりなどの無意識の癖が生じ、噛み合わせがさらに不安定になることがあります。

よって、歯や顎への負担が増し、さらなる不調を引き起こす悪循環に陥ることがあります。噛み合わせの問題は外見や機能面のコンプレックスを生み、精神的な負担やストレスを引き起こすことがあります。

正しい噛み合わせとは

正しい噛み合わせとは

正しい噛み合わせとはどういった状態を指すのでしょうか?以下で解説します。

①上顎と下顎が左右対称

理想的な噛み合わせとは、上顎と下顎の歯列が左右対称であることが基本となります。上下の歯を噛み合わせたときに、中心線である正中線が一直線に揃っている状態が、健康的で美しい歯並びの基準とされています。左右対称性が確保されていることで、噛む力が均等に分散され、顎や歯への負担が軽減されます。

さらに、上下の歯列を比較すると、通常は上顎の歯が下顎の歯よりも少し外側に位置するのが自然です。上顎と下顎が左右対称であると、適切な咀嚼機能が維持され、食べ物を効率よく噛み砕くことが可能になります。

一方で、正中線がずれている場合や、左右の歯の高さや幅に大きな差がある場合、顎のバランスが崩れている可能性があり、噛み合わせや全体の健康に影響を与えることがあります。

②前歯部が適度に被覆している

理想的な噛み合わせの条件として、上顎の前歯が下顎の前歯を適度に覆っている状態が挙げられます。この関係は、オーバージェット(前後の位置関係)とオーバーバイト(上下の重なり具合)で確認され、どちらも適切な範囲に収まっていることが重要です。

具体的には、オーバージェットは2〜3mm程度、オーバーバイトは2〜4mm程度が理想とされています。例えば、軽く奥歯を噛み、お口を少し開けて「い」の形を作ったとき、鏡で確認すると、正面から見て上の前歯が下の前歯を2〜3mm覆い、横から見ても同じ程度の前後差があるのが正常な状態です。

これらの基準を超える場合、さまざまな噛み合わせの問題が生じる可能性があります。例えば、上の前歯が下の前歯を過度に覆うと「過蓋咬合(かがいこうごう)」、前後の距離が大きく離れると「上顎前突(じょうがくぜんとつ)」となり、いわゆる出っ歯の状態になります。
逆に、下の前歯が上の前歯より前に出ている場合は「反対咬合(はんたいこうごう)」、上下の前歯が噛み合わず隙間ができる場合は「開咬(かいこう)」と呼ばれます。

③上下の臼歯(奥歯)が安定している

奥歯である臼歯(きゅうし)は、食べ物をしっかりと噛み砕く咀嚼の中心的な役割を果たしています。そのため、上下の臼歯が正確に噛み合い、各歯の山と谷が適切に噛み合うことが重要です。これにより、食べ物を効率よく細かく砕くことができ、消化や栄養吸収を助けるだけでなく、顎や口腔内への負担も軽減されます。

歯並びが整っていると聞くと、前歯の美しい配列をイメージされることがあるかもしれませんが、実は奥歯の噛み合わせこそが、全体のバランスを支える鍵となります。奥歯が左右で均等にしっかりと接触していないと、咀嚼が不十分になり、食べ物をきちんと噛むことが難しくなるだけでなく、全身の姿勢やバランスにも悪影響を及ぼすことがあります。

奥歯の噛み合わせが不安定な状態が続くと、肩こりや頭痛などの全身的な不調につながる可能性もあります。そのため、矯正治療では奥歯の噛み合わせを正確に調整することが重視されます。

④滑らかな歯並びのアーチを形成している

理想的な噛み合わせには、歯と歯の間に隙間がなく、滑らかなアーチ状の歯列を形成していることが重要です。アーチ状の並びは「歯列弓(しれつきゅう)」と呼ばれ、上の歯列は下から、下の歯列は上から見たときにU字型やV字型、方形型などの形状を示します。なかでも、上下ともにU字型の歯列弓が機能的で美しいとされています。

滑らかな歯列弓があることで、食べ物を効率的に噛み砕くだけでなく、発音の明瞭さや口元の審美性にもよい影響を与えます。また、隙間なく整った歯列は、歯ブラシが届きやすく、歯周病やむし歯のリスクの軽減を手助けします。

不正咬合の種類

不正咬合の種類

不正咬合は歯列や顎の形に応じて異なるタイプに分類され、それぞれに特有の特徴と影響があります。以下で不正咬合の主な種類について解説します。

叢生(そうせい)

叢生とは、歯列弓のスペースが不足しているために、歯が正しい位置に並べず、重なり合ったりねじれたりしている状態を指します。「乱杭歯」や「八重歯」として知られ、見た目の審美性に影響を与えるだけでなく、口腔内の健康にも影響を及ぼします。

叢生は主に上下の前歯で見られることが多く、歯ブラシが届きにくい部位が増えるため、清掃が不十分になりがちです。その結果、プラークが溜まりやすく、むし歯や歯周病のリスクが高まります。この問題は、歯の大きさや顎の骨のサイズの不均衡が原因で発生することが多く、これらの特徴が遺伝的に引き継がれる場合もあります。

特に顎が狭い場合や歯が大きい場合に叢生が起こりやすく、歯列がデコボコと不規則な状態になりやすいです。矯正治療で歯列を整えることで、見た目の改善だけでなく、清掃性を向上させて口腔内の健康を守ることができます。

空隙歯列(くうげきしれつ)

空隙歯列とは、歯と歯の間に隙間がある状態を指し「すきっ歯」として知られています。
この不正咬合は、叢生とは逆に、歯列に十分なスペースがありすぎることで起こります。
これは上下の前歯に見られることが多く、見た目の悩みを引き起こす場合が少なくありません。さらに、発音が不明瞭になる、食べ物が隙間に挟まりやすいといった機能的な問題も伴うことがあります。

上顎前突(じょうがくぜんとつ)

上顎前突は、上顎の前歯が下顎の前歯に対して過剰に前へ突き出ている状態を指します。
「出っ歯」として知られている状態がこれに該当します。

前歯の上下関係が不均衡で、口元が前方に突出して見えるため、外見に対する悩みを引き起こしやすい不正咬合です。また、前歯を押し上げる癖やお口が閉じにくい状態(口唇閉鎖不全)、発音の不明瞭さなどの機能的な問題を伴うこともあります。

下顎前突(かがくぜんとつ)

下顎前突とは、下顎の前歯が上顎の前歯よりも前に出ている状態で「受け口」や「しゃくれ」といわれている不正咬合です。下顎前突は、上下の前歯が逆被蓋になり、見た目に影響を与えるだけでなく、咀嚼機能や発音、顎関節の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。

開咬(かいこう)

開咬とは、前歯が上下で接触せず、常に隙間が空いた状態を指します。「オープンバイト」とも呼ばれ、見た目だけでなく機能面にもさまざまな影響を及ぼします。

開咬では、前歯で食べ物をしっかり噛み切ることが難しくなるほか、舌が前方に出やすくなり、発音が不明瞭になることがあります。また、口元が閉じにくいため、口唇閉鎖不全が見られるケースも多く、審美面での悩みにもつながることがあります。

過蓋咬合(かがいこうごう)

過蓋咬合は、上顎の前歯が下顎の前歯を過剰に覆っている状態を指します。オーバーバイトが深くなりすぎており、下顎の前歯が上顎の歯茎に当たることで、歯肉が下がったり、前歯が不安定になって揺れることがあります。また、顎関節に負担がかかり、痛みや違和感といった症状が現れる場合もあります。

安定しない噛み合わせは治療しよう

安定しない噛み合わせは治療しよう

噛み合わせの問題は、適切な対応を行うことで予防や改善が可能とされています。爪を噛む、指しゃぶり、舌の癖、歯ぎしり、食いしばりなどの習慣は、噛み合わせに影響を及ぼす原因となるため、早めに改善を目指しましょう。

まとめ

まとめ

ここまで噛み合わせが安定しないことについてお伝えしてきました。
噛み合わせが安定しないことについての要点をまとめると以下のとおりです。

  • 噛み合わせが安定しない状態とは、上下の歯が正しく接触せず、咬む力が効率的に分散されない状態を指す。食べ物をしっかり咀嚼できないだけでなく、発音や飲み込み、顎関節、さらには身体全体のバランスにも影響を及ぼすことがある
  • 噛み合わせが安定しない原因は、むし歯や歯周病、顎関節症、肩こりや頭痛、胃腸障害が挙げられる。悪い状態を放置していると噛み合わせだけでなく、全身にも悪影響が及ぶ可能性がある
  • 正しい噛み合わせとは、上顎と下顎が左右対称である、前歯部が適度に被覆している、上下の臼歯(奥歯)が安定している、滑らかな歯並びのアーチを形成していることが挙げられる

噛み合わせが安定しない状態は、見た目だけでなく、日常生活や全身の健康にも影響を及ぼす可能性があります。適切な治療や生活習慣の改善を行うことで、快適な口腔環境を取り戻すことができるでしょう。

これらの情報が少しでも皆さまのお役に立てば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この記事の監修歯科医師
木下 裕貴歯科医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

木下 裕貴歯科医師(医療法人社団天祐会 副理事長)

北海道大学歯学部卒業 / 医療法人社団天祐会 副理事長 / 専門はマウスピース矯正、小児矯正

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