歯周病で早産の危険が高まる!?
こんにちは。日本歯周病学会専門医の武内崇博と申します。我が国では少子高齢化の波が進み、人口動態調査によると2018年に生まれた子供は91万8397人と過去最低を記録しました。合計特殊出生率は1.42と低下の傾向を辿り、各家庭1人ないしは2人の子供がいる計算になります。子供の数は減ってきていますが、逆に子供に対する教育方針・方法やダブルインカムによる子育てのあり方に注目が集まってきているように感じます。
ここ最近男性の育児休暇に関する記事をよく見かけます。厚生労働省は、令和2年までに現在の男性の育児休暇取得率を約2倍に上げることを目標に啓発活動を行っています。出生年齢も年々高齢化になる傾向にあり、それに伴う出産時のリスクや子供に残る障害なども注意しなければならない点であるといえます。
歯周病が国民の8割に罹患する人類最大の感染症であることは周知されてきました。しかし口腔内だけにとどまることなく、歯周病と糖尿病などの全身疾患との関連性も同様に注目されています。歯周病と早産・低体重児出産も関連があるとされており、現在も研究が行われております。そこで今回は歯周病と早産・低体重児出産についてお話しをしていこうと思います。
執筆歯科医師:
武内 崇博(みなきたデンタルクリニック)
目次 -INDEX-
歯周病はどんな病気?
歯周病はそもそもどんな病気でしょうか。歯は骨や歯肉など歯周組織と呼ばれる4つの組織に支えられています。歯周病はその歯周組織に起きる炎症性疾患で、病状のステージにより歯肉炎・歯周炎に分かれています。原因は歯にこびりつく歯垢・プラーク内の細菌です。口の中には500種類以上の細菌がいるとされていますが、歯周病の原因になる細菌は特定されており、その細菌の感染に対する自身の免疫反応により歯肉が腫れたり、出血を引き起こし、進行すると歯を支える骨が溶けてしまい、最終的に骨の支えのなくなった歯は抜歯の運命を辿ることとなります。感染してすぐに痛みなどの症状が出るならば予防することは可能かと思いますが、歯周病の恐ろしいところは自覚症状がでにくいことです。気付いたら重症化していることが多く、抜歯の原因因子として最も高い割合を占めています。予防や治療には日々のブラッシングと歯科医院での専門的な清掃が不可欠です。進行した場合は外科手術を伴い、失った歯周組織への再生療法も広く臨床の場で行われています。治療には大変長い年月がかかるため、早期発見・早期治療により早い段階で食い止めることが必要です。また、糖尿病や脳血管疾患、心疾患などの全身疾患と関与することも報告されており、さらには早産・早期低体重児出産とも関連性があるといわれています。つまり歯周病は口腔内だけにとどまる疾患ではなく、全身疾患としてとらえる考え方に変わりつつあります。
早産・低体重児出産とは
では早産・低体重児出産とはどのようなことを指すのでしょうか。通常は妊娠37週から42週で出産するのに対し、早産とは“妊娠22週以降37週未満の分娩”を、低体重児出産とは“2,500g未満の新生児の出産”をさす妊娠トラブルの一つで、子供の成長発育に影響を及ぼす場合があるとされています。リスクファクターとして出産時の母親の年齢や喫煙、飲酒、麻薬、人種などがあるとされていますが歯周病もそのリスクファクターの一つとして数えられるようになりました。一見関係なさそうな歯周病との関係ですが、次の項で詳細に述べていこうと思います。
歯周病と早産・低体重児出産との関係
歯周病と早産・低体重児出産の関連性は1996年にアメリカで初めて報告されました。国内では切迫早産の妊婦と通常出産の妊婦の歯周病の状態を比べると、切迫早産の妊婦の方が歯周病にある傾向にあり、更に歯周病の原因菌が多く検出されたと報告されています。もちろんそれとは反対に早産と歯周病に関連性はないとする報告もありますが、多くの論文をまとめて比較する研究によると、歯周病の早産・低体重児出産の危険率は2.83倍であることが明らかになっており、リスク因子として十分に成り立つといえるでしょう。しかしまだ確定とするには研究段階にあり、より大規模な研究が必要とされています。
ではなぜ歯周病が早産・低体重児出産に影響を与えるのでしょうか。そこには2つのメカニズムが関与するといわれており、歯周病による炎症性物質の上昇と産科器官への歯周病原細菌の直接感染が関わっているとされています。いずれにせよ歯周病の予防・治療が安全な出産の可能性をあげることは間違いなさそうです。
予防するにはどうしたらいいの?
それではどのようにして予防したらいいのでしょうか。妊娠中はホルモンバランスの関係などから歯肉炎になりやすくなるとされています。歯周病の治療を行うことにより早産・低体重児出産のリスクを下げるという報告もありますが、一方で関係ないとされる報告もあります。そこには研究デザインや介入した治療の程度により結果が異なったと考察されています。妊娠中期の妊婦の歯周組織の状態改善のために治療することは有用であることはわかっていますが、早産・低体重児出産の予防のためとするには明確なエビデンスがないことから注意が必要であるとされています。つまり日常から定期的な歯科受診を怠らずお口の中を健康に保つことが重要であるといえるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?歯周病と早産・低体重児出産は一見関係なさそうに感じますが、現在様々な国や地域で研究が進み、その関係性やメカニズムが明らかになりつつあります。安全な出産とその後の子供の健やかな成長のためにも、定期的に歯科を受診していつまでも幸せな家庭を築きませんか?我々歯周病専門医・認定医は皆さんの幸せな生活の一助になることができればと考えております。